DXを学ぶ📚成功事例と必要スキル

2024年8月22日 14:00

業務改善スキルを活かせる仕事を探してみようと、「業務改善」「業務設計」などのワードで求人検索をしている中で、「DXコンサルタント」や「DX推進担当」という職種の求人が増えてきていることに気づきました。そこから"DX"（デジタル・トランスフォーメーション）について興味を持ち、書籍やレポートを読んで学んでみたので、今回はDXについてお伝えしたいと思います。

1. DXとは何か - DXとBPR/業務改善の違い

結論からいうと、BPR/業務改善とDXは似て非なるものでした。

経済産業省は、2022年9月に公表した「デジタルガバナンス・コード2.0」において、DXを次のように定義しています。

DXの定義は次のとおりとする。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

少々長くて捉えづらいので、書籍から私がわかりやすいと思った表現も紹介します。

「DXとは、企業変革そのもの」
「DXの本質とは、生き残るための自社の企業文化の破壊と創造による企業価値の向上」
「DXとは最新デジタル技術で旧来のビジネスモデルを変革すること」

「マッキンゼーが解き明かす生き残るためのDX」より引用

「DXは業務改善とIT化、ITを利用した事業変革」
「DXは、デジタライゼーションを通じて業務を変え、ついには新しい価値を生み出してしまうこと」

「いちばんやさしいDXの教本」より引用

以上のように、DXとは価値創造を主眼に置いたビジネスモデル変革の取り組みです。一方、BPR/業務改善は、生産性向上を主眼に置いたプロセス最適化の取り組みのため、本質は根本的に異なると言えるでしょう。DXの取り組みには、新規事業構築だけでなく、生産性改善、既存事業変革といったBPRの要素も含まれるため、BPRと混同されてしまうこともあるようです。

2. DXの成功事例

DXをより具体的に理解するために、DXの成功事例を2つ紹介します。

"DXグランプリ企業2024"選定　株式会社LIXIL

「DX銘柄」において、LIXILは"DXグランプリ企業2024"に選定されました。
※「DX銘柄」とは、経済産業省と東京証券取引所が共同で、デジタル技術を活用した経営革新や新たな価値創造に顕著な成果を上げている企業を選定・公表する制度です。

DX推進の背景と課題：
LIXILは、新築住宅着工数減少や少子高齢化を背景に、リフォーム事業に注力するためDXを推進しました。主な課題は、過去の合併・買収によるシステムの統合が困難であること、事業領域の多様性でした。SoR（基幹系システム）とSoE（情報系システム）を分離し、SoE側をアジャイルに変えていくことから、再現性を高める取り組みを開始しました。

主要なDX施策と成果：
「LIXILオンラインショールーム」の導入により、購入検討中のエンドユーザーの時間短縮を実現。さらに、AI音声認識を活用した接客サービスを導入し、耳が不自由な方や日本語が母国語でない方からも相談を受けられるようにしました。これらの施策により、カスタマーエクスペリエンス（CX）の向上、成約率や成約スピードの向上も実現しています。また、従業員エクスペリエンス（EX）向上のため、「デジタルの民主化」を推進。ノーコード開発ツールの導入により、従業員が自ら業務改善アプリを開発できる環境を整備し、生産性と業務効率の向上を図っています。

LIXILのDXの特徴：
LIXILのDXの特徴は、バリューストリーム全体のデジタル化を目指す点です。たとえば、水まわり商材に特化したシステム「e-Connection」の提供により、代理店や施工業者がオンラインで見積もりや発注を完結できるようにしました。製造業かつBtoB事業という特性上、エンドユーザーの体験を変えるために、流通店やコントラクターなど関係者全体の体験まで手広くリードして革新を起こしていく姿勢が、LIXILならではの特徴です。
※参考：デジタルトランスフォーメーション（DX）の取り組み（公式HP）

"DXプラチナ企業2023-2025"選定　株式会社小松製作所

小松製作所は、3年連続でDX銘柄に選定され、かつ、過去にDXグランプリに選定されていることを要件とする"DXプラチナ企業"に選定されました。

DX推進の背景と課題：
主な背景には、建設・鉱山現場における深刻な人手不足があります。また、従来から求められている安全性・生産性の向上やライフサイクルコストの削減に加え、気候変動への対応や人手不足の解消などの社会課題も顕在化しています。これらの課題に対応するため、ICT活用やDX推進を通じた現場作業の効率化・機械化が強く求められるようになりました。

主要なDX施策と成果：
建設現場向けの「DXスマートコンストラクション」と鉱山向けの「AHS」の開発・展開が挙げられます。DXスマートコンストラクションは、施工の全工程をデジタルで繋ぎ、実際の現場とデジタルツインを同期させることで、工事全体の安全性、生産性、環境適応性を高めています。AHSは、GPSやセンサーを活用して超大型ダンプトラックを無人で自動運転するシステムです。さらに、鉱山向け大型ICTブルドーザーの遠隔操作仕様車の商用稼働開始や、トヨタ自動車と協業での鉱山内自動走行ライトビークル（ALV）開発など、自動化・遠隔操作化技術の拡大にも取り組んでいます。

コマツのDXの特徴：
「モノ（建設機械の自動化・遠隔操作化）」と「コト（顧客プロセス全体の最適化）」の両面でイノベーションを推進している点です。モノの面では、無人ダンプトラックや遠隔操作ブルドーザーの開発を進め、コトの面では、DXスマートコンストラクションを通じて、測量からデータ解析、施工計画、施工、検査まで建設現場の全工程をデジタル化し、最適化しています。
※「DX銘柄2024」選定企業レポート（LIXIL P.15～18、コマツ P.94-95）

LIXILと小松製作所の事例から、DXが単なるデジタル化ではなく、企業の本質的な変革を伴う取り組みだとわかります。両社は顧客ニーズや社会課題に応えるため、デジタル技術を戦略的に活用しています。これは、まさに「1. DXとは何か」で記載したDXの定義を体現しており、DXが企業の競争力強化に不可欠な経営戦略であることを示していると思います。

3. DXの進め方

DXの定義と成功事例を見てきましたが、実際にDXを進めるにはどうすればよいのでしょうか。DXは経営戦略レベルの大規模プロジェクトになるため、ここでは、DXを推進するための大まかなステップを紹介します。

現状分析とビジョン策定：DXの第一歩は、自社の現状を正確に把握し、目指すべき姿（ビジョン）を明確にすることです。自社の強み・弱み、市場環境、競合状況などを分析したうえで、デジタル技術を活用してどのような価値を創造したいのかを明確化します。
戦略立案とロードマップ作成：ビジョンを実現するための具体的な戦略を立案し、実行のためのロードマップを作成します。どの領域から着手するかなど優先順位を決め、短期・中期・長期の目標を設定し、人材、技術、予算など必要なリソースの洗い出しを行います。
推進体制の構築：DXを全社的に推進するための体制を整えることが重要です。経営層のコミットメント確保、専門チームの編成、外部パートナーとの協力関係を構築します。
パイロットプロジェクトの実施：施策実行にあたっては、全社展開の前に、小規模なパイロットプロジェクトを実施し、効果検証と課題抽出を行います。まずはテストしてみて、その失敗から得られた学びを生かして次なるチャレンジを繰り返す、アジャイル・デリバリーが大切です。
全社展開と継続的改善：パイロットプロジェクトの成果を基に、全社展開を進めます。この段階では、チェンジマネジメントが極めて重要になります。新しい働き方や技術への適応を促すため、明確なコミュニケーション、教育訓練、そして変革の必要性と利点の理解促進に努め、同時にPDCAサイクルを回しながら、継続的な改善を図っていきます。

DXの推進には、技術導入だけでなく、組織文化や業務プロセスの変革が伴うため、経営層のリーダーシップと従業員の積極的な参加が成功の鍵となります。また、組織全体がDXの価値を理解し、積極的に変革に取り組む文化を醸成することが、持続可能なDXの実現につながります。

4. DX推進に必要なスキル5選

DXを成功させるためには、適切なスキルを持った人材が不可欠です。DX推進プロジェクトには関係者が多く存在しますが、ここではDX推進担当者に求められるスキルについて、5つに絞って挙げたいと思います。

DX推進部門の担当者は、組織全体のデジタル変革を支援し促進する重要な役割を担っています。経営層と協働しながらDX戦略の実行を推進し、各部門との連携を図り、デジタル技術の導入を支援します。これらの任務を効果的に遂行するために、以下の5つのスキルが特に重要だと考えます。

デジタルリテラシー：最新のデジタル技術やトレンドに関する幅広い知識と理解が必要です。AI、ビッグデータ、IoTなどの技術が事業にどのように適用できるかを把握し、その可能性と限界の理解が重要です。
データ分析力： DXの成功には、データを活用した意思決定が不可欠です。大量のデータから意味のある洞察を導き出し、それを経営層や各部門に分かりやすく説明する能力が求められます。
要件定義スキル：ビジネス課題をデジタルソリューションに落とし込む能力です。各部門のニーズを正確に把握し、それをIT部門や外部ベンダーに明確に伝えられることが重要です。
ファシリテーションスキル：経営層や各部門のステークホルダーを巻き込み、DXの重要性を伝え、協力を得るためのスキルです。効果的なコミュニケーション能力や、多様な意見を調整し合意形成を図る能力が求められます。
プロジェクトマネジメント力： DX推進には、複数の部門や外部パートナーを巻き込んだ大規模なプロジェクト管理が必要となります。目標設定、リソース配分、進捗管理、リスク管理などのスキルが求められます。

これら5つのスキルは、私が書籍や事例から学ぶ中で考えた私見であり、必ずしもすべての組織や状況に当てはまるわけではありませんが、DX推進担当者にとって重要なスキルであると考えています。

DXに関わる人材に必要なスキルをより包括的に理解したい方は、経済産業省とIPA（独立行政法人情報処理推進機構）が策定した、DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルを定義した「デジタルスキル標準（DSS）」をご覧ください。DX人材の育成や、自己のスキル把握に役立つ資料となっています。

5. 参考文献・資料

DXを成功させるための要諦が、Why、What、How、You（あなた自身が何をすべきなのか）の構成で記されています。DXが今求められている理由、DXを成功させるために必要なことの理解に役立ちました。

本書は、DXを進めるにあたってのHOWを中心に記載されており、DXの具体的な進め方を理解できます。私は本書の後に、先ほどの「マッキンゼーが～」を読んだのですが、本書の方がミクロ視点だったので、DXについて初めて学ぶ方は「マッキンゼーが～」を先に読む方が、DXの全体像を理解しやすいと思います。

タイトル「日本のDXはなぜ不完全なままなのか」の回答は、デジタルフリクションにより人とシステムの断絶が発生しているから、かつ、チェンジマネジメントが欠けているからだと述べ、その状況を打開するための解決手段として、DAP（Digital Adoption Platform）というツールを紹介しています。著者はDAPを提供するWalkMe社の日本法人代表なので、ポジショントーク的側面もあるかもしれませんが、DAPの有用性と、欧米と比較した日本企業のデジタル課題、DXの取り組みを成功させるための要点の理解に役立ちました。

経済産業省　DXレポート～ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開～

日本でDXが注目されるようになったきっかけと言われている、経済産業省のレポートです。DXを語るのであれば、ざっと目を通しておいた方が良い資料です。

DX事例リンク集

政府の各府庁省、地方自治体、団体が発行したDX事例が記載されている報告書、Webページへのリンクを集約したページです。かなりのボリュームなので、ご自身の用途に応じて役立ちそうな資料をご参照ください。

おわりに

業務改善とDXは異なる概念ですが、今回DXについて調べてみて、両者には関連する部分も多くあるように感じました。既存事業のプロセス把握や新規事業のプロセス設計など、業務改善/業務設計スキルがDX推進に役立つ場面が多々あるのではないかと考えています。

「業務改善」「業務設計」での求人検索で「DXコンサルタント」や「DX推進担当」の求人がヒットする理由が、今では腑に落ちた気がします。業務改善が得意な人にとって、DX関連の職種を目指すことも魅力的なキャリアパスの一つになるかもしれません。デジタル技術への理解を深め、変革をリードするスキルを磨くことで、新たな可能性が開けるのではないでしょうか。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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