【雑感】黛冬優子【紅茶夢現】
酸素がない場所で人間は生きていけるだろうか。
当然、生きていけないだろう。
【紅茶夢現】とその前提となるコミュ群についてのオタクの妄言。
三文ノワール
時計を止める話
発火1/2
喫茶店で打ち合わせをするプロデューサーと冬優子。
プロデューサーが電話で席を立った後に近くの席のアイドルファン達の言い争う声が聞こえてくる。
どうやら推していたアイドルが引退してしまったらしい。
今後の応援のスタンスで言い争っているようだった。
どんなに情熱を持って応援していたとしても、推しが表舞台に出てこなくなってまで応援をし続け羅れるような人間はそう多くない。
「今って、いつまで今……?」
ふと、溢れた。
「今がずっと続けばいいよな」
「それでも俺は プロデューサーだから」
冬優子にとって”今が今じゃなくなる日”は必ず訪れる。
彼女にはプロデューサーの言葉が要領を得ていないように感じられた。
君はまだ何も聴いてない
映画のワークショップに参加した冬優子。
その演技力は圧倒的だった。
彼女の演技を見た映画監督は「アイドルを辞めて、女優にならないか」という誘いを口にする。
彼は過ぎゆく時の流れへの抵抗として映画を撮ることを選んだ。
俳優の姿をフィルムに焼き付けることによって、美しい幽霊として100年後の未来へ残し続けたいという想いを持っていた。
その誘いを彼女は断った。
ふゆはアイドルだからと。
「いつか忘れられたり、消費されるだけかもしれませんけど
それでもトップアイドルになるって決めたからーーー」
そう、いつも通りに息を吐いた。
冬優子はその話をシャニPにしない。
代わりに問いかける。
アイドル÷黛冬優子=という問いは、黛冬優子がアイドルであるために必要な物は何であるかと読み替えることができる。
きっと、その答えはさっき吐いた嘘なんだろうと思った。
【幕間】IDOL-ing
今でこそ黛冬優子は「ふゆ」に誇りを持っており、これが「ふゆ」と胸を張れるアイドルを目指しているが、「ふゆ」を最初に作った理由は自身が愛されるためであった。
それを目的として尋常じゃない努力ができるほどに、その欲求は強く冬優子の根底に根ざしている。
また、冬優子はそのままの自分ではその欲求を満たすことが難しいと感じているが、その一方で【G.R.A.D.】や【multi-angle】で語られているように作り上げた「ふゆ」だけが愛されていることに一抹の寂しさも感じている。
だからこそ、家族やストレイライトの仲間、そしてプロデューサーからそのままの自分を愛してもらえる今のことを心の底から大切にしている。
特にプロデューサーは初めて「ふゆ」じゃない冬優子を認めて愛して(Likeの方)くれた他人であり、冬優子側から見た彼は"共犯者“という言葉よりももっと大切な存在となっていた。
※その感情がLoveなのかは諸説あり。現時点で結論はつけられない。
冬優子にとって「ふゆ」は自分であって自分でない。
【名モナキ夜ノ標ニ】では、冬優子のアイドルでない時間のことが話されている。
我〉-汝〈のコミュでは冬優子がアイドルじゃない冬優子としてプロデューサーといる時間にアイドルの「ふゆ」の話をしようとして辞める様子が見られる。
一方で【S.T.E.P.】では、冬優子が「ふゆ」と共に歩む日のことを〈我-汝〉のコミュで描いている。
冬優子にとってはどちらの時間も必要な物なのだ。
冬優子の「トップアイドルになる」という夢は紛れもなく本物だ。
但し、その前提には幸せな今がある。
夢を掴んだ先で今を失ってしまうことがわかったなら、黛冬優子はその手を伸ばし続けていられるのだろうか。
向上の出口
本格的に映画の撮影が始まった。
冬優子に同伴するプロデューサーはカメラの中で圧倒的な輝きを放つ冬優子の姿を目にする。
「アイドルという道はその少女にとって最良の道だったのだろうか?他にもっと幸せになれる道があったのではないか?」とプロデューサーはしばしば思案する人間だ。
目の前で冬優子が放つ輝きは、彼女の未来にある"アイドル"でない道をかつてない程に眩く照らしていた。
冬優子は人の思考の機敏を読み取ることが得意である。
それもここまで隣で歩んできた共犯者が今考えていることなど手に取るようにわかるだろう。
(そもそもプロデューサーは考えていることが顔に出やすい部分もある)
逡巡する彼を見て冬優子は「あんたも入っちゃえば?カメラの中」と問いかける。
プロデューサーはカメラの中に入れない。
冬優子にはわかっていたことだ。
映画監督に女優という道を提示された時プロデューサーに相談することができなかった理由はこれだろう。
きっと冬優子は、アイドル達のアイドルでない未来のことをも真剣に考えてくれるプロデューサーの脳裏に"共犯関係"の解消がよぎることを恐れていたのではないかと思った。
幻冬
そうして映画は完成した。
少女"ユウコ"と主治医。
彼らは少女の持つ不思議な力を使い人々を救済する旅をしていた。
しかしユウコは体が弱く、その寿命は僅かしか残されていなかった。
旅の中で彼らは義体開発者に出会う。
義体開発者はユウコの力を目にし、ユウコの体を義体にしないかという提案をする。
義体となれば永遠の時を生きることができ、その分多くの人たちを救済することができると。
映画の登場人物達にはそれぞれ下記の人物が重ねられている。
ユウコ=冬優子
※正確には冬優子-「ふゆ」であり冬優子のアイドルでない側面を指す。
主治医=プロデューサー
義体開発者=映画監督
ユウコの寿命はアイドルとしての賞味期限を示しており、義体となることは女優となってフィルムの中で生き続けることを示している。
義体開発者の提案に対してユウコの本当の幸せが何であるのかを思案する主治医。
ユウコの本当の願いはただ主治医と共にいつまでも歩み続けていたいというものであったが、彼女は主治医に対して本当の願いも、嘘も口にすることができなかった。
そんな中で彼女は永遠を見つけてしまう。
時が流れて主治医との別れが来ることが約束されているなら、時間を止めて仕舞えば良い。
彼女は水の中にその身を投げ、大切な人の脳裏で永遠を生きる、美しい幽霊となった。
※映画の解釈についてはまだまだ途中なので、主治医と心中した等の他の説も追いかけたい。
後述するがノンセンス・プロンプにおいて嘘は冬優子が生きるために必要な酸素として扱われている。
ユウコ=冬優子と考えるのなら、ユウコは嘘を吐かなかった(吐かなかった)から命を落としたのだろうと考える。
映画を観たプロデューサーは賛辞の言葉を口にする。
演技のこと、シナリオのこと。
そんな彼に対して、冬優子は問いかけずにいられなかった。
ノンセンス・プロンプ
時計を直す話
我我何時/異化憧憬
このコミュで語られる時計はアイドルとしての黛冬優子の時間を暗喩している。
アイドルに遅刻は許されないとは冬優子の談だ。
冬優子はアイドルの時間から取り残されてしまった。
つまりこれから話されるのはアイドルでない時間の冬優子の話。
ある日、疲労が溜まっているように見えた冬優子にプロデューサーはリフレッシュを提案する。
いくつか提示された案の中から彼女は美術館を選んだ。
館内を見ていくうちに冬優子の目にひとつの絵が止まった。
溶けた時計、サルバトール・ダリによって描かれた「記憶の固執」と呼ばれる絵だ。
この絵には進行する時間と死の恐怖というテーマが込められているとも言われており、アイドルである”今”とその先にある”終わり”のことを、【三文ノワール】での顛末を経て考えることが多くなってしまった冬優子の心に響くものがあったのだろう。
そうしているうちに、冬優子の時計は動かなくなってしまう。
鏡像去来/周縁回帰
かつて人気だった遊園地のリポートの仕事が舞い込んで来た。
今では設備も古く来場者数も全盛期とは程遠い。
冬優子のやる気は高かった。
アイドルの力でかつての熱を取り戻すことにやりがいを感じたようだった。
リポートをする中で冬優子は時計をなくしてしまったことに気づく。
リポートの後、プロデューサーの誘いで冬優子は観覧車に乗った。
古い設備だったこともあり、観覧車もさながら時計板のように停止してしまう。
止まった観覧車の中で冬優子はリポートを通して感じたことを話す。
「やれることは全部やった。
だからこそ、これで上手くいかなかったときのことが怖い。
いつかは止まるもの、流れには勝てない。
今が今じゃなくなって、好きだって言ってくれた人がいなくなって、
思い出してくれる人がたまに来るだけのものになって、なんてね。
変わらない物なんてないんだから、そうして誰もいなくなって……」
「それでも 一人だけいるかもしれない」
遊園地の話だよ。
不斎原子
冬優子の独白。
嘘 それは嘘
(ばかばかしくて だからこそ)大切な
(ふゆの)酸素
ーーーーしてみせて
(ちゃんと)騙されてあげるから
(その)嘘が 尽きるまで
(箱は)まだ開けない まだ開かない
夢(なんて、近づくと
あんまり安全なものじゃないね)
騙くらかして ずっと
幽霊なんていらないから
もっともっと 長く
永遠なんかより もっと
あんた自身
まだ気づかないその嘘で
三文ノワールとノンセンス・プロンプのネタバラシ。
黛冬優子は"今"という時間のことを何よりも大切にしていた。
「トップアイドルになる」ことは紛れもなく冬優子の夢であるが、それよりも"今"という時間を失うことの恐怖が強いのであれば、それは彼女の中では嘘と呼ぶものなのかもしれない。
今日、そんな彼女の時計を直したのはプロデューサーだった。
夢を叶えた先にも、"今"が続いていると。
俺が最初で最期のファンとして"今"を続けさせると。
そんな約束をしてくれた。
わかった。
今は騙されてあげよう。
「トップアイドルになる」ために先へ進もう。
時を止めて永遠を生きる幽霊はいらない。
また、ここからは「ふゆ」の時間。
【幕間】知らなくていいこと
ふゆ時間。
長々と語らせて貰ったがこれらは知らなくていいことなのだろう。
その嘘を本物にして、その先でも冬優子が生きるために必要な嘘を”共犯者”として共に紡ぎたい。
紅茶夢現
時計が止まる話
賢
「あんたが私を要らないなら……!!どこに生きる意味があんのよ……!!」
その台詞を口にした時、彼女の脳裏にいつかの記憶が蘇った。
小さなすれ違いの積み重ねで冬優子は"共犯者"と道を違えた。
数年前、冬優子は283プロを退所し別の事務所に移った。
途端に人気に火が付き、それから目の前の仕事を必死にこなすうちにいつの間にか夢であったトップアイドルになっていた。
久しぶりオフを次の仕事への準備に充てようと思っていた所にマネージャーからちゃんと休むことと釘を刺された冬優子は、一人で物思いに耽る時間を過ごすことにした。
紅茶を飲みながらこれまでのことに思いを馳せる。
ふと、懐かしい声がしたような気がした。
声の方向を向いてもそこには誰も居なかった。
過去のことを想う時、真っ先に思い出すのはあの時の選択だ。
「これで合ってたのよね ふゆ」
なりたかった、なったはずの自分に問いかける。
【オ♡フ♡レ♡コ】で見上げた空を思い起こさせる。
こんなに狭かったっけ……?というぼやきには彼女の寂しさが込められているように感じる。
ふと見た砂時計の砂は落ち切っていた。
彼女の"時"はもう進まない。
孝
専門学校時代の友人と談笑をする冬優子。
同級生からアイドルを辞めてしまった理由について問いかけられる。
その問いかけに対し、冬優子は一番充実していた時間がいつだったかを同級生に問い返す。
冬優子にとってそれは夢を叶えた先ではなく、夢を叶えるためにたくさんの愛に囲まれながら努力をしていた日々だったのだろう。
「トップアイドルになる」という夢を叶えてしまった冬優子は酸素を失ってしまった。
その夢の前提にあったかつての大切だった時間が、自分にとってかけがえのないものだったことに気が付いた冬優子はアイドルとして生きる意味を見失ってしまった。
そんな時、冬優子とプロデューサーは偶然に鉢合わせる。
ぎこちない言葉を交わす中で、プロデューサーはかつての担当アイドルに「たまには顔を出してくれ」と言葉を振り絞る。
この再会はなんとなくだが、【W.I.N.G.】での冬優子との出会いを思い出す。
もしもこの時、冬優子があの日のように「今、この瞬間ーーーー」と考えてくれていたのなら。
冬優子が失ったものは、もう二度と手に入らないものではない。
この先冬優子が幸せになれる選択肢はたくさんあると信じたい。
本当はとても弱い彼女が勇気を振り絞って幸せを取り戻そうとするのなら、その願いを叶えるために再び”共犯者”になりたい。
候
これまで【紅茶夢現】の中で語られてきた物語は冬優子の見た夢の話だった。
冬優子がプロデューサーのことを誘って観に行こうとしていた、「アイドル界でトップを極めた子がなぜか突然、引退してしまう」という内容の映画の予習をしているうちに眠ってしまい、その映画のアイドルを自分に重ねた夢を見てしまったようだ。
無論、【三文ノワール】の物語を通して冬優子が"共犯者"と道を分つ未来について考えるようになっていたことも理由に加わるだろう。
右葉曲折ありつつも、冬優子とプロデューサーは予定通り映画を観に向かうこととなった。
【さあ、幕をあげましょう!】アテンド
2023年クリスマスコミュ……の皮をかぶった【紅茶夢現】の真のTRUEエンド。
冬優子によるアテンドはここまで。
今度こそ嘘が尽きたその先も、一緒に歩み続けると約束しよう。
未来(ふゆ)よりももーっと素敵な時間をくれるんですよね?
プロデューサーさん♡