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リモートワークから戻る職場を失いそうな同僚の話

私の住むロサンゼルスはコロナの感染者が本当に沢山出て、昨年の3月半ばからステイホームが続き、リモートワークを余儀なくされた人や失業者も大勢出た。

ワクチンの普及に伴い6月15日からはついにビジネスがフルオープンを許可され、オフィスにも再び通い始める人が増えている中、私がいくつか抱えている仕事の一つで、たった一人だけリモートワークを継続している1人の女性がいる。

今日はそんな彼女の話。

彼女は現在4歳の男の子を抱えたシングルマザー。車社会のアメリカで車を持たず、勤務先のすぐ近所でアパートを借りて暮らしているのだが、昨年3月からは幼い息子さんを自宅でケアしながら仕事に励んでいる。みんながリモートの時はそれで良かった。けれど、彼女の仕事は基本内勤してチームと連携しながら遂行するタスクが多く、会社としても彼女に出勤をしてもらいたかったそうなのだが、近所の保育所が閉まっていて預ける場所がない。彼女はワクチン接種を完了しているけれど4歳の息子さんは幼くて受けられないため、身動きが取れない。そんな中、会社としても彼女の代わりに内勤してくれる人が必要で新たな人を採用してみたら、幸か不幸か勤続12年の彼女よりも仕事が早く、評判がいい。そして、かなり多忙だったことは重々理解できるものの、新たに加入した人物によって彼女の管理してきたものに様々な不具合があることが発覚してしまう。そんな彼女がいよいよ通勤を再開したいと申し出たものの、社内では彼女の不要論が飛び出してしまった。その理由は前述したことに限らず、実は育児で予想外の出費が発生したために賃上げのリクエストも行ったことで、遂に会社のトップが匙を投げてしまったのだ。でも副社長の思いとしては、仕事のミスは多々あれど、12年も会社に貢献してくれたシングルマザーの彼女は人柄も素晴らしいので無下にも出来ないということで頭を悩ませていた。

そんな彼女の元に預けているオフィス機器が必要ということで、近所に住む私が受け取りに行くことになった。

山と積まれたおもちゃに支配されたリビングルーム。天井まで積み上げられたおむつの箱(息子さんに触れてもらいたくないものを隠すための空箱、と教えてくれた)に圧倒された。甘えたい年頃だとは思うが、昨年からのステイホームで同い年の子供たちと直接触れ合う機会を奪われている男の子が、私と会話する彼女の気を引こうと何度も彼女を抱きしめたりキスしたりしている。そんな愛する息子さんを通わせる幼稚園を探すも社交性が乏しいためにカウンセラーに通い、公立ではなくプライベートスクールを勧められているそうだが、しかも車がなければ通うのも大変な場所。通えないならオンラインクラスで、と言われるも幼すぎてオンラインクラスをじっと受けられる感じでもない。

スクールに通わせるためにと彼女は車を買うことを決心したそうだが、車選びも子供の感染リスクを避けるため、ディーラーに足を運べずリモートで行っているためなかなか決めることが出来ない。

そして、今の会社はオフィスが複数に分散して、彼女が内勤を復活させてもこれまでの近所のロケーションに戻れる可能性は業務内容から考えてゼロで、そうなると車はいずれにせよ必須なのだけど、問題は彼女をどこのロケーションが受け入れてくれるか、ということ。彼女も会社からの回答を待ちあぐねていると嘆いていた。

彼女の首自体が検討されているという実情は伏せて、あたかも彼女に選択権があるかのように私は「今は求人が沢山出ているから、リモート勤務が可能で条件がいい会社を探してみるのも一案かもしれないよ?」と提案してみた。

彼女の答えはノーだった。

「年齢がネックで雇ってくれるところがないかもしれない...」

彼女の年齢は50代半ば。アメリカはEqual Employment Opportunity (雇用機会均等法)で、人種、肌の色、宗教、性別、国籍、身体傷害、年齢、および 遺伝情報に基づく雇用差別に対して連邦法が執行されるのですが、実際のところレジメの職歴を見れば大体の年齢を察することは可能で、余程優れた人でなければ年齢のハンデの存在は少なからずあります。私もそれは身をもって感じるところです。

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ただ、先ほども書いたように今いろんな業種で求人が沢山出ているんです。というのも失業給付金がしっかりと出ていることで会社への復帰を先延ばしにしている人が多いのが現状で、コロナ・パンデミックの救済特別手当が出る9月まではそれらの方々は失業状態でいることが予想されるのです。だから、就活するなら今がチャンスなのですが、私の言葉では彼女の心を動かすことが出来ませんでした。

仕事ができるかどうかの判断基準はもちろん業種によって違うとは思いますが、彼女の場合は信頼されて一任されていたことで周りが気づけなかった様々な問題を、彼女がリモートワークでいない間を繋ぐために入った新人によって露見する結果となり、それが彼女の手を借りずして解決してしまったことにより、彼女の功績が影を潜めてしまい、評価が下がってしまいました。彼女のいた場所には既に彼女の助けが必要ではないらしく、会社としても彼女がどの部署で内勤を復活させることが出来るのか、考えあぐねているのが現状とのことでした。

彼女の場合、休職していたわけではなくリモートワークしていたのに居場所を失う危機に直面しているのを見ると、これから先自分が病気や怪我で休職し、戻ってきても居場所がないかもしれない...。いや、居場所をキープするために今ある仕事にベストを尽くすしかないんだなと思うようにします。私でなければ出来ない仕事はないけれど、働く場所はひとつじゃない。今ある仕事を責任をもってこなし、限界を持たずにスキルや経験を重ねていけば年齢の壁も乗り越えていい仕事に巡り会えるんじゃないかな。少なくともそう信じたい!


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