#日々のこと/誕生日の朝
34歳になった。誕生日の朝、東京は雪予報でひどく冷え込んでいた。熱い湯を張ったバスタブからモワモワと立ち上る湯気で霞がかって幻想的な浴室。わたしはからだを丸めて湯船に浮かんでいて、外の寒さのせいでお湯はいつもより早く冷めていった。朝の浴室は曇り空でも窓から自然光が入って明るいし、あたりは静かで朝の入浴はすがすがしい気分になれるから好き。ラッコみたいな体勢で真上の天井を向くと耳の穴の中までお湯に浸って、心臓の音が強調して聞こえてくる。34年前の今日、大雪の中生まれてきたわたしにはふさわしい空模様だと思った。かつてまだ魚だったころのわたしも母のお腹の中でこうやって丸まっていたんだ。母のお腹の中で芽生え、小さな点からすべての進化の過程をたどり、一体化していたのに知らないうちにひとつとまたひとつに分かれて、いつのまにかその記憶も忘れている。母を前にしてその腹部のあたりをじっと見てみたい。わたしと妹を生んでくれたお腹。妹は同じ腹に芽生えた同士。同じ腹から生まれた人間がもうひとりいるのは当たり前の事実じゃなくて奇跡みたいな感覚。
これから先の未来をわたしたち姉妹は一緒に生きていく。
お腹の中に小さな芽生えを感じるのってどんな気持ちがするだろう。
羊水の中で小さく丸まっていたかつての自分を真似るようにいつまでも浴槽に浮いていた。「生まれてくる」という言葉は自然の流れに導かれてただここに辿り着いたという感じ。意思を感じさせない言葉。わたしの意思で生まれてきたかったのかなんて覚えてないけど、“ただ”この世界に生まれて34年。結構楽しく生きている。