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アムステルダム ゴッホ美術館を訪れて
昨年2024年の年末から年始にかけて、アムステルダム・パリ・ローマを訪れた。
昨年私の西洋絵画に対する興味はより一層深くなり、日本で度々美術館の企画展を訪れていた。そうするうちに、どうしても偉大な画家達の傑作を一目にしたかったのだ。
旅先の1つにアムステルダムは絶対に外せなかった。
なぜならオランダはゴッホの出身地であり、彼の弟であるテオの奥さんとその息子が創立したゴッホ美術館(Van Gogh Museum)がアムステルダムにあるから。
ゴッホが残した多くの作品を堪能しようと向かった。
フィンセント・ファン・ゴッホ
彼の名前と彼の有名な絵画を知っている人は多いでしょう。パッと思いつくのはやはり”ひまわり”の絵画だろうか
私が最初にゴッホの作品を見たのは、おそらく新宿のSOMPO美術館のひまわり。
その時私は、正直絵画を見ることには大して興味もなかったし、ゴッホのこともよく知らかなかった。ただ芸大出身の古くからの友人と印象派の画家の企画展にふらっと訪れた時に観た、その「ひまわり」の強さと強烈な筆の質感に驚いたことをとても強く憶えている。
彼がどんな人生を歩み、誰と関わり、何を感じて生きていて、そして絵を通して何を残したのか。それを知っていくと、彼の傑作を目にしたくなった。そしてアムステルダムにあるゴッホ美術館は、ゴッホの想いを真っ直ぐに受け取ることができる美術館だった。
彼は37年という長くない生涯の中で、本当に多くの絵を描いた
題材やテーマも様々だったが、ここではゴッホ美術館に展示してあった作品から私が感じた事を残しておく。
自然や生命を愛したゴッホ
ゴッホは、多くの自然の風景や花、生物、農作物、その農作物を育て収穫する農民の姿を多く描いた。
ゴッホが弟のテオに宛てた手紙にもその想いが綴られているが、自分の自尊心が傷ついたり、自分自身の存在意義を考えて悩ましい日々を過ごす中でゴッホにとって美しい自然や景色、花は生きる原動力だったよう。
彼はどの景色、どの花の絵も同じ表現をする事なく、異なる筆使いや色彩で描いていることが近くで見てよく分かった。
特に花の絵が好きで、ひまわり以外にもゴッホは、果樹園に行って果物の木を描いたり、花瓶に入ったアイリスやパンジー、バラの花も描いていた。
ゴッホは背景の色と花の色のバランス等、試行錯誤をする目的でも多くの花のスケッチを残していたよう。
1つ1つの花の美しさや個性を最大限に引き出すように、背景の色や筆使いが工夫されているようでとても興味深かった。
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この絵は桃の木。パッと見て桜の木のようで懐かしさを憶えた。
冬から春の訪れを感じされる桃の木の花は、短い間しか花を咲かせないのでその儚さが澄んだ青空に輝く花から伝わってきた
この絵はゴッホが都市のパリから自然溢れるアルルの街に引っ越してきてすぐに描かれた絵らしく、美しい花との出会いに喜ぶゴッホの感情も伝わる。
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アイリスの濃い青色の花と背景の黄色の調和が素晴らしく、まさにゴッホ!な感じの印象。
絵はもちろん平面だけど、右下に折れている茎がある動きの効果か、その力強さの印象か、とても立体的に見えて不思議。
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現存する6点のうちの1つ「ひまわり」
ひまわりには”感謝”の意が込められていると、ゴッホはテオへの手紙で書いた。この「ひまわり」はゴーギャンの部屋に飾るように描かれたらしく、画家仲間であったゴーギャンがアルルにやってくるのを歓迎するように描いたのだろうか。
遠くからだと分からないが、近くで見ると花びらの筆使いとか厚塗りされた絵の具とか、きめ細かくて驚く。
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グラジオラスとアスターの花瓶
これも背景の青色が花の個性をとても引き出してる。
解説に、この絵はゴッホが尊敬していたドワクロワがよく使っていたコントラストを模範したと描いてあった。確かに、青と赤のコントラストはドラクロアの絵によく見る気がする・・
ゴッホは先人の偉大なる画家達の画法をパリに来て学び、自分の表現に活かそうと試行錯誤した解説が多くて。ゴッホが努力家だったんだなあ・・
当たり前の日常を映し出す
ゴッホより少し前の時代に、”写実主義”と呼ばれる、ありのままの現実的な日常の絵を、客観的に描こうと主張した画家たちが活躍していた。
ゴッホはその時代に活躍した画家をリスペクトしつつ、毎日当たり前に食事して生きていく質素な生活を送る農民の"ありのまま"を映し出すような絵を残している。
当たり前な景色や日常のシーン、人間に視点を置いたゴッホらしいテーマだと思う。
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この絵が少し時間をかけて見つめると面白い。
結構色彩としては暗い絵で自分も暗い室内にいる気分になるが、中央の照明を見つめていると、目が慣れてきて人の顔が見えるようになる。
第一印象決して美しいとは言えない人物像ではあるが、自分たちで収穫したじゃがいもを食卓に囲む温かいシーンを切り取った作品だ。そこには農民たちの自負心が感じられる。
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この3つの絵は、その農作業をする姿に身に覚えがあるが、まさにゴッホはミレーの銅版画の複製を解釈して自分流に表現したそうだ。
ゴッホ風に幻想的な雰囲気にもなっている。この服装の青の色が実際に見るととても鮮やかでステキだった。
晩年のゴッホ
亡くなる前の2ヶ月間で70点以上の絵を描いている。1日に1つ以上の制作ペースだ。晩年の貴重な作品の多くが展示してあった。
結果的な事実から考えると、自分の死が近いことを感じていたのか、不穏な雰囲気を感じさせるなとは思いつつも、大地や生命の力強さもある気がしてゴッホの心中を探るには難しい。
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この絵は自らの胸を銃で撃ち抜く数時間前に描いたらしい。実際には描き途中だったとか。
最期を過ごしたオーヴェル・シュル・オワーズの街で、実際にこの木の根のモチーフになったであろう場所が近年特定されたらしい。
ゴッホが最期までどんな視点で自然を見ていたり、感じていたりするかが分かる作品だと思った。
弟のテオ、家族への愛
ゴッホの人生の中での重要人物はやはり弟のテオ
家族としても画商としても、生涯支えてくれたテオにゴッホは多くの手紙と絵を残している。
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ぶっちゃけ内容は翻訳しても分からないw
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この絵が、美術館のルートとしては1番最後に展示してあったのが非常に印象深かった。どの絵を最後に飾るか?来客に観てほしいか?と言われたらこの絵なのが納得
弟のテオに息子が生まれた時に、ゴッホが贈った絵だ。
祝福の意を込めて描いたアーモンドの花咲く木の絵には、新しい命が誕生した喜びが感じられる。一方で心の支えであったテオに頼りたいものの、これ以上負担はかけられないと悩むゴッホの寂しさが、どこか儚さを感じる絵の雰囲気に現れている気がする。
この美術館はゴッホとテオの仕事、テオの奥さんと息子が彼らの意思を受け継ぎ、ゴッホの絵を保管し作った美術館。
ゴッホの想いが家族に届いたからこそ出来た美術館であり、今この美術館に訪れた私とゴッホを繋げてくれる大事な作品の1つだ。
アムステルダム ゴッホ美術館を訪れて
ゴッホの新しい一面から、ゴッホの家族への愛も詰まった美術館で、一番楽しみにしていた美術館だったが期待を裏切らなかった・・!
ゴッホは私に、新しいモノの見方とか、当たり前にあることへの大切さや幸せを教えてくれる気がする。
コレクションはここで確認できる。
ゴッホと親交のあったゴーギャンやベルナールの作品も展示してある。
どんな作品はあるか一度見てみてほしい。