
まぼろし博覧会
午前3時50分。
しかけたアラームよりも30分早く目が覚めた。連れ合いは夜勤のため、今朝はひとりきりである。
水槽のライトをつけると、まだまどろんでいるのか2匹の金魚は寄り添って底でじっとしていた。エサをぱらぱらと入れると、ふよふよと水面に近づいてぱくぱく吸い込んでいた。
昨晩何を食べたわけでもないのに胃がじりじりと焼けるように痛み、食欲がわかない。以前買置いたクリーム玄米ブランを鞄に入れて、野菜ジュースだけ飲んで朝食を終えた。
さて、なんだってこの日曜日、連れ合いもいないというのにひとり、おてんとうさまより早く起きたのか。
それは、かねてより行きたいと思い続けていたさるテーマパークへ、いよいよ乗り込むからだ。
それは、静岡県伊東市にある「まぼろし博覧会」である。
私は小学三年生の時分、少年探偵団シリーズの『透明人間』を手に取って以来江戸川乱歩を愛読している。『パノラマ島奇談』をはじめとして、乱歩の作品には、この世とは思えない奇怪な世界が描かれることが多い。
以前、ツイッターでまぼろし博覧会の画像が流れてきたとき、「ここは、乱歩の世界に近いのではないか」と思い、以来いつか行かねばならぬと心に決めていた。
なによりも、館長のセーラちゃんがかわいい。その上、気さくにリプライをしてくださる。リツイートされている内容も拝見する限り、信頼に値する素敵なお方だと感じた。そして彼女がSNSにアップしている画像などを拝見するうち、いつかぜひお会いしたいと思い続けていたのだ。
しかし、私が住んでいるのは埼玉県。車も持っていないし、気軽に行くには距離がある。また、1月までなかなか休みの取れない職業に就いていたため、行く機会がなかなかめぐってこなかったのだ。
2月に仕事を辞めて休養し、3月の初頭に転職を決め、行くならば今しかあるまいと、3月24日、連れ合いも夜勤でいないことだしちょうどいいだろうと出発をきめたのだ。(連れ合いは少々気の弱いところもあるので、「まぼろし博覧会」へ引っ張っていくのは少し気が引けていたのである)
さて、早朝の川越駅、存外混んでいた電車に乗り込み、横浜まで一時間半。さらにJRに乗り換えて一時間。目にも鮮やかな海が車窓越しに見えてきて、自分はずいぶん遠くに来たものだと感じた。普段目にする海は東京湾や湘南といった、ややくすんだ色の海が多いが、この海はほんとうに深い青で、自分には非常に美しく映ったものだった。
さて、伊東駅に9時到着。バス停の時間を確認し、時間までぶらぶらと散策する。
バスに乗って山道を登り進むこと30分。やがて見えてきた看板。ここが、夢にまで見た「まぼろし博覧会」だ。
バスに乗っていた方、みなさんここにおいでかと思ったが降りるのは私ひとりであった。ほかのかたは伊東のどこで遊ぶおつもりなのか、少し気になりつつひとり入口へ。
ああ、いらした。とうとうセーラちゃんと対面することに成功した。なんて可愛らしい方だろう! ああ、想像よりもずっときれいな方! お手ては存外大きくて、それがまた魅力的だ。
しかし、ここで自分は痛恨のミスを犯した。セーラちゃん単体のお写真を撮ることをすっかり忘れていたのだ。実際に会えたことが嬉しく、いっしょに並んで写真を取って下すったことに感動するあまり、忘れてしまったのだ。いまとなっても悔いている。また会いに行くしかあるまい。
さあ、セーラちゃんに別れを告げて、えっちらおっちら坂を行く。ここでひとつ、書いておきたいことがある。自分はひどく怖がりでお化け屋敷なんかは一度たりとも行ったことがないのである。もちろん、まぼろし博覧会はお化け屋敷ではないのだが、コンセプトからして少し怖いものもあるのだろうと、ここにきて思い出したのだ。
まず、おっかなびっくり、奇抜な展示物をながめながら階段を昇り、チケット売り場へ。売り場の紳士に会場の巡り方の説明を受けたが、ここで自分は間抜けなことに、説明された1番ではなく2番の道へ突き進んでしまった。てっきりこちらだろうと勘違いしたのだ。どうかお叱り下さい。言われた直後のことである。おまえはなんて間抜けなのだと言ってくださいませ。
さあ、順番は間違えてしまったが気を取り直して進んでいこう。やってまいりましたは昭和の時代。いまは春先心地よい気候で苦にならなかったが、夏はそうとう暑かろうと思う。
自分が特に反応したのは、やはり芹沢博士とオキシジェンデストロイヤーであった。何を隠そう、私は特撮作品が大好きなのだ。見目麗しい芹沢博士にお会いできたことに感激しつつ、昭和の世界を歩いて行く。
途中二十面相や金田一耕介に反応しつつ、マネキンたちや昭和の遺産に囲まれた不思議な空間を進んだ。
やがて、昭和を抜け出して、目に入ったのは悪酔い横丁。名前からして、なかなか不穏な雰囲気をかもしている。私は一人。頼る者がいない。ひとりで目を開けて突き進むしかない。かえって、ひとりで来て良かったかもしれない。しっかりと、そこにいるものたちを見て歩くことができたのだから。連れ合いといっしょだったら、もしかしたら目をつむったまま連れ合いにしがみついていたかもしれない。
さあ、先ず出迎えて下すったのは、大量のペンギンたち。なんだってこんなにいるのかと帰宅後調べてみたのだが、伊豆には以前「ペンギン博物館」というものがあったため、おそらくそこにあったものを再利用しているのだろうと思う。また、ペンギン博物館は現在「怪しい少年少女博物館」になっているとのことで、次の機会に行ってみたいものである。
ペンギン山と、少年少女時代の思い出たちを通り過ぎると、やってきましたは秘密基地。自分的には、ここがいちばんおそろしかった。無邪気そうな解説は却って不気味さを引き立たせる。振り向けば、フランケン(写真は撮り忘れました。ふがいない)
お次は何かと思えば、陽気なパラダイス。陽気とはなんぞや。鋼鉄の処女なんてここにきて初めて見た。
ダイエットに励む女性たちの間を恐る恐る通り抜ければ、村崎百郎館。未確認生物たちのはく製や、前衛的アート、そして鬼畜系の生みの親たる村崎百郎氏の等身大人形が鎮座ましましていた。私は失礼ながらここに来るまで村崎氏を知らなかったのだが、光栄にもツイッターアカウントを村崎氏(ちなみにご本人は2010年にお亡くなりになっている。ではいったいどなたが運営しておられるのだろう)していただいているため、この機会に著作を拝読しようかと思っている。
さて、悪酔い横丁をやっとのことで抜ければ、見えてきましたはまぼろし島。そこにいたる道中、貼ってあった映画ポスター群に反応して写真を撮ってしまった。
後編へ続きます