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特定業務から始める🌱AI活用術
先日、株式会社Workstyle Evolution主催のオンラインセミナー「生成AIサミットVol.4」に参加し、AI導入に関する興味深い知見を得ました。PwCの調査によると、米国企業では特定の事業部門における具体的な活用ユースケース推進が先行しているのに対し、日本企業の多くは全社的な導入基盤の整備から始めているという特徴があり、米国企業の方がAI活用効果を実感しているそうです。この特定業務から始めるAI導入アプローチについて、セミナーで得られた情報をもとに事例を交えてご紹介したいと思います。
1. AI導入の2つのアプローチ
前述の通り、AI導入には、大きく分けて2つのアプローチがあります。
1つ目は、「全社的なAI利用促進」です。全社的なガイドライン策定や研修プログラムの実施を通じて、社員一人一人がAIを活用できる環境を整備していく方法です。組織全体で取り組むため幅広い業務改善が期待できますが、全社員の関心を高め、組織全体の仕組みを変える必要があるため、時間とリソースがかかります。
2つ目は、「特定業務プロセスへのAI導入」です。具体的な業務やワークフローに絞って、AIの活用方法を確立していく方法です。少人数からスタートでき、外部の知見も活用しやすいため、短期間で成果を出しやすい利点があります。一方で、組織全体への展開には時間がかかる可能性があります。
PwCが2024年春に実施した日米企業の生成AI活用に関する実態調査では、この2つのアプローチの違いが明確に表れる結果となっています。
「生成AIの活用効果に対する期待との差分」(図表4)を見ると「期待を大きく上回っている」企業は、日本は9%にとどまるのに対し、米国は33%と、日本企業よりも米国企業の方が生成AIの活用効果を実感していることがわかります。
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次に「生成AIの活用効果と導入部署」(図表5)を見ると、日本企業では、全社的な導入基盤を整えた上で、各業務に特化した利用を進めているのに対し、米国企業では、全社的な導入基盤の整備は進んでいないものの、個別の事業部門における具体的なユースケース推進が先行していることが確認できます。
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さらに「生成AIの活用効果が期待以上の成果を出した理由」として、日米企業とも最も重要な成功要因として「ユースケース設定」を挙げています。
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これらの結果から、米国式アプローチ、すなわち、具体的なユースケース推進に先行して取り組む「特定業務からのAI導入アプローチ」の方が成果が出やすいと導けます。
この調査では、特定業務からのAI導入アプローチの方が成果が出やすい理由については直接的に述べられていませんが、以下が理由として考えられます。
スモールスタートの利点:効果測定が容易、成功事例を作りやすく、関係者の理解や協力を得やすい
リスクの最小化:小規模な改善から始めることで、失敗の影響を限定的にできる
スケールしやすさ:短期間で成功モデルを確立してから横展開できる
特定業務からのアプローチの利点を踏まえ、実際にどのような形でAI導入を進めていけばよいのか、具体的な事例を通じて見ていきましょう。
2. 特定業務へのAI導入事例
今回私が参加したセミナーでは、AIシステムの受託開発やAI導入コンサルティング、AI活用支援などを手がける各社の経営者や実務担当者が、それぞれの立場から生成AI活用の取り組みを紹介していました。新規事業創出やマーケティング、人材育成など、さまざまなテーマの講演がありましたが、その中から今回は、特定業務へのAI導入という視点で、開発費用をかけず比較的簡単に実践できる事例を3つピックアップしてご紹介したいと思います。業務改善に取り組む皆さんのヒントになれば幸いです。
2-1. ニュース記事の選定業務へのAI導入
株式会社Workstyle Evolution 池田氏によるセッションで紹介された、同社がAI活用支援を行った安全サポート株式会社の事例です。
課題背景
海外駐在員向けに海外ニュースを提供する安全サポート株式会社では、その作成業務に課題を抱えていました。情報収集、重要記事の選定、要約、文章化という一連の作業に多くの時間がかかり、また特定の担当者に業務が依存している状態でした。特に記事の選定作業は、過去の知見を活かしたチェックが必要で、膨大な工数を要していました。
取り組み内容
業務プロセスを分析し、各工程でのAI活用方法を検討しました。業務全体を以下の4つの工程に分け、それぞれにおいて最適な改善策を実施しています。
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情報収集:この工程では(AIではなく)Google Apps Script(Googleが提供する業務自動化ツール)を活用し、情報収集と保管を自動化
ピックアップ:ニュースタイプごとにGPTsを作成。GPTsに熟練者の選定基準をプロンプトに反映して組み込むことで、AIによる高い精度での選定を実現
要約:生成AIを活用して一次原稿を作成。ただし、情報の正確性を担保するため、参照元データは必ず残す仕組みを構築
仕上げ:素案作成をAIが支援しつつ、最終的な確認と修正は人間が実施
【補足】GPTs(ジーピーティーズ)とは:
GPTsは、ChatGPTをカスタマイズして独自のAIアシスタントを作れる機能です。ChatGPT Plusの有料ユーザーのみが作成でき、作成したGPTsは他のユーザーに共有も可能です。特定の分野や業務に特化したAIアシスタントとして活用できます。
導入効果
ニュース作成の工数を6割削減
担当者による品質のばらつきを抑制
事例のポイント
この事例で特に注目したいのは、全員が使いこなせる仕組み作りです。GPTsにノウハウを組み込み、「特定のページを開き、これを入れると、こういうアウトプットになる」ところまで標準化することで、誰でも活用できる環境を整備しています。また、完全自動化ではなく、重要なチェックポイントでは人間による確認を残すことで、品質と効率化のバランスを取っているのも素晴らしいですね。
セミナーでは、今後この事例をクライアント社内で横展開される予定との話がありました。一つの業務での成功体験をもとに、段階的に活用範囲を広げていく方針は、特定業務からAI導入を始める際の理想的なアプローチといえそうです。
2-2. 契約書作成業務へのAI導入
株式会社Hitamuki 代表取締役 澤田氏によるセッションで紹介された事例です。契約書作成業務のように専門性を必要とするバックオフィス業務でも、開発費用をかけずに既存の生成AIツールを活用し、プロンプトのみでできる事例として紹介されました。
取り組み内容
以下ステップにChatGPT活用を組み込み、業務を効率化しました。
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作成:契約内容をベースに、現場社員がChatGPTを活用して、契約書草案を作成、微調整
レビュー:チェックプロンプトを利用して、内容をレビュー、修正
確認:提出された契約書を社内ルールに沿ってChatGPTでチェック
完成:専門部署の担当者が最終確認、修正
セキュリティ面では、クライアント情報をマスキングすることで、パブリックの生成AIツールでも安全に活用できるよう工夫していました。
「チェックプロンプト」の詳細についてはセミナー内で言及はありませんでしたが、契約書作成の際のチェック観点を、その企業の事業特有の留意事項などに重点を置いて、プロンプト内に記述したものと推察されます。
導入効果
約20%~40%の作業工数削減
事例のポイント
この事例の興味深い点は、セキュリティ配慮とコスト削減の両立です。機密情報を含む契約書でも、適切なマスキングとガイドラインの整備により、パブリックの生成AIツールを活用できることを示しています。また、専門部署の確認は残しつつも、現場社員が主体的に契約書作成に関われる仕組みを構築したことで、業務の効率化と分散を実現している点で、特定業務に絞ったAI導入の好例といえるでしょう。
2-3. 提案書作成業務へのAI導入
3名のAIエキスパートによるパネルディスカッションの中で紹介された事例です。このセッションのテーマは「RAGの課題とベストプラクティス」だったのですが、その中で「一見RAGを使いそうなのに、実際はRAGを使わない解決策が適していた事例」の一つとして紹介されました。
【補足】RAG(ラグ)とは:
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AIの技術の一つで、質問に対して正確で詳細な回答を提供する方法です。通常の生成AIは事前に学習した知識に基づいて回答を作成しますが、RAGでは外部のデータベースや文献を事前に用意し、AIがその情報を検索してから回答を生成します。これにより、最新の情報や特定の事例に基づいた、より信頼性の高い回答が得られます。RAGを実装するには、生成AIに検索機能を組み込むためのシステム開発が必要です。
課題背景
ある企業では、年間100件ほどの企画提案を行う中で、過去の提案書(数百件)の中から新規提案に活かせる類似事例を探し出し、活用する方法に課題を抱えていました。当初はRAGを使って過去の提案書を全て読み込ませ、AIが自動で類似事例を検索・活用する方法を試みましたが「精度が低く使えない」という結果に。そこで、より簡単で効果的な方法を模索することになりました。
取り組み内容
当初予定していたRAGの利用をやめ、人手と既存の生成AIツールを活用し、プロンプトのみでできるフローを構築しました。
1. 過去の提案書データの整理
・【人】提案書の内容を一覧化するExcelフォーマットを作成
・【AI】提案書のカテゴリー分類をプロンプトで自動化
・【人】アルバイトが提案書の内容をExcelに入力(単純作業なので2-3日で処理可能)
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2. 提案書作成の仕組み化
・【人】新規提案の背景状況やテーマを書き起こす
・【人】Excelから類似テーマの過去事例をコピーする
・【人】コピーした内容をプロンプトのフォーマットにペースト
・【AI】作成したプロンプトを使って新規提案内容を文章生成
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このように、検索は人間が行い、文章生成部分のみAIを活用するシンプルな方法で、高い精度を実現しました。
導入効果
提案書作成の効率化を実現
テーマごとに最適化されたプロンプトの再利用が可能に
事例のポイント
この事例で特に注目したいのは、むやみに高度な技術を導入するのではなく、業務の特性を見極めた上で最適なフローを構築した点です。「提案書の種類は数十種類程度」という特性を活かし、人間による確実な検索とAIによる効率的な文章生成を組み合わせることで、高い精度を実現しています。
「何千パターンもあるならRAGが有効だが、何十パターンしかないなら手動で作った方がいい」という判断は、開発コストと運用の手間を考慮した現実的な選択といえます。
これは特定業務に絞ってAIを導入する際の重要な示唆を含んでいます。業務改善において重要なのは、最新技術の導入ではなく、その業務の特性を見極めた上で、最適なフローを構築することなのですね。
3. 特定業務へのAI導入のポイント
ご紹介した3つの事例には、特定業務へのAI導入を成功に導くいくつかの共通点が見られました。
業務特性の見極め
導入する業務のプロセスや特性の十分な理解が重要です。むやみに高度な技術を導入するのではなく、業務の特性に合わせて最適なフローを構築することがポイントです。
現場が使いやすい仕組みづくり
AIの知識の有無に関わらず、誰でも活用できる仕組みの整備が重要です。「特定のページを開き、これを入れると、こういうアウトプットになる」というレベル感まで標準化することが理想です。
セキュリティと信頼性への配慮
パブリックのAIツールでも、適切な対策を講じれば安全に活用できます。契約書確認業務では、クライアント情報のマスキングとガイドラインの整備により機密情報の取り扱いに対応しています。また、ニュース記事のピックアップ業務では、参照元データを残す仕組みの構築によって情報の信頼性を担保しています。
これらのポイントは、特定業務へのAI導入を検討する際の実践的な指針となるでしょう。
4. おわりに
今回ご紹介した3つの事例はどれも、システム開発はせず、既存のツールをうまく使いこなすことで、業務を効率化していました。技術ありきではなく、「この業務をより良くするには」という視点から最適な方法を選んでいる点が印象的でした。AIという新しい技術に踊らされず、こういった視点で活用していけば、きっと私たちの業務をもっと良くしていけるのではないでしょうか。
最後に、「生成AIサミット」にご興味を持たれた方もいらっしゃるかもしれませんので、次回開催の案内をこちらに貼っておきます。
(私はただの1参加者です。PRではございません)
ご覧いただき、ありがとうございました。
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