父と老人ホーム
83歳の父は今、老人ホームの体験入所に行っている。
かつて祖母が長いこと(5年くらい)入所していた、うちからは車で1時間程の西東京の端っこに位置している所。
もうそうなってしまったのか、と思った。
このnoteでも散々書いてきたが、今から2年前に階下に住む父から、
「俺の介護をしないなら家から出て行け」
と言われた。
15年前に娘が生まれて、当時実家を間借りしている状態だったのでそろそろ出ていこうとしてた時に、父の方から「一緒に住んでくれ」と言われた。かかったリフォーム費用を出したのは自分達だし、それ以降も「家賃」と称してお金はずっと入れていた。
2世帯住宅では子供が小さいうちは楽と言われているが、娘が生まれた翌年に母が大きな交通事故にあい、私の負担はむしろ増した。病院の送迎や大きな手術をした時もずっと付き添っていたし、入院の際の手続きや必要なものの準備も全部用意していたのは私だった。さらに、母が長期入院をした時は父の食事の用意もしていた。
それなのに「出て行け」って何?
混乱した。
夫は「今までどれだけ肩身の狭い思いをしてきたのわかってるのか」と言い、父に対して怒り、その後避けるようになった。(今でも続いている)
母は母で「リリーちゃんに会えなくなるのは嫌だ」と毎日泣いていた。
私は一番上の兄と姉から深く同情されたが、二番目の兄からは毎日のように「早く出て行け」とラインで罵倒された。それこそ毎日毎日狂ったように罵倒された。
私の方が頭がおかしくなる位だった。
それから暫くは引っ越しを前向きに考えるようになったが、娘の中学校の関係で家の近くを探した。でも、探しても探しても、どうしても踏ん切りがつかなかった。
喧嘩をして出ていくことに、どうしても納得が出来なかった。
そして、引っ越しを先延ばし先延ばしにした。
一時期、夫だけが引っ越すという案も出たくらい、私はどうしても出ていきたくなかった。
「私はこの家が好きだ」
そう気付いた時に、私は父に言った。
「私はこの家が好きだから出ていかない。悪いけどまだ出ていくつもりはない。だからと言って、今お父さんの介護もするつもりはない。だってまだその必要性がないから。でも、もしお父さんに何かがあったらすぐに駆け付ける。絶対にそれを最優先にして駆け付けるから、だから安心して欲しい」
私が力強くそう言うと、
「お前からその言葉が欲しかったんだよ」
と父は言った。
父はずっと不安だったと言っていた。
79歳で胃がんの手術をして、それからどんどん体調が悪くなって、毎日毎日今日死ぬんじゃないかという恐怖と不安で、家族に八つ当たりをしていた、悪かったと言っていた。
それからの父は、穏やかになったと思う。
「救急車呼べー」という事もなくなった。
嘘嘘、昨年呼んでるわw
誰かが居てくれるという安心感もあって、もういつでもあの世に行ける覚悟でいるような感じすらも思える。
それほど父は今とても穏やかでいる。
私は毎日階下に一品料理を届けるのが日課になっているのだが、それを楽しみに待つ父がいる。「温かいうちに食べるぞ」と言ってくれる父がいる。夏の間は暑いから得意の煮物料理が出来なかったけど、そろそろ作ってあげようと思ってる。「アヤの煮物は本当に旨いぞ」と言ってくれる父がいるから。
だから、
老人ホーム
は、まだまだ先の話だと思っていた。だけど、もうそこまで来てる。
私はそれを見届ける覚悟はできているつもりでいたけど、いざそうなると動揺してしまう自分がいる。
せめて、1日1日を大切に生きること。
誰のためではなく、自分自身が後悔しないためにも。