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【官能色眼鏡】vol.6 防音室の男

今回は過去のお話。防音室、つまり「外に音の漏れない部屋」の住む男の話。

過去記事はこちらからどうぞ💕

まだ、わたしが20代後半でまだOLをやっていて駒沢のシェアハウスに住んでいたころのこと。ちょうどのこのくらいの季節に、友達の女の子が誕生日会兼ハロウィンパーティーを開いた際に、彼と出会った。

少し年上で、ノリが良くてすぐに打ち解けたので、そのすぐ後に遊ぶことになった。彼女がいることはなんとなくわかっていた。彼の家の近くでご飯を食べて、その後に彼の家にいく流れになった。

「あやのちゃん、俺の奴隷にならない?」

人生には、そう何度も言われない台詞があると思うけれど、そのうちのトップ10には入りそうな台詞を投げかけられた。彼はドSであり、わたしはドMだった。

説明が難しいのだけれど、ドSとドMは嗅覚でお互いを認識しあう。言葉を交わさずともわかってしまう。今回はそれだった。

奴隷契約書なるものまで、出してきた彼にちょっと怖くなったわたしは、様子をみたいと言って保留にした。彼はわたしに自分をご主人様と呼ばせた。

ご主人様は、音楽をやる人でそのために部屋の一室が防音室だった。キーボードやパソコンに囲まれるように、その部屋の中心にはベッドがあった。そこがメインのプレイ場所になった。

ボールギャングとか、口だけ空いてるマスクとか、大人のおもちゃもたくさん持っていて、縄も出来る。ご主人様は結構な変態だったと思う。

「お前は本当にやらしい女だな」とか「他の男とその奴隷を呼んでやるから、俺の前でめちゃくちゃ犯されてみろ」とか「俺がいいっていうまでいくなよ」とか、プレイ中は言葉も内容も容赦なかった。

おしっこも飲まされたし、お尻も舐めるよう言われた。ギリギリのラインで首も締められたし、写真もたくさん撮られた。防音室はどんなに音が出ても問題ない。

基本的に焦らしがメインなので、挿入までが長い。ありとあらゆる攻めを受けて、最後の最後にどうして欲しいか具体的に言わされて、ご主人様は入ってくる。もちろん避妊はしているが、フィニッシュ後のゴムを外してからのお掃除も口で念入りにするよう促された。

一通りプレイが終われば、ご主人様はとても優しかった。ご飯も作ってくれたし、頑張って攻めに耐えたことに対して愛情を示してくれた。経験はないのだけれど、DV夫の飴と鞭のような感覚に近いのかもしれない。

当時のわたしは自己肯定感が劇的に低く、今思えば心も弱っていたと思う。仕事は忙しくても成果は出せず、後輩がどんどん出世していく。社歴ばかり長くなって、ベテランの扱いをされるが期待に応えられるほどの頑張りもできていなかったし、頑張る気力もなくなっていた。

もちろんラブラブな彼氏もいなければ、没頭できる趣味もなかった。そのタイミングでの奴隷契約のお誘い。藁をもすがる気持ちだった。ここにくれば必要とされる。頑張れば愛される。

人の温もりにも飢えていたわたしは、呼ばれれば深夜でもタクシーでご主人様の家に向かった。でも、あらゆる物事には必ず終わりが来る。

本来はやりたくないプレイだったわけだから、心と身体がリンクしなくてはちゃめちゃになっていた。ある夜、いつものプレイ中にわたしは盛大な過呼吸になった。苦しくて、たくさん涙も出た。そのまま訳も分からずずっと号泣し続けた。

ご主人様は我に返り、たくさん心配してくれた。その日はそのまま朝までただ寝て帰った。それがご主人様と過ごす最後の夜になった。友達として、会うことはその後も数回あったけれど、あの防音室に行くことは二度となかった。

自分を壊してまで受け取るべき愛なんて、そもそも愛じゃない。なれないものになろうとしていた。間違った方向に頑張っていたわたしを、その必死さを、今はもう大丈夫だよと心の中で抱きしめている。

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