ファーストシューズのサンタクロース
突然メールが来た。
ここ何年も知り合いや友人からの連絡は、LINEやメッセンジャーだったりするので、Eメールに「お久しぶりです!」なんてタイトルのメッセージがくると、9割の確率で開封せずに迷惑メール行きだ。
だけど送信元の名前を見て、これは迷惑メールなんかじゃないとすぐに確信した。
今から20年以上前に、私は百貨店の子供靴売り場で働いていた。シューカウンセラーという資格をとり、毎日沢山の子供の足を見ていた。
子供の足はどんどん成長していくので、「少なくても半年に1回は計測に来てくださいね。」と、お買い物の最後にはそんな話をしてお見送りをした。数ヶ月後に再び足を見せに来てくれるお客さまはとても多く、フットプリントで取った足型を見ながら前回の土踏まずの様子や骨格との比較をして、お客さまと一緒にお子さんの成長を日々感じていた。
私がその頃勤めていたお店は、本店とは違い地域密着型を売りにしていている支店で、まるで別の百貨店ではないかというくらい商品展開も違っていた。けれども子供靴に関しては、バイヤーのこだわりで高級ブランド以外は本店とほぼ同じ品揃えにし、資格をもった販売員が本店と同じレベルの接客をすることを目指していたので、本店からお客さんが流れてくることが多く、週末の子供靴売り場は信じられないほどの混雑だった。小さな売り場に人が溢れすぎて、待たされることに怒ったお客さまに何度も怒鳴られたりしたけれど、それでも子供たちの足を見て靴を選ぶお手伝いをする仕事が本当に楽しかった。
本店に異動するまでの7年間、私は子供靴売り場で販売をした。その間に私を指名してくれるお客さまもどんどん増えていき、私が産休中に一緒にご飯を食べにいくほど仲良くなったご家族もいた。
突然のメールは、そんなお客さまの中の1人のAさんからだった。内容はお子さんが先日結婚したという報告だった。私が選んだファーストシューズを履いて撮った写真が結婚式のスライド用の写真に使われていて、親子で私のことを思い出してくれたそうだ。
お子さんはTくん。
その当時まだ子どもがいなかった私は、いつかTくんのような息子が欲しい!と思うくらいにTくんが可愛くて、大好きだった。あまり喋れなくて、歩いてもすぐ転んでしまった彼が、ニコニコしながらよちよち歩き、おしゃべりするようになった。数年後には走り回るようになり、ちょっと人見知りがはじまって恥ずかしがり、あまり話してくれなくなった。だけど私が選んだ靴でリレーの選手になれたときは自慢げに話してくれて、真っ赤になりながら話す顔が本当に可愛くて、抱きしめたくなったのを昨日のことのように覚えている。
そんなTくんが結婚か。もう10年以上会ってないけれど、嬉しくて自然と涙がでてしまった。
やりがいのあった子供靴の販売も異動で離れることになり、積み上げてきたものが一気に崩れたことで私は自信をすっかり無くしてしまった。その後も人に自慢できることなんて何もなくて、今まで何やってきたんだろうなって思うこともたくさんあった。
だけど、今日もらった1通のメールが、私はこれで良かったんだと思わせてくれた。私に靴を選んでもらって良かったと書かれたそのメッセージを見て、本当に本当に嬉しかった。
私がTくん親子と出会った支店はもう存在しないし、本店に異動してからは接客から離れたし、今は別の仕事をしている。それでもこうやって届けてくれた1通のメールは、私にとって最高のクリスマスプレゼントになった。
だから、私の今年のサンタクロースは、ファーストシューズを履いたあの小さな男の子だ。
かわいいかわいい、小さなサンタクロース。
彼はどんな大人になっているんだろう。
想像しながら、メールの返信を今からゆっくりと書こうと思う。