たった一社だが存在した。ハラスメントのない風通しが良い職場

大学院生のとき、試験結果が出るまでの３週間だけ働きたくて、大手百貨店のお中元カウンターでのバイトを申し込んだ。人員募集を締め切ってはいたが、面接をしてくださることになった。当日、私は店長さんを見たときに、決まったと感じた。
「今は人が決まっていて募集してませんが、少し考えてハガキで返事をします。」
と言われ、２日後、採用通知がとどいた。
……………
全員が２０才以上年上のおばちゃん達で初日から兎に角、意地が悪い。
「いいわね、若くて。」
「勉強していればよいのになんでくるの？」
「貴女はじめて？なんでいるの？」
何をやっても「違う、違う」と言われる。

３日後、出社途中に腹痛で下車し、１時間遅れてしまった。遅刻して着いたその日は、お中元カウンターの雰囲気が違っていた。
「遅れてしまい、大変申し訳ございません。」
そう言うと、
「貴女、遅刻だったの？」
と返ってきた。

その日は人数が倍増し、増えた人員は見知らぬ人ばかりだった。彼女らは、私が誰かも、勤怠的に遅刻したことも知らない人たちばかりだったのだ。
……………
ある一人が私に、
「初めましてかな？私、普段は肌着コーナーにいるの。」
と言う。
他の人は、
「私は花屋。ほら、ポイントアップでお中元コーナーが溢れているから、みんな回されたの。ラッピング教えて。」
と告げられた。
「私も入って３日で、上手く伝えられるかわかりませんが。」
と断り、何人かに包装の仕方を伝えた。
正直、我ながら下手くそだった。しかし、誰も馬鹿にしない。入口までの長蛇の列の中、大量のお中元をサバかなければならない。私に文句を言うよりも各々コツを掴み進めはじめたのだ。

異常なまでの業務量と溢れ返る人で、いつの間にか苦手なおばちゃん達とも話していた。「顔見知りがいた」とお互い感じホッとしてしまったのだろう。
……………
ここの環境は特別だったと思う。
例え入社３日でもある日は教える立場になり、入社数年でもある日には教えられる立場になる。
だから、仲間意識を強めるための特定の人への悪口がなかったのだ。

私は、学生のときの派遣のアルバイトで５０以上の店舗に入ったが、百貨店全体で人を回しているところはなかった。
どこも人の流れがないから風通しが悪く、仲間意識を強めるために誰かを誹謗中傷し、誰かに文句を言っていた。
また業務が多かろうと少なかろうと、人を固定させる。だから暇になったときに悪口が始まる。そこから流れた噂は、真実に変わり、噂になった人は声が大きい人が付けたレッテルを貼られたままだった。

くだらないと思ったが、どこもそうだった。

しかし、この百貨店だけは違った。３日目だろうと数年だろうと、包装が出来なかろうが試着室が分からなかろうが、レジを使えなかろうが、人をコロコロ回すのだった。
私も花屋に回った日もある。
だから、みんな教えてもらわなければならないから謙虚になるし、みんな教えないといけないから悪口仲間を作らない。
よって、性格のレッテルが貼られなかったのだ。
……………
最終日、荷物置き場が分からずウロウロしていた私を追いかけて来てくれたおばちゃん達を見て泣きそうになった。ずっとこの人たちと仕事をしたいなぁと思ったのだ。

その後、店長が呼んでくれて、「社会勉強になりましたか？」と聞いてくれた。

店長は、私に世の中を教えたかったから、要らないのに採用したのだろう。お中元カウンターでレジを売っているとき、モップ掃除をしているふりをしながら何度も巡回されているのを見た。見守ってくれていたのかな。
……………
風通しを良くすることは、とても難しいことだと思う。
人には、
人の上に立ちたい欲があるし、
他人を思い通りにしたい欲があるから。
新参者には威張りたいし、
縄を作っていじめることが生き残る手段と考えている人もいる。

しかし、思い通りになる他人はいないし、コントロールされた方に残るのは憤り。

それよりも何年経っても「ありがとう」を人に残せる方が素敵。
……………
キャンペーンガールをやっていたから当時は、今現在テレビで活躍している子とも、ミスコン優勝者とも働いた。見た目が華やかだったのは知識として残っているが、彼女らとのやり取りは泡のように消えている。
反面、一緒にラッピングしたおばちゃん達や、
「社会勉強」と伝えてくれた小柄な店長さんの優しい笑顔は未だに思い出す。
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風通しが良い職場は、経験上、２％。だからレアではあるが、存在はする。僅かな希望だが、またいつか、風通しが良い職場に出会いたいと思う。
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