あなたは『難民』?
日本に帰ってから、10ヶ月。
「難民」という言葉が、あちこちにあふれてる。
引越し『難民』
帰宅『難民』
最近、こんな『難民』まで。
ちょっと待って!
『難民』という言葉を、ニュース記事や番組、商品やサービスの広告に使う前に、ちょっと待って!
『あ〜、私、マスク難民だ〜。』っていう前にちょっと待って!
『難民』って言葉をそんな風に使いたい?
『難民』という言葉をウェッブ辞書で調べてみた。
Goo 辞書より1 天災・戦禍などによって、やむをえず住んでいる地を離れた人々。2 人種・宗教・政治的意見の相違などによる迫害を避け、国外に逃れた人々。[補説]日本で「帰宅難民」「買い物難民」などのように、さまざまな事情で困った状況にある人々を表すのに使うのは、乱用とされる。
Weblio辞書より① 天災・戦禍などによって生活が困窮し、住んでいた土地を離れ安全な場所へ逃れて来た人々。② 人種・宗教・政治的意見などを理由に迫害を受けるおそれがあるために国を出た人。亡命者。③ 転じて、何かから溢(あふ)れてしまった人々を俗にいう語。 「昼食-」 「就職-」
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)という国連機関があります。UNHCR駐日事務所の説明は、
今日、難民とは、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指すようになっている。
『難民』という言葉は国際法上で定義されていて、UNHCR駐日事務所のHPではかみ砕いて上のように説明している。
別に法律上の難民じゃなくて日常語としての『難民』がいて、いいんじゃないの?
そうかもしれない。「天災」で他の国に逃げる人は、国際法の「難民」に含まれていない、と解釈することが一般的であった。でも、自分の国で安全に生活ができないから逃げていく、という点では、戦争のために自分の国から逃げる人と、同じような状況がある、と考えられる。(注1)
でも、日常語だからって、なんでもかんでも、困っていたら『難民』で括っていいのかなぁ。
『昼食難民』『マスク難民』『トイレットペーパー難民』という表現から「難民」という言葉を聞いている子供たち、若者、成人、高齢者は、「シリア難民」「ロヒンギャ難民」を「家がなくて困っている人」「貧しくて困っている人」くらいに思っている?
『〇〇難民』の言葉が使われれば使われるほど、「迫害」「武力紛争」「人権侵害」のために、他の国に逃れて行かざるを得なかったー移動を強いられた状況ーが難民の故郷にあった、という難民の定義の中心がどんどんと崩れてしまう。
そして、「難民」という言葉を正確に知らない人が増えれば増えるほど、難民の人たちが抱えている問題への理解は、あいまいなものになってしまう。ーー多くの難民が自分の国に戻りたくても戻れない、という気持ちを抱えている。「難民として他の国に住む、働く」ことができるかどうかは、生きることができるのかどうか、の問題。「難民支援」「難民保護」って、「生きる」という、私たちのほとんどが、それを権利だとも意識していないほどの基本的人権について話しているの、ということが伝わりにくくなる。
その点で、Goo辞書が『〇〇難民』は乱用、と明記しているのは嬉しい。難民の説明に「やむをえず」という言葉をいれているのも、やはり嬉しい。
この記事を読んだ人へお願い。もし、『〇〇難民』という言葉を日ごろ使っていたら、別の表現を考えてみませんか?
注1:今年1月、国連Human Rights Committeeは、気候変動のために国際移動を強いられた人々は強制送還されるべきではない、との見解を示し、UNHCRはその決定を支持している。UNHCRは続けて、難民条約は、気候変動や自然災害の影響(によって避難する人々)にも適用しうる、という見解を示した。
(この記事の本文に載せたイメージは全てウェッブ上からのものです。トップ写真は筆者撮影。)