犬になった私
迷子を保護した。
美容室の帰り道、早く帰って夕飯の支度をしようと自転車をこいでいたら、男の子がひとりで号泣しながら歩いていたのだ。
交通量の多い大きな道路の歩道で近くに保護者らしい大人もおらず、泣き喚く男の子は圧倒的違和感。間違い探しの間違いのようで、「ダウト!!」となぜか私は心の中で叫んでしまった。
慌てて自転車を降り声をかけ、名前を聞いても歳を聞いても家を聞いても要領を得ず。犬のおまわりさんはこんな気持ちだったんだろうな・・・と一応緊急事態なのだろうがあらぬ方向に思いを爆ぜる。
私がわんわん困っても仕方がない。警察署に電話をかけ、警察官に保護してもらい、その後無事に母親が警察署に迎えに来たというめでたしめでたしで終わる話なのであった。が。
こんな武勇伝滅多にない。
夜、意気揚々と母親に電話をかけた。
「さっきさ、白髪染めてもらいに美容室行ってきたんだけどさ・・・」と序章の序章を話し始めたとたん、「あんた!もう白髪染めてもらってるの!?」と母からストップがかかった。
迷子の出現どころかその前の美容室すら終わってない。
「ああ、うん・・・最近増えて目立ってきたからさ。それよりね、」とムリヤリ続きにうつる。
「・・・でね、その子が泣くもんだから、私はなぐさめたわけよ。大丈夫!お姉さんが一緒だから!!って。」
ここでまた母から物言いがつく。
「お姉さん!?まーーーなんて図々しい!!」
やはりか。
そこは現場で自分でも迷ったのだが、さすがにまだ自分をおばさんと呼ぶのは憚られたのだ。
今時期マスクをしているのだし、お姉さんと盛ってもいいのではないかと出来心だったのだが、母上はそれを許さなかった。
「てか、、、たぶんその子の母親はあんたより年下なんじゃないの?」
げふっ
そ、そうか。あの男の子は4歳といった。
ならば母君は私より歳下の可能性は高いか・・・。
迷子を助けたんだよ!というドヤァな話のはずが、電話を切った後も苦いもやっとした感情だけが残った。
そして。酔っぱらった大人の相手をする方が迷子のこどもより何倍も大変だなとしみじみと感じた。
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