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【掌編小説】月明りの階段

少女のミアは、沈んだ気持ちのまま部屋の窓を開けた。冷たい風がミアの頬を突き刺す様に吹きつける。窓の外には濃い霧がかかっていて、ミアの視線は霧の奥へと向かい、焦点が定まらないままだった。

「ここから飛び出したいと思っているのに、前すら見えないの…」
ミアは呟き、無意識に唇を強く噛んでいた。

自分の無力さに嫌気が差したミアは、おもちゃのラッパに手を伸ばした。
肺一杯に空気を吸い込んだあと、ラッパを霧に向かって強く吹く。ミアの渾身の力が込められた大きな音だったが、霧の向こうの静寂へと吸い込まれていった。

「ハア、ハア」
ミアは強くラッパを吹いた反動から、酸素を求めて必死に呼吸をする。

「こんなことしたって、馬鹿みたいだわ…」
力が抜けたミアは、肩を落とし床に倒れこむ。

すると、静寂の中のミアが音を放った先、霧の中からかすかに変化が現れる。徐々に霧が薄れ、その奥から月明かりが差し込んで来る。月明かりは霧を通り抜け、その淡い銀色の光はミアの頬を優しく照らす。月明かりに気付いたミアは窓の外を見る。

「驚いた…」

月明りによって霧が階段のように輝き出す。まるでミアを誘うように、階段は夜の空へと続いていく。

ミアは窓枠に立ち、霧の階段に足を掛ける。初めの一歩は恐る恐るであったが、霧はミアの足をしっかりと支えて前へと導いていく。
二歩目、三歩目と進むにつれて、先程までの沈んだ気持ちが無かったかのように、ミアの瞳は月のように輝きだす。

ミアは軽やかな足取りで、夜の空を駆け回っていった。


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