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彼と森。

 彼と出逢って3年。付き合って約2年。
 彼のことが分からないでいた。

 いつの間にか”森“に迷い込み、今の今まで抜け出せないのである。しかし、何故だかこの莫大な広さに嫌な気はしなかった。

 彼の最初の印象は暗く、寂寥感が滲み出ていたように感じた。しかしその中にも、何んだか懐かしい雰囲気と包み込んでくれそうな寛大さがそこにはあった。そんなところだろうか。
 私は気分屋で面倒くさがり屋である。でも思いやりはある、はず。彼が一個下だとういうこともあり、お姉さん肌だったということにも最近気付いた。
 イメージ通りの彼は、あまり話すタイプでもないし表情も決して豊かとは言えない。気持ちを伝えてくれてはいるが、本心なのか信じがたいくらいに自然過ぎた。
 約2年も隣にいるのだから数えきれない程の思い出はある。ご飯を食べ、意味のない会話をし、気持ちの共有を行う。SEXだってする。その一つ一つから彼を好きになり、そして分からなかった。なぜ分からないのか、おおよその対象が“彼”というだけで自分でも何を言ってるのかさえ良く知らない。

 暗くて湿っぽいその森は静かに大きく息をしている。
 暗然に包まれる周囲を見渡すと、それ程遠くない所に光が見えた。この深い森に光は不自然だが何故か安心感がある。案外簡単に抜け出せそうだが、この絶妙な空気感が身体を動かす気分を失わせていた。

 それでも彼は優しかった。というより温かいのかもしれない。
 授業終わりの消しカスは手にのせゴミ箱に捨てる。電車に乗っても滅多に座らない。日常の気配りを忘れない人だ。車の運転中も、思っていたよりスピードが出たカーブでは、左手を私にそっと添えてくれている。SEXも素直で本能だった。
 名前も知らない多数の人に優しい彼だが勿論、私にも優しい。そんな彼に嫉妬でもしていたのだろうかと思う。
 彼の行動の一つから私への愛を感じとることは難しいことではない。それ故に、なんだか霧がかったような気がしていた。それでも、そこにはちゃんと愛が存在している。
 そんな優しさと大きな互いの気持ち、そして稀にある小さな気持ちの一致が約2年もの間、この1人の男性から私をどこにも行かせず、離さなかったのだろう。

 森には小さな木漏れ日が差し込んでいる。しかし見えてる周囲が決して明るいわけではない。その微かな光は確かに森をより豊かに、そしてどこまでも深くさせていた。
 この森には出口がある。それでも抜け出せないのは何故なのだろうか。それとも、そもそも抜け出す気なんて私には微塵も無いのかもしれない。

 ふと周囲を見渡すと、霧消した絢爛な森林が広がっていた。




読んで頂きありがとう。 時間潰せたかな。