三姉妹長女の「おいハンサム!!」映画の感想
2024年夏、上映中の映画「おいハンサム!」を平日まっ昼間から1人で観に行く幸せを堪能してまいりました。
「おいハンサム!!」は、もともとテレビドラマでツボにはまった私。
魅力的過ぎる出演者たち、クスリと面白いあるあるな日常、おいしいごはん、そして心に響くお父さんの言葉などが印象的なドラマです。
愛を込めて誤解を恐れずに言うと「真剣なのに結果ふざけている大人たちの日常」が見どころ。
まあふざけた映画です。大好きです。
はい、地方からパンフレットも映画もお布施してきました。
映画には三姉妹とその両親、5人家族の伊藤家が登場します。
私も三姉妹の長女。長女と父親との関係も含めつつ感想を書きます。
一番の魅力は「物語が展開しない細切れ感」
物語とは一般的には普通流れがあって起承転結みたいに変わっていくもの。
しかしこの作品はその物語の体を成さない所が特徴です。
そもそも私たちの日常も1つの物語がお行儀よく進行していかない。
自分の意志や感情に関わらず、誰かが突然訪ねてきたり、誰かの影響でどうでもいいことが起こったり、その日常と事件がアンバランスに淡々と過ぎていくもの。変な人がいるし、自分が変な人にもなる。
その描き方がとってもリアルで愛らしいのがこの作品のいい所です。
ミニストーリーとしては、三女美香が謎のスカウトチームのリーダーに気に入られたり、次女里香が京都の幼馴染の和菓子屋で働いたり、長女由香が高級フレンチを我慢して断食したり。父はテレビに出て立ち上がったり。
はい、全然わからない。それで良い。それが良い。
ただ、普通の日常を淡々と丁寧に暮らすことの大切さを父源太郎は語っており有名な「たとえ明日世界が滅びるとしても、今日私はりんごの木を植える」という言葉がはちゃめちゃなシーンの締めとして大変感慨深いのでおすすめです。
魅力的なキャラクター
何より主人公の父源太郎が素晴らしい。
こんな上司がいたら最高だろうなという筋が通った言動と人を惹きつける愛嬌を兼ね備えている。
さらに母千鶴がまた淡々とした包み込むような愛が素敵で必ず夫や娘たちが帰宅したら出迎えたり、料理をしたりする姿が家を支えている感じがしてとても良い。変人のご近所さんにも淡々と。父の暴挙にも淡々と。
そして三姉妹ももちろんとても良い。
基本的にダメな男ばかり引っ掛ける。ただ厳格な愛情深い父に育てられたので深根は優しいのである。愛情深さはダメンズを引き寄せるのだ。
さらに映画もそうだけどドラマでも、この作品は脇役を脇役で終わらせない。しっかり謎のインパクトを残して印象に残す。
それこそ色んな人がいる社会を体現していて心地よいのです。
三姉妹、そして長女の役割
この映画で長女の由香演じる木南晴夏さんはしっかり仕事が出来て男性にもモテてそれなりにうまくやっているように見えます。
よく「長女はしっかり者でちゃんとしている」と思われるけどまさにザ・長女って感じ。ただ、元カレとは腐れ縁で言いたいことやりたいことを体当たりでぶちまけ、結婚間近の人生のどピークの同僚に嫉妬を燃やし最後に父の痛恨の言葉に嗚咽して涙する。
長女だって人間なのだ。
私も三姉妹の長女。側から見たら割としっかり見られて何かとそういう役回りだけど冷淡な時があったり飲み過ぎてバカもします。そして5人家族の中で両親と三姉妹をつなげるようなクサビの役割みたいな感覚はなんとなく持っています。
妹たちが変なことにならないように見守ったり、両親がいざとなったら私が前に出ていかないとという変な責任感を持っています。ここは長女長男でないと無い感覚かも。(一人っ子はどうだろう?)
そして父も一応そんな私に何かあった際には綾に頼むとことあるごとに言ってきたり、破天荒気味の母も、父と私がいるからなんか自由に好きに生きていける感を感じるのでやはり家族ってそれぞれの関係でなりたつもんだなと思います。みなさんの兄弟との関わりはどうですか?
劇中では緊急リモート家族会議が招集されますが、我が家も家族LINEで三姉妹どうでもいい話題で延々盛り上がることも多々。
兄弟で音信不通気味な夫の兄弟はそんなことは皆無なようで。
そこも三姉妹と両親の5人家族の結束感の独特さを映画と共通に感じたのでした。
昭和ではない令和でもない平成の父親像
そして特筆すべきは、父源太郎の言動は昭和の頑固親父のように「何が何でもダメ」ではなく、令和の「友達親子」でもなく、平成の「皆と対等にきちんと物言う親子関係」と言う表現がしっくりきます。
50年、60年生きてきた中で物を大切にする価値観、若い人にすんなりと受け入れられる物腰柔らかな言葉遣い。
これらが大変ハンサムなのです。
娘が父をハンサムという関係性、素晴らしいと思いませんか?
世の男性たち、特に子供を持つ、そして娘を持つ父親の皆様は是非とも一見の価値ありの映画になっています。
映像ディレクターとしての観点
とにかくすさまじいあるある小ネタのオンパレードで見る人を飽きさせない脚本力と監督の絶妙なカット繋ぎが必見です。
日常を描く映画監督といえば、巨匠小津安二郎監督、淡々と描き静かな観察眼で有名な伊丹十三監督、ドキュメンタリー的手法の是枝裕和監督、また海外ではフィンランドのアキ・カウリスマキ監督、アメリカのジム・ジャームッシュ監督などが挙げられます。
このような日常にはただ日常では面白みがなく、日常を自然に魅せる演技力とカメラワークと演出力と編集力、そして日常の些細な事件を日常に描く脚本力が試されます。
ここに、全てが備わり、日本の食文化を残すという文化的価値も大きい本作は隠れた名作と呼ぶにふさわしい映画だと思います。おすすめです。
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