"むしる"という名の『プルドポーク』。BBQの次世代ブームになるかも
「さあどうぞ、近くで見てください」。
巨体を揺らし、オーナーが持ってきたのは真っ黒な塊だった。
正直、さすがに焼きすぎではと思ったが、これくらいがちょうど良いらしい。むしろ「この焦げ目が香ばしいし、味が濃くて後をひく。僕はこの部分が一番好きなんです」。
1つ2㎏はある肉塊に「ベアクロウ」と呼ばれる専用フォークを突き刺す。
左右に一気に引きちぎると、ほろほろとやわらかそうな肉が見えてきた。
このワイルド感は見ているだけでテンションが上がる。
ベアクロウに挟まる肉をそぎ落としながら、丁寧にほぐすこと数回。それほど力を入れなくても簡単にほぐれるらしい。
しばらく見ていると、焦げた表面とやわらかな肉質のスキマがほんのりピンク色に染まっていることに気づく。
「このピンク色は"スモークリング"といって、きちんと肉がスモークされ、炭素が入った証。美味しく出来上がった印なんです」。
肉塊をまるごと、10時間以上かけて焼き上げる
バーベキューの本場・アメリカではポピュラーな「プルドポーク」。現地では朝からお父さんたちが何キロもある大きな塊肉を10時間以上かけてじっくりと火を通し、夜、集まった皆でにぎやかに取り分けて食べる。ハンバーガーやサンドイッチに挟んで食べるのも人気だそう。
今回の「プルドポーク試食会」を企画したのは、ケチャップでおなじみのハインツ日本。世界各国で人気の料理を商品化する「ザ・グローバルディッシュ」シリーズのひとつとして、2019年4月より業務用の「BBQプルドポーク」の販売を始めている。ほぐして味付けをした状態なのですぐ利用でき、ベーカリーやカフェなどのメニューづくりに重宝されるのではないか、との狙いだ。
しかし、まだまだ日本でプルドポークは認知度が低い。
そのため、「日本でプルドポークが食べられるお店で、本格的な味とともに商品の味を知ってもらおう」というのが試食会の目的。
東京・吉祥寺「Fatz's The San Franciscan(ファッツ・ザ・サンフランシスカン)」へ
会場は吉祥寺にある『Fatz's The San Franciscan(ファッツ・ザ・サンフランシスカン)、以下ファッツ』。もとは高円寺の小さなお店でハンバーガーを出していたが、「設備を整え、本格的なBBQ料理を提供したい」と、昨年この地に移転した。
オーナー(左)のジョナサン・レヴィン氏。アメリカ・ノースカロライナにルーツをもち、いわゆる"おふくろの味"がプルドポークだったのだそう。(右はハインツ日本のご担当者)
アメリカでは週末にじっくり取り組むスタイルと、簡単に鍋で作る時短スタイルがあるらしい。
17世紀頃のアメリカ南部で、黒人労働者が考えだした調理法
プルドポークはにアメリカ南部で誕生し、今ではアメリカ全土に広がっている。レヴィン氏は「この料理は黒人労働者が苦肉の策で生み出したもの」と話す。
黒人労働制が一般化していた17世紀当時、プランテーションでは食事のため1頭丸ごとの豚を仕入れていた。しかし、脂ののったジューシーな部位はすべて白人のものになり、黒人労働者には固くて筋張った塊肉ばかりが配給された。
それをどうにかして美味しく食べようと、時間をかけて調理したのが始まりなのだという。
まずはファッツのプルドポークを試食する。
お店では「ボストンバット」と呼ばれる脂身の少ない豚肩ロースを使う。「ドライラブ」という自家製スパイスミックスをまぶしてから一晩寝かせ、レヴィン氏こだわりの大きな調理器具「BBQピット」でじっくりスモークする。
塊肉の大きさにより、10~12時間と焼く長さも変わる。アメリカではこの「ドライラブ」も、家庭により使うスパイスや塩が異なるそう。
食べる時はソースをつける。左の赤い方は、日本人にもおなじみの甘めBBQソース。ファッツではハインツのBBQソースをアレンジしている。右はお酢が効いた酸味のあるソース。アメリカではこちらの方が定番なのだそう。
ほのかな燻味があり、ほろほろとやわらかいプルドポーク。レヴィン氏が最初に言った通り、焦げ臭さなどはまったくなく、香ばしさが強い。スパイスは控えめで意外にあっさり。焼いている間に余分な脂はすべて落ちるため脂っこさがなく、噛むと豚肉の旨みが口の中にしっかり広がる。
ハンバーガーのフィリングにする場合は、さらに細くほぐす。BBQソースを絡めて味をなじませやすくするためだ。さらにコールスローをのせて一緒にかぶりつくのがファッツ流。肉肉しいこってり感とさっぱりした味わいが同居する。
タコスで食べるのも美味しかった。トルティーヤの上にプルドポークを置き、ピリ辛サルサソースをたっぷり。トマトの酸味が肉に染み込んで、これはビールに合いそうだと思った。
ハインツの『プルドポーク』を試食する
続いて試食したのは、ハインツ「BBQプルドポーク」を使ったホットサンド。ファッツの作り方とは異なり、塊肉をゆでてほぐし、ソースを和えているとのこと。
ファッツのハンバーガー同様、肉は細かくほぐされている。ソースはパイナップルのような甘酸っぱい味わいで、ひと口めから味がはっきりと分かる仕上がり。ハインツの担当氏によると「冷めても美味しく食べられるように、パンに負けないようにとあえて味を強くしている」。
この濃さだったら、チーズと合わせても負けないだろう。またサラダなどと合わせてサンドイッチにしても良いし、ソーセージドッグなどのトッピングにしてもしっかり個性が出そうな味だと感じた。
発売から3か月あまりということもあり、現在ハインツのプルドポークを仕入れている店は東京の個人店のみだそう。ただ、ウェンディーズやカフェ・ド・クリエなどでも取り扱いを始めているとのこと。
これから徐々に広がっていきそうなプルドポーク。本格的に調理するファッツのような店はまだ少数だが、ハインツを使った手軽なサンドイッチを出す店は増えそうな気がする。できることならぜひ、家庭用も発売して欲しいと感じた。