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時間をかける贅沢、文通村で広がる手紙の世界

私の趣味の一つに、文通があります。

今日も数通の手紙を受け取り、書かれていた内容にペンフレンドを心配したり、今頃私の手紙が相手に届いているのかななんて想像をしています。

思えば私の文通デビューは、ニンテンドー64のゲームソフト「どうぶつの森」。

「どうぶつの森」は、ユニークな個性を持つ可愛い動物のキャラクターたちと、お家のローンを返すために、十人達の困りごとを解決したり、虫取りや魚釣りなどをして森の生活を楽しむゲーム。

中でも、住人とのコミュニケーションの手段に手紙を送ったり、掲示板に書き込みができる機能があって、私は毎日村中の住人に手紙を送っていました。

村人の噂話をしたり、今日あった楽しいことを書いたり、ちょっとした妄想のストーリーを、瓦版のように掲示板に書き込んでみたり。

住人達の反応はどこか的外れなものではあったものの、自分が一生懸命書いたものに、返事をもらえるということがとても嬉しかった記憶があります。

これはただの愚痴なのですが、昨今のどうぶつの森では、手紙を書いても返事を必ず書いてもらえなくなりました。どうぶつ達とのコミュニケションを楽しんでいた身としては、会話のバリエーションも少なく、住人とのコミュニケーションが希薄になってしまって、オンラインで他のプレイヤーとのコミュニケーションのためのツールとして「村」があるという形になってしまって少し残念に思っています。

そんなこんなで、ゲームの中で、手紙のやり取りを覚えた私は、実際にどこかに住む誰かと文通をするようになります。

当時は、趣味の雑誌の巻末に文通コーナーを設けていることが多く、文通したい人が簡単な自己紹介とともに自宅の住所を記載するというページがありました。今思うと、結構大胆なシステムでしたが、おかげで私も簡単に文通を楽しむことができました。

当時、文通をしていた友人との繋がりは切れてしまっていますが、今でも「文通村」というサービスを利用して文通を楽しんでいます。

文通村の魅力:匿名の安心と、温かみのある手書きのやり取り

文通村とは、匿名で全国のペンフレンドと文通を行うことができるサービス。

仮想の住所が付与されるので、その住所を書いた手紙を事務局に送ると、代わりに実際の宛先に送付してくれます。

月額利用料が970円〜、月2回、決められた日にまとめて手紙が送られます。

切手を選んだり集めたりする楽しみはなくなるものの、定額のスマートレターなどを使えば、費用を抑えてやりとりができるので、返事が返ってこないかもしれない相手に最初の手紙を送るハードルが下がるのもいいところ。会員もどんどん増えていて、年齢層も幅広くいろんな方とやり取りできます。

この安心感と手軽さが、文通村ならではの魅力です。

インターネットの速いやり取りとは違う「じっくり向き合う」時間

SNSやメッセージのやり取りと違い、即時性を求めない文通には、一つのこととじっくり向き合う楽しみがあります。

インターネット上のコミュニケーションは便利で速い反面、次々に話題が移り変わり、一つの会話にじっくりと浸れない部分があります。その時の旬な感情や話題をタイムリーにやり取りできる分、少し時間が経つと色褪せて扱いづらくなり、新しい話題にすぐ取って代わられてしまいます。

メッセージアプリで雑談していると、次第にやり取りがトーンダウンし、モヤモヤと終わってしまうことも多いですが、文通ではそもそもやり取りに時間がかかるため、数ヶ月にわたって同じ話題を続けても気になりません。

お互いの気が済むまでゆっくりと同じ話題を共有する感覚は、他のコミュニケーションとは違う趣があります。また、手紙が届く頃には自分も相手も少し先の未来にいるため、それを逆算しながら書く話題を考えるのも面白いところです。

過去の出来事だけでなく「その頃自分はこんなことをしていると思います」といった軽い宣言が、少し先の自分を見つめるきっかけにもなります。

文通されている方々は、このゆっくりとしたやり取りに慣れている方が多いので、返事を急かすこともほとんどありません。

この「じっくり向き合う」時間が、文通の大きな魅力です。

便箋を選び、時間をかける贅沢なひととき

文通の楽しみの一つは、手紙を書くためにかかるたくさんの「手間」にあります。

便箋を選んだり、どんなインクが良いか、どんな香りを添えようか、考えることがたくさんあります。

季節に合わせて便箋を変えたり、相手のイメージに合うものを選んだりと、その一つひとつが手紙に彩りを加え、まるでお互いの小さなプレゼントを贈り合っているような感覚です。

封をして、住所を書き、ポストに投函するまでの手間もまた、相手に向き合う贅沢な時間です。

この手間をかけることで生まれる「贅沢」な時間は、SNSやメッセージアプリでは味わえない、手紙ならではのゆったりとしたやり取りです。

一文字ずつ手で書き、相手のことを思いながら封をしていく時間は、今の時代だからこそかけがえのないものとして感じられます。

たとえ書く内容が何気ない日常であっても、便箋に向き合いながらふと立ち止まる感覚に包まれる。その感覚は、もしかすると文通がもたらしてくれる「静けさ」や「ゆっくりと流れる時間」の恩恵なのかもしれません。

そして、手紙ならではの定型でやり取りが始まるのも趣があり、季節の挨拶を交えながら便箋数枚に思いをまとめるのも、とても楽しいものです。

字に込められた「人となり」を感じられるとき

手紙に書かれた文字や、そこに添えられた工夫から、相手の人柄を感じ取るのも、文通の楽しみの一つです。

意外にも、文字の印象と話題が違うこともあり、その違いから相手の多面的な一面が見えてくるのも面白いですね。

私はよく「大胆な字を書くね」とコメントされるような字を書くので、相手がどんなふうに自分をイメージしているのかなと考えると少し新鮮な気持ちになります。

はじめは、「文章を書くのが好きな人が多いのかな」と思っていましたが、実際には「何を書こうか悩みながら書いてくれたんだろうな」と思うような手紙もあります。

おしゃれな便箋や、シールでの飾り付けなど、手紙と言えど個性が感じられ、だんだんとその個性に自分が馴染んでいく感覚があります。

そういったやり取りが積み重なり、お気に入りの缶に積み重なっていく封筒が、どんどんと二人で書いた本のページのようになっていく。

一つ一つは日常の出来事や、ふと思いついたことでも、積み重なっていくことで少しずつお互いの世界が広がっていくのです。

相手の考えや言葉を待つ間に少しずつ膨らんでいく期待が、返事を待つ時間で生まれる余白を埋め、連綿と次の物語をつないでくれるのです。


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