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乳がんになった私 #79「手術前日③-先生の言葉に涙-」

いつもの診察室に、S先生、私、内田、母、東海テレビ撮影クルーのお二人。

まずは普段通りの診察室での様子を撮影させてほしいとのことで、S先生は先ほど行った注射、センチネルリンパ節生検について話し始めた。

S先生「いよいよ明日が手術となるわけなんですが、まずは先ほどの注射についてあらためて説明しますね。今、微量の放射線が注入されていて、リンパの流れに沿って腋の下のリンパ節に流れていきます。最初に到達したリンパ節、“センチネルリンパ節”の位置を知るために、この後、撮影があります。」

私「はい。」

内田と母もS先生の話を真剣に聞いている。その様子をカメラで撮影されている。

S先生「ただ、まれに、写らないこともあるんです。リンパの流れが滞っていたりして放射線物質が流れていかず、センチネルリンパ節を特定できない、と。」

私「え…そうなんですか。その場合どうなるんですか…?」

S先生「その場合は、センチネルリンパ節生検をしない、つまりリンパ節を取らない選択をするか、もしくは、全て取るかの二択です。」

私「え…取らないでもいいんですか?」

S先生「はい。それは本人の選択です。ただ、僕は取った方がいいと思います。森さんは元々、腋の下のリンパ節への転移が確認されていたので、今消えているかどうかを検査せずに残すのは不安だなと。」

私「なるほど…まあ、もしも写らなかった場合の話ですもんね。それはその時考えればいいですよね。」

あまり触れてこなかったが、乳がん発覚当初に確認されていた右腋のリンパのしこりも、術前化学療法でかなり小さくなっていたのだ。MRIやエコーの画像でも、右胸のがんと同様、ほとんど見えなくなっていた。だからきっと、腋のリンパにも薬が効いていそうだとこれまで先生と話をしていた。

もしもこの後の撮影でセンチネルリンパ節の位置が特定できなかった場合、右腋のリンパ節を全て残すか、全摘するか、また究極の選択をしなくてはならないのか…!と、少し気が重くなった。

が、写れば問題のない話。一旦、忘れよう。


ここからは、ディレクターFさんの質問に答えていく形の取材となった。

Fさん「まず先生にお聞きしたいんですけど、森さんは、どんな患者さんですか?」

S先生「どんな…そうだなあ…すごく前向きで。最初に乳がんの告知をした時に、その後すぐに妊孕性温存療法、卵子凍結等の説明をしたんですけど、患者さんの中には、まず“がん”のことで頭がいっぱいで、その先のことまで考える余裕がなくなってしまう方も多いんですが、すぐに理解し決断して、強い方だなあと思いました。」

S先生から見た、私。なんだか照れ臭いような…不思議な感覚だ。

Fさん「森さんは、先生に言われて印象的だった言葉とかってありますか?」

私「乳がんを告知された時に、私が先生に、治療中も音楽活動を継続できますかね?と聞いたんですけど、そしたら先生が、“やれると思うよ、ロックは気合でしょ?”って言ってくれて。」

S先生「うんうん、言ったね。覚えてる。」

私「つらいはずの状況なのに、そう言われて私、嬉しくて笑いました。」

S先生「やっぱり芸術家とか、人前に出る仕事の人は、気力、精神力が大事だと思うので。」

(その日の細かいやりとりは #9 を是非↓)


Fさん「先生は、森さんがアーティスト活動をされてることは知ってたんですか?」

私「さっきの話でも言ったように、最初に、仕事で音楽をやっていてライブが決まってる、ということは伝えていたので。でも、具体的にバンド名とかは言ってませんでした。でも、こうやって取材をしていただくことになったんで…!笑」

S先生「でもね、実は僕、矢方さんとの対談の記事をYahoo!ニュースか何かで見たんです。」

私「えー!そうだったんですか!それ、東海テレビでの対談を記事に出していただいたやつですね、嬉しい!」

Fさん「嬉しいですね。」

S先生「森さん、芸能人だ〜!と思ったんですけど、もちろん次の診察の時に顔には出さないようにしました。笑」

私「芸能人!!!笑」

S先生「大変な治療をしながら、メディアに出たり発信をすることは、心身共にストレスがかかると思うんです。でも、森さんのような仕事をしている人が、そうやって前向きな姿を見せることで、他の乳がん患者さんたちも勇気をもらえたり、私も頑張ろうって思えると思うので、すごく大事なことだと思います。」

私は号泣してしまった。

自分の意思で乳がんのことを公表し、発信をすることで、自分も救われていると思っていた。いや、実際にそうだと言える。でも、S先生の言葉を聞いて、そりゃあそうかと思った。私はがんで、きつい治療中なんだ、ストレスがかからないはずないか。とあらためて気付かされた。

そして、発信をすることが他の患者さんのためにもなる、と、乳腺外科の先生の口から言ってもらえたことが嬉しかった。

発信することってただの自己満足?

バンドのファンの人はあまり病気のことを知りたくないかな?

同情してほしいみたいに見えたりもするのかな?

など、度々悩みながら発信をしてきたのだが、S先生の言葉で全てが救われた気がした。

Fさん「ちなみに先生は、Qaijffの曲を聴いたことは…?」

S先生「すいません、曲はまだ聴いてないんです。…僕ね、根暗だから、暗い音楽が好きで…森さんたちの音楽は、拳を上げて、うおおおおお!って感じでしょ?笑」

私「え!根暗?!笑   私たちの曲でも暗い曲もあります!いつか聴いてください!笑 」

診察室にいる全員が笑っていた。


Fさん「最後に…いよいよ明日が手術ですね。」

私「ですね…!がんばります!」

S先生「森さんは手術中、麻酔で寝てるだけなので。がんばるのは僕だから。」

私「あははは!たしかに!!!」

S先生「がんばります!(キリッ)」

和やかなムードで、私たちの撮影は終了。

ここからは、S先生だけに話を伺うとのことで、私と母と内田は診察室を退室した。


担当医がS先生で良かった、本当に良かった。

乳がんになってから何度も何度も思っている。

明日の手術は、S先生を信頼してこの身を任すのみだ。

(#80へ続く)
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