コミュニティの意義を「価値共創」の視点から考えてみる[3]:価値共創とイノベーション
※このブログは、コミュニティマーケティングAdvent Calender 2023 の12/15分のエントリーです。
前回は、価値共創について書きました。今回は、価値共創の考え方がもたらすイノベーションへの影響について書きたいと思います。
価値共創とイノベーション
価値共創という考え方は、価値の捉え方が、企業が一方的に定めたモノの価値とお金の交換から変化したことを示しています。前回書いた価値共創の説明から、価値共創の考え方を事業に取り入れると、購買の後工程での関係性を深める、いわゆるリレーションマーケティングが期待されると思われた方もいらっしゃるかもしれません。もちろんそれはそうなのですが、それ以上の期待があると思っています。
それがイノベーションへの期待です。そのひとつは端的に言えば、価値共創の考え方によって、自社にとって新たなバリュープロポジションが生まれる可能性があるということです。
バリュープロポジションは、マーケティングのSTP等によって生み出される、顧客にとって必要で、他社が提供していない価値です。繰り返しますが、価値共創の考え方で言えば、ここでいう「価値」は企業が勝手に考えて生み出すものではありません。顧客との間に「価値」が存在するので、顧客がどんな課題を抱えていて、どんな(潜在含む)ニーズがあるのかを汲み取る必要があります。もちろん顧客の声を聞く必要性は従来からありますが、それがマーケティング部署領域のみならず、事業全体にとってより必要な動きになってきているということです。
これまで考えつかなかったバリュープロポジションが発見できた場合、それ自体がイノベーションです。イノベーションとは、発明のようなものではありません。既存の何かと何かの掛け合わせという考え方をベースにすれば、例えば生産工程の改善によってコストを下げたり短納期にすることも、これまで想定していなかった顧客層向けの製品を出すことも、納品後の後工程でのリレーションシップを強化してLTVを向上させることも、それによってバリュープロポジションが定まれば十分イノベーションなのだと思います。
さらに言えば、それが例え最初は小さなイノベーションだったとしても、その成功体験を繰り返すことで大きなイノベーションを生み出す企業風土への改革にもつながっていくんではないかと思います。
ちなみに、大企業を中心に「オープンイノベーション」という言葉や活動もありますが、このオープンイノベーションは企業側が主体になって進めているものという印象です。価値共創では、価値は企業と顧客ともに主体になるので、オープンイノベーションよりももっと顧客が主体となって参加する活動が合っているような気がします。
価値共創とマーケティング活動
マーケティング活動は、古くは製品自体には手をつけず、その製品を如何に広範囲に知ってもらい、その一定割合に購入してもらうかに重きが置かれていました。けれど情報があふれ、買い手の嗜好も多様化し、購買プロセスが複雑になっている中で、マーケティング活動は、知ってもらい、買ってもらうための活動の範疇を大きく超えています。
これは価値共創の文脈でも説明することができます。
この図は、Monitor Deloitte 社が同社のレポート「価値共創マーケティング - デジタルが可能にする顧客との新たな価値の創り方」の中で発表している、同社が提唱する価値共創のフレームワークです。ここでは、企業と顧客が共に関与しながら価値を高めていく様子が示されています。
一連のプロセスの中で顧客の文脈価値を高めるために、企業は顧客の購買後の流れの中で価値共創空間を通してインサイトを獲得し、その獲得したインサイトを通じてより良い価値の提案をおこなうことで、既存顧客の文脈価値も向上し、潜在顧客に働きかけをすることもできるというものです。
従来マーケティング活動とは、図の右上の認知→訴求→比較→購買に働きかける活動を主に示していましたが、価値は顧客と共創されるものであるという考えの下では、企業は①〜⑥の活動を実現させ、場合によっては製品 / サービスの再検討をしていく必要があるわけです。
そして繰り返しますが、イノベーションは決して発明のようなものではありません。既存のもの同士を組み合わせ、新たな「価値」を生み出すことです。そしてこの「価値」を「価値共創」の視点で捉えれば、顧客の声を聞き・顧客を理解することによって生まれた「より向上した価値の提案」、それにはイノベーションと呼べるものも含まれるのだと思うのです。別の言い方をすれば、イノベーションを生み出すにはマーケティング的な視点や活動が不可欠で、顧客との価値共創のプロセスによって生み出されるもの(=企業の一方的な価値付けは、あくまで価値の提案)ということだと思います。