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【映画の感想】スパイダーマン ファー・フロム・ホーム

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)
※フィルマークスに投稿したものの転載

クイーンズのティーンエイジャー、ヨーロッパへ。

ともすればバトル一辺倒になりがちなスーパーヒーロー映画だけれど、本作は主人公が高校生なのを活かして青春コメディとしても楽しめる作品となっている。欧州各国であれやこれやと悩みごとを抱えながら街中を飛び回るスパイダーマンの姿は見ているだけでも楽しいし、ウェブ・アクションは過去最高と言っていいほど創造性に満ちている。

「エンドゲーム後の世界」というのは、人類全体にもスーパーヒーローにも新しい生き方を迫り、自分なりの答えを出すことが求められる。現実世界でも戦争や災害が社会全体をリセットしてきたように。

そのような背景を抱えつつ本作で語られるテーマは、作品全体のコメディ多めな雰囲気とは裏腹に重たく、リアル。詳しくは後段のネタバレ感想にて。

看板作以外も含めると既に多数の作品でスパイダーマンを演じているトム・ホランドの演技は、既に「スパイダーマンはトム・ホランドじゃなきゃ」と感じるくらいにしっくりくるし、最初はイメージと違う気がしていたMJも独特の魅力を感じさせる。ネッドに至ってはもはやいて当たり前の馴染み方。
何度かリブートを経ている映画版スパイダーマンだけれど、設定を大きく変えた本シリーズも僕らが観たいと思っていたスパイダーマンを超えて楽しませてくれる。


(以下スペースの後にネタバレあり。鑑賞後の閲覧をおすすめします)






過去作品の描写を伏線として引っ張ってくる手法はシリーズが長く続いているアベンジャーズ 作品ならではのサプライズで、世界の広がりを感じさせる。

「次のトニー・スタークになるか?」という問いへの答えを出すための戦いとして、トニーが生んだ闇とも言うべき敵を持ち出すのは面白い。トニーの生んだ闇多すぎでは?という問題はあるにしても…。

本作は二つの大きなテーマを抱えている。一つは次のトニーになるか問題を通じた、スパイダーマン自体の大テーマである「力と責任」。もう一つは、敵の能力とも関連する「期待と偽装」。それぞれを別々に描くのではなく、相互に影響し合っているのも面白い。

自身を親愛なる隣人と認識しているスパイダーマンだけれど、アベンジャーズとしての活動を通じて既に世界中から求められるヒーローとなっている。本作が「ファー・フロム・ホーム」なのも、ニューヨークにとどまっていられない状況を象徴しているのだろう。大いなる力には大いなる責任が伴うという有名な言葉がまた重要な意味を持つ。力というのは「人からの期待の大きさ」でも大きくなる。

その「期待」を利用してやろうとするのが本作の敵役、ミステリオ。しかもその手法が「フェイク」である、というのは大きな皮肉。

劇中でも「正体を隠している」ことへの後ろめたさに触れられたけれど、アベンジャーズの中で意図的に正体を隠しているのはスパイダーマンだけだ。彼がティーンエイジャーだから、という理由づけのための年齢改変だったとしたら興味深いけれど、世の中に対してある意味で「嘘をついている」ことには変わりない。

スパイダーマンは自身の力によってミステリオの「フェイク」を打ち破る。それは人々の期待に応えることの過程で嘘を破壊するということであり、スパイダーマンの正体を周囲に明かし始めることと連動する。テーマに対して非常に考えられた展開だと思う。

力あるところに嘘は存在しがたい、ということか。だからこそ、エンドロール後の展開につながっていく。トラブルに立ち向かうのではなく常にトラブルに追いかけられるのはスパイダーマンらしくてよい。

最後に、これは深読みの深読みかもしれないけれど、マーベルがヒーローにフェイク問題と対峙させたこと自体が興味深い。フェイクを通じてリアル社会を描き出すのは随分な皮肉だけれど(この地球にもsarcasm(皮肉)はあるだろ?という台詞もありましたね)、そもそもキャプテン・アメリカだって第二次大戦を背景に生まれたキャラクターであり、リアル社会の情勢と連動させるのはむしろ原点回帰に近い。

これまでアベンジャーズは強大な宇宙の敵と戦ってきたけれど、これからは矮小ながら根深い地球の問題を象徴する敵と戦うのかもしれない。マーベルシネマティックユニバースフェーズ3最終作とされる本作でその方針転換を示したのだとしたら、今後の作品がどうなるか気になるところだ。

とはいえ、宇宙の脅威と戦ってきた姿を見た後で、実はxxxxな敵と戦うのを見ても緊張感が抜けてしまうのは確か。今後地球の問題と戦うのだとしたら、アベンジャーズまでで培ってきた「すごいヒーローが強大な敵と戦うド迫力な展開」への「期待」とどう向き合うかは重要なポイントになるだろう。
(でも、ラストのフューリーの様子などを見るとやっぱりまだ宇宙か…?)

#映画 #映画レビュー #スパイダーマン #ファー・フロム・ホーム

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