【官能色眼鏡】vol.9 十年ぶりに再会した男
その人は同級生で地元が近かった。
だからクラスメイトになったことはないけれど、割と田舎の学校の中で大学に進学しようとする人は少なくて、そういう意味でも同志のような存在だった。
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ちゃんと話したこともないまま、たまたま同じ大学に通うことになった。実家からはものすごく早起きすれば都内の大学には通えた。ただでさえ浪人で私立大に通わせてもらっている身分のわたしは、一人暮らししたいなんて言えず、電車通学をしていた。
そして、同じような事情の彼とも片道2時間を毎朝通う仲になった。学部が違ったので、お互いの授業の話や、プライベートの話。当時はわたしはモテ期万歳の時だったので、あらゆる恋話を聞いてもらっていた。
彼は例えるなら、カピバラのように癒しのオーラ全開でいつもそばで首を縦に振りながら話を聞いてくれた。
そんなカピバラくんと実は2度ほどセックスをした。
そのことを思い出したので、書き残しておこうと思う。
1度目は社会人になって数年経った頃。
地元の安定した堅実な企業の会社員になった彼が、東京に遊びに来てると連絡をくれた。
もし会えたらいいねくらいのテンションでメッセージをもらったときに、「あ、とうとう寝るのかな?」とよぎった。飲んでいる店から、もう終電がないというカピバラくんに対して、「うちに来なよ、取って食ったりしないから笑」とメッセージしつつ、肉食全盛期だったわたしはどうやって取って食おうかと考えていた。
部屋に着くなりずっとぎこちないカピバラくん。ちょっとだけ飲んで、わたしはベッドで、カピバラくんは床に寝るスタイル。確かまだ寒い冬の日、板橋のワンルームだったな。
そこから、カピバラくんをベッドに引き上げるのにかかった時間はきっと1時間くらいだった思う。無駄な押し問答の末、布団の中で見つめあった。
そこから展開されたのは驚くほど丁寧で優しく思いやりに溢れる行為。詳しくは思い出せないけれど、他の大勢とは圧倒的に違った。汗だくになりながらのそれはもう”奉仕”の精神だった。圧倒的奉仕の時間。わたしは極上の宝石か、たおやかなお花のように扱われた。
2度目は彼が当時の彼女と結婚して、一児のパパになって、マンションも買った後に、仕事の都合で東京に来ると連絡をくれたときだった。
お店選びを任せたら、遊び慣れてない彼は東京でおしゃれな店なら、プロント?と提案してきた。今時大学生でもプロントは提案してこないだろうに。結局お店はわたしが選んだ新宿の中華屋にした。2軒目はワインが飲める大人っぽい店。もう十分に二人とも大人なんだけれども。
最初、再会したときカピパラくんと寝たことを忘れていた。飲んでいる最中に思い出して、急に身体の奥がざわつく。
終電間際の時間に「この後、どうするの?」と聞いたら、
「特に決めてないんだよね」
10年前と違って、余裕ぶる彼。余裕のあるカピバラは結構ムカつく。ムカつくけどあの丁寧なセックスの記憶は濃厚に残っていて、ついうちに招いて二度目の逢瀬となった。
家族とするみたいで最初すごく恥ずかしくて、でもだんだん色っぽい空気が出てきた。相変わらずねっとりと隅々までの優しい愛撫。ゆっくりと優しくわたしの体の内側を刺激してくる。またしても汗だくになりながら、一生懸命に奉仕してくれたあとに彼も果てた。
「やっぱりすごく丁寧に抱くよね」
一息ついたカピバラくんに声をかけると1度目の時と同じ話をしてくれた。
「俺たちモテない男に、女の人は来てくれない。だから、来てくれた時には最高のもてなしができるように、いっぱい勉強したんだよ。本も買ったりして、実戦のときに余すことなく知っている技を繰り出すんだ。」
ひとりよがりなセックスしかできない輩に聞かせてやりたい。
逆にイケメンはセックスが下手だというのも一理あると思う。女が群がるし、イケメンに抱かれたらそれだけで浮き足立ってしまって、行為に不満があっても言えない。
行為の中での過ちを指摘されることのないまま、耳障りのいいことだけ言われ、時が流れるから、イケメンのセックスは成長しない。早かろうが荒かろうが身勝手だろうがそのままだ。
セックスは相手に気持ちよくさせてもらうものではなく、気持ちよくなってもらうものだ。少なくとも両者がそう思えば素晴らしい時間になる。
それから連絡も取らなくなってしまったけれど、カピバラくんを思い出すとき、あの絶対的奉仕の精神を思い出して、とても清々しい気持ちになる。
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