BPMNで広がる🔀業務プロセス可視化の世界
「業務フローチャート活用術(前半&後半)」の記事では、業務プロセスを可視化し、改善の糸口を見つける強力なツールとして、業務フローチャートをご紹介しました。今回はその業務フローチャートの知識をベースに、さらに一歩進んだ業務プロセス可視化の手法であるBPMN(Business Process Model and Notation)をご紹介します。
1. BPMNとは?
BPMNという言葉は聞き慣れない方も多いかもしれません。BPMNは、業務フローチャートの表記法の一つです。他にも表記法には、産能大式フローチャートやUML(Unified Modeling Language)などがあります。
BPMNは、業務プロセスを図式化するための国際標準表記法(ISO19510)です。アメリカのObject Management Groupによって、業務をモデル化するための表記法として開発されました。一般的な業務フローチャートの描き方よりもより細かく規定された表記ルールに沿って、さらに詳細に描き出された業務フローチャートと言えます。
<BPMNで描くメリット>
標準化された表記法により、複数の部門や外部組織との情報共有が容易
複雑な業務要件を明確に表現可能であるため、BPMNフローチャートを基にシステム設計が可能
冗長な工程や不要な待ち時間を視覚的に特定できるため、プロセスの問題点や改善点を見つけやすい
<BPMNで描くデメリット>
描けるようになるまでの学習コストが比較的高い
単純なプロセスには過剰な場合がある
作図には専用のツールが必要な場合がある
BPMNは、より複雑な業務プロセスを分析・改善する際や、大規模なシステム開発プロジェクトで特に有効と言われています。たとえば、複数の部署や外部組織が関わる業務プロセスの可視化、基幹系情報システム導入時の業務プロセス設計などに適しています。一方、小規模な業務の可視化には、一般的な業務フローチャートで十分な場合がほとんどです。組織の規模や業務の複雑さに応じて、適切な手法を選択しましょう。
2. BPMNの主な表記ルール
BPMNには表記ルールが多数あります。ここではその一部をご紹介します。
これだけでも十分BPMNの表記の細かさを感じられるかと思いますが、「タスク」についてはさらに、枠内に人や歯車などのアイコンを配置し、タスクの属性を示します。
このように記号を組み合わせることで、複雑な業務プロセスを誰が読んでも同じ意味になるように表現できます。
なお、BPMNは通常、横書きが一般的です。
これは、BPMNが国際的に使用される表記法であり、多くの言語で横書きが一般的であること、多くの文化圏で時間や進行を左から右への流れで表現することが主な理由です。よって、多くのBPMNツールは横書きを前提に設計されています。しかしながら、日本の企業文化では縦書きのフローチャートに慣れている場合もあるため、組織の状況や必要性に応じて、縦書きと横書きを使い分けましょう。
3. BPMNの活用シーン
BPMNは、さまざまな場面で活用されています。
特筆すべき例として、デジタル庁が推進する取り組み「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」があります。
地方公共団体のサービス品質向上と業務効率化のため、各地でこれまでバラバラに利用していた基幹業務システムを全国で共通のシステムに統一しようという取り組みです。
共通システムを作るために、まず、各地方公共団体において現状の業務整理→現行システムの分析→移行計画の作成・・・といったステップが必要となるのですが、この「現状の業務整理」において、BPMNを用いた業務フローの作成方針が示されています。
各地方公共団体が共通してBPMNで現状の業務整理を行うことで、各地方公共団体の業務プロセスを標準化された形で比較・分析し、効率的なシステム設計につなげられます。例えば、住民票の発行プロセスや税金の徴収プロセスなどを全国の自治体で統一的に表現し、ベストプラクティスの発見が可能になります。この取り組みの成果が楽しみですね。
また、企業でも、業務プロセスの可視化や改善、システム開発などでBPMNが活用されています。
<企業での活用例>
製造業:生産プロセスの最適化
金融機関:取引処理フローの設計
物流業:配送プロセスの改善
IT企業:システム開発プロセスの標準化
BPMNはさまざまな業界や業務で活用可能です。特に、複数の部門や外部組織が関わる複雑なプロセスの可視化・改善に効果を発揮します。
4. BPMNツールの選び方
一般的な業務フローチャートの作成においては、基本的にはExcelで十分だと思いますが、BPMNに関しては作図ツールの使用を推奨します。今回この記事作成にあたり、ExcelでBPMNフローチャートを描いてみたのですが、BPMNは前述の通り表記ルールが多く、ExcelにはBPMNで用いる記号が用意されていないため、記号を用意するのに一苦労しました。
BPMNフローチャート作成に使える作図ツールを3点ピックアップしました。
Microsoft Visio:Microsoft Office製品との高い互換性を持つ、主にWindows向けの汎用性の高い図表作成ツールです。
EdrawMax:Windows、Mac、Linuxに対応し、豊富なテンプレートとシンボルを提供しながら、比較的手頃な価格設定が特徴です。
Lucidchart:直感的なインターフェースと多様な図表作成能力を持ち、ブラウザ上で動作するクラウドベースのツールです。
ツール選びにあたっては、BPMNのテンプレート・アイコンの豊富さ、直感的な操作性、価格、他ビジネスツールとの連携性などを比較検討して選びましょう。いずれも無料で試せるプランがあるので、使用感を比べてみると良さそうです。私自身いずれも使用経験はないのですが、個人的には一番強気なセールスをしているLucidchartが気になりました。次回BPMNフローチャートを描くときに試してみようと思います。
5. 参考文献・資料
BPMNに関しては、日本語の書籍が非常に少ないです。
私はこちらを参考にしました。
(専門書って高いですよね・・・)
BPMNフローチャートの段階的な複雑化を通じて、関連ルールを体系的に解説しており、表記法の理解に役立ちました。
また、先ほどご紹介したデジタル庁の取り組みにおいて、BPMNの作成方法基準とされていた「利用ガイド」もとても参考になります。
「利用ガイド」PDFのP.10~「第2章 BPMN の表記方法と事例等の解説」では、初めてBPMNで業務フローチャートを作成する職員に向けて、BPMNの描き方を解説しています。先ほどBPMNの主な表記ルールとして紹介した「サブプロセス」についても以下記載例が確認できるなど、この資料だけでBPMNを学べると言っていいほど充実した資料になっていると感じました。BPMNの習得にご興味のある方は、ぜひご覧ください。
おわりに
プロセス可視化の世界は奥深いですね。この記事を書きながら、BPMNの持つ可能性に改めて魅了されました。学習コストは高いものの、複雑な業務の明確化や改善に大きな価値があると感じました。
特に印象的だったのは、行政分野での活用です。BPMNについて調べていく中で、地方公共団体の基幹業務システム統一化にBPMNが採用されているのを知り、思っていた以上にBPMNの活用シーンが幅広いことを学びました。
業務フローチャートを描くことが大好きで、BPMNにも興味を広げた結果、気づけば業務フローチャートnote3部作となりました・・・!本記事の内容にご興味を持っていただけましたら、ぜひ前の2つもご一読いただければ幸いです。
ご覧いただき、ありがとうございました。