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特別という名の籠【ユーフォ3感想】
アニメ 響け!ユーフォニアム3を見ました。
主に11話「みらいへオーケストラ」12話「さいごのソリスト」13話「つながるメロディ」の感想を書いていきます。
〇籠の開け方はもう知っていた
11話「みらいへオーケストラ」、ここから展開は原作と大きく乖離した。
関西大会の直前に行われた久美子の演説は、原作では全国大会のオーディションの直前に行われており、これを最後の山場として物語は幕を引く。
それぞれの部活に対するスタンスの違い、いわば”青春の価値”を話しの軸とした原作に対して、一方でアニメでは部活を通した久美子自身の成長、久美子が3年間の果てに何を得て未来へ飛び立つのかというところを軸として描いている。最後のシーンから逆算されて構成されたものがアニメ 響け!ユーフォニアム3なのだ。
全国大会を控えた久美子たち。これまでのコンクールと違い、全国大会では結果を残しても次の大会に繋がるということはなく、大会の終わりがそのまま部活の終わりとなる。否応なく未来に向き合う時期になっていた。
久美子はいまだに自分の進路、未来を決めかねていた。久美子に音楽に触れていてほしい、自分にとっての特別であり続けてほしいと思う麗奈は、久美子をみぞれの通う音大の定期演奏会へと誘う。「やっぱり音大は嫌なの?」という麗奈の問いに久美子はまだ答えることができない。
その後、麗奈が久美子に部長失格と言ってしまったことを謝る麗奈のことを久美子が許すシーン、久美子と麗奈は大好きのハグをする。希美とみぞれによって大好きのハグという行為に付随された別れの文脈をどうしても考えられずにはいられない。
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麻美子との会話の中で進路についての「音大は?」という問いに対して久美子は「音大はないかな」と、麗奈の前では答えられなかった答えを口にする。久美子も麗奈と同じように、自分が音楽から離れることで麗奈との関係が特別でなくなってしまうことが怖かったのだと思う。
みぞれの出演する演奏会に来た久美子と麗奈。合流した夏紀、優子、そして希美のやり取りを見た久美子は「いいよね、卒業してもああいう関係」と呟く。ここにいないみぞれも含めて、音楽という繋がりがなくても希美たちは繋がっていられているのだった。
みぞれの演奏を聴いて、久美子は一年後の未来に自分が大学で、より高みを目指してユーフォニアムを吹いている自分の姿を想像することができなかった。久美子の決意は、固まった。
演奏会からの帰り道、久美子は「私、音大には行かない」と告白する。麗奈は「じゃあ、久美子とはこれで終わりにする」と答えた。久美子と連絡を取らなくなって、どんどん距離が離れて行くくらいなら今ここで終わりにして、今の2人の関係を保存しておきたい。特別のままで居たい。
久美子は麗奈に近づいて、手を取り、籠を開けるための言葉を口にする。
「平気だよ。私たちは変わらない、麗奈”は”特別だから。私にとって唯一変わらない、私の特別だから」
「じゃあ、もっと特別になってくる」
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「麗奈”は”特別だから。私にとって唯一変わらない、私の特別だから」と久美子が口にするシーン。久美子の姿がぼやけ、麗奈の姿がクリアになる。
高坂麗奈という青い鳥、黄前久美子という青い鳥は共に”特別”という名前の籠の中に囚われていたのだと思う。久美子はこの言葉で籠を開けたのだ。
籠の開いた鳥は”もっと特別”になるために、羽ばたいていく。
籠を開けた鳥は”特別”じゃなくても、前を見据えて進んでいく。
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〇幾つもの青春の価値、重ねて
ソロメンバーの名前が呼ばれていく。
「最後に、ユーフォニアム、黄前久美子」
その瞬間、喉が震えーーー
「そして、黒江真由」
ることはなかった。
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12話「さいごのソリスト」で最も大きく原作と乖離した部分。それは部員による公開オーディションの追加、ユーフォニアムソリストの変更であった。
原作とアニメの黒江真由は別人である。少なくとも成長過程で別の経験を積んで別の価値観を育んできた人間であると、視聴者が誤解し得ないようにアニメの中で明確に説明されている。真由がオーディションを辞退しようとする理由は、原作では真由自身のためであるが、アニメでは久美子のためである。
原作での黒江真由のポジションはラスボスであった。部活に対するスタンスでは久美子と絶対に分かり合う、重なることのない人間として描かれており結末からしても久美子は真由に敗北したのであろう。(戦わせてもらえなかったするのが正しいか)
”青春の価値”を描こうとした原作において、登場人物の心は強固に描かれており、例えば高坂麗奈は特別であろうとすることに逡巡をすることはない。同様に黒江真由も役割に準じた部活を楽しむというスタイルを決して曲げ得ることのない人間であり、彼女がアニメの久美子と触れ合ったとしても原作の結末が変わることはないだろう。
(久美子の上手くなりたいという想いの部分についても原作では揺らがないものとして描かれていたと思う、オーディションの結末が変わったのは久美子自身の演奏が違っていたのも要因の一つだと考える)
一方でアニメの黒江真由は、”特別”に出会わなかった黄前久美子として描かれている。特別という関係性から脱却しようとする久美子、そして麗奈が向き合わないといけない壁。
原作の真由が部活を楽しもうとするスタンスであるのに対して、アニメの真由は演奏を楽しもうとするスタンスだ。演奏に対して真摯であろうという、自分たちが周りに突き付けて、そして信じてきたもの。それを”特別”という言葉に形容されなくても、最後まで持ち続けていられるかを問われた。
投票の結果ソリストに選ばれなかった久美子は、一瞬頭が真っ白になってしまったものの、真由の表情を見て滝と話したことを思い出す。
自分はどんな大人になりたいのか。本当に正しいと思ったことを正しいといい通せる人間になりたい。悔しい気持ちを抱えながらも、彼女は大人になれた。
少し脱線するがこの公開オーディションという形式は久美子や麗奈、真由以外の部員のスタンス、青春の価値すらも露にする演出としてとても良いものだった。
一番わかりやすいのは奏だ。上手い人が吹く、という価値観に救われた彼女はそれを裏切ってでも久美子に吹いて欲しいと願い、票を投じた。彼女以外もそれぞれの思いを胸に票を投じる姿が見られる。ぜひ注目して欲しい。
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〇飛び立つ君の背を見上げる
麗奈は自分の手で、最後に久美子と2人だけで音楽を奏でる時間、特別という関係を切り捨てた。大吉山の頂上で泣きじゃくる麗奈。
「麗奈はきっと聴き分けるって、そして1番を選ぶ」
「だって麗奈は特別だから」
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「きっと負けない、麗奈は最後まで貫いたんだよ」
「私はそれが何より嬉しい、それを誇らしいって思う自分に胸を張りたい」
飛び立つ君の背を見上げる。
まぶしいなぁ。
「でも、そんな麗奈だから実力で勝ちたい」
「そして、最後は麗奈と吹きたかった」
「私、こんなにも、死ぬほど悔しい」
上手くなりたいって、そう思って吹いてきた。
麗奈みたいに悔し涙を流せるくらいまで打ち込んでみよう、そう思って吹いてきた。
ようやく久美子は麗奈と同じ景色を見ることができるようになった。
これから向かう空が違くても、同じ高度で飛び続けていたい。
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〇今を生きている私へとつながっている
13話「つながるメロディ」、今の北宇治のみんなと、未来の北宇治のみんなとつながっていく話。『響け!ユーフォニアム』、特別な先輩に教えてもらった私だけの特別な曲。でも今は、真由ちゃんにも、奏ちゃんにも吹いて欲しい。繋いで行ってほしい。
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遂に全国大会直前。北宇治の部員全員の顔と名前が映し出される。
響け!ユーフォニアムという作品は全員にドラマがある。心子がAメンバー選外となっているなど、作中で書かれなかった波乱も数多く起こっていたことを思わせる。この3年間の全てを、ここにいるメンバー全員でぶつけようという想いをひしひしと感じた。ちなみに、このシーンから最後までずっと号泣していた。
「一年の詩 ~吹奏楽のための」、原作を読んでこの曲の名前を見た時にこの曲をアニメで最強の北宇治が演奏する姿を夢想し続けた。
5年掛かった、長かった。色々あったなって。
1~2年生編の映像、きっと今はいない人たちが描いてくれたカットもたくさん詰まってるんだろう。
このアニメに携わってくれた全ての人にありがとうと言い続けたい。
冬を超え、また新しい春が始まる。
久美子たちの最後のコンクールで、北宇治は全国金賞を獲ることができた。
優子先輩の関西大会敗退の時の涙が心に残り続けていたから、優子先輩にこの日の感動を生で浴びて貰うことができた本当に嬉しかった。
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ディスコ・キッド、また新しい1年が始まる。
少し古くなった張り紙、苦しかったコロナ禍の残骸、この世界の2024年の春を思わせる。
黄前久美子は”今”北宇治高校の指揮台に立っている。
夢中で特別に、音楽に向き合い続けた日々を胸に。
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