Zu Asche, zu Staub. -灰へ、塵へ-

1929年ドイツ。第一次世界大戦の折心に傷を負った刑事が、ある特命のためにベルリンに向かったが……。というのがドイツ発ミステリードラマ【バビロン・ベルリン】の序章。
ちなみに掲載した動画で歌を歌っているのはシーズン1・2の鍵を握る男装の歌手で、画像に写っている女性は、いずれ彼の助手となる、いわゆるヒロインである。

【バビロン・ベルリン】は、ドイツ人作家 フォルカー・クッチャーの「ベルリン警視庁殺人課ゲレオン・ラート警部シリーズ」が原作となっている。この小説はかつて三作品翻訳出版されたが現在は販売していない
実はこのシリーズ一作目を、私は立ち読みしたことがある。あとで買おうと思ったまま忘れてしまっていた。Xでたまたま見かけた【バビロン・ベルリン】の記事で、このドラマの原作がそのシリーズ作品と知り、改めて読みたいと思っても、古本を探さなければならないのが口惜しい。それだけ心惹かれたミステリー作品だった。それが知らないうちにドラマになっていたらしい。早速調べてみたところAmazonプライムで視聴できるというので、連休中ということもあり深夜に見た。

率直な感想を言えば、ドイツの歴史をある程度知らないと何がなんだかわからない場面が多い。1929年、ドラマの舞台となった当時のドイツは第一次世界大戦で敗退したのをきっかけに君主制から共和制へと移行しているし、そのヴァイマル共和国は社会主義国家。この当時のドイツでは、レーニン率いるソ連が掲げる共産主義も台頭しており、二つの思想がぶつかり合っていた時期でもある。この「前提」を知っておかないと、シーズン1で発生した事件の意味が分からず迷子になる。もっと言えば、ヴァイマル共和国が決して一枚岩でなかったことも知っておいた方がいいだろう。
とにかく、のちに「黄金の20年代」と呼ばれる時代の退廃的で自由で享楽的なベルリンを舞台に、主人公のゲレオン、彼の助手となるシャルロッテを中心に、さまざまな主義・主張・思惑が絡み合うサスペンスドラマだった。

シーズン1(全八話)では、ゲレオンが秘密裏に命じられた役割を果たすうちに、いろいろな事件に関わっていく。そのいろいろな事件がシーズン2の要になると思われる。小説作品は一作目、しかも上巻の1/3程度しか読んでいないので、歴史的な事実にどう話が絡んでいくのかが楽しみだが、本国ドイツではシリーズ作品として9作、スピンオフが3つなのに、日本では三作品しか翻訳されておらず、しかも現在は販売されていない。

海外の小説作品が好きな一人として、ロマンスもだが、シリーズ作品は全シリーズ翻訳してほしいのが本音である。本屋で「お」と手に取ってしまう小説に魅力を感じても、どうせシリーズ全部読めないんでしょと諦観してしまい、購入を断念してしまうことが多いのを版元は知って欲しい。

とにかくバビロン・ベルリンは面白い。そう感じる理由の一つが、没入感を高めるような不思議なオープニングだ。

まるで線香花火のように膨れるものが太陽に見えた。太陽は膨らみ続け、やがて爆発する。そして墜ちる。その様がヴァイマル共和国・ナチスドイツの終焉と重なって見えるのは気のせいだろうか。そして冒頭に掲載した曲も、同じような印象が重なる。この記事のタイトルにした曲目「Zu Asche, zu Staub.」は「灰へ塵へ」。この言葉は実はキリスト教の祈祷文「Earth to earth, ashes to ashes, dust to dust(土は土に、灰は灰に、塵は塵に)」から来ているものと思われるし、一時代の終焉を示しているものなのかもしれない。

シーズン2は、来週から少しずつ見る予定。2022年に終了したシーズン4も一日も早く視聴できるようにしてほしい。

ちなみにこのドラマ。フェティッシュなシーンあり、エロティックシーンあり、ドメスティックなシーンありという、とにかく大人以外見ちゃダメなやつであることを付け加えたい。

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