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【昔話】セクシーな男になりたかった男の話 後編

私のテキトー過ぎる愛の告白に、西沢君がノラリクラリと交わしながら、友人N子の突然のラブシーンを見て、あーでもないこーでもないとカンパリを重ねる私と西沢君は、どうやら少し飲みすぎたみたいだった…


「平山、実は俺」

「何?」

「まだあの女の事引きずってんだわ」

あの女とは、西沢君が大学時代から付き合っていたバイト仲間の元彼女の事だった。

「ヨーコの事?アンタまだあの子の事好きなの?」

「ちげーよ、好きとかじゃねーよ」

「長かったもんねー。4年だっけ?西沢君が振られたってホント?」

それから西沢君は、かつて付き合っていた一つ下の彼女との別れの経緯を話し始めた。

「誰にも言いたくなかったんだけどお前だから話すわ。アイツがさ、M社(最大手外資系IT企業)に就職決まった時、俺無性に腹が立ったんだわ。なんでコイツがM社に受かるのかって。なんでコイツがって」

「、、、」

「なんで俺よりいい会社に受かるのかって、無性に腹が立ったんだよ」

「、、、西沢君だっていい会社じゃん」

大学時代の2人は仲間内から見ても穏やかなカップルだった。彼女のヨーコは顔も性格もポヤポヤしてたから、正直就職先を聞いた時は私もビックリした。
彼女の就職が決まってから、2人の仲はおかしくなったと言っていた。会う度にケンカばかりして、極めつけは彼女から言われた言葉だった。

西沢さんて意外と小さい人なんですね

「ふざけんなよ。なんで俺があんなブスにそんな事言われなきゃいけないんだよ。あんなブスと誰が付き合ってやったと思ってんだよ」

「、、、」

「それが何が小さいだよ、あー小さいよ、俺はプライドだけはバカみたいに高い、小さい人間だよ」

「、、、」

「なんだよ平山、何か言いたい事あるなら言えよ」

「、、、」


西沢君の本性が見えた気がした。
西沢君は、ずっとずっとこれまで誰にも見せなかったけど、男としてのプライドとか面子とか、そういうものに異常な程に拘る人間だった。それが、たった1人の女に脆くも崩されて、壊されて、どん底に落ちて、1年経ってもまだ立ち直れていなかった。

西沢君は酔っていたこともあって、更にヒートアップした。

「平山、俺はね、付き合う女には下にいて欲しいの。俺より劣ってて欲しいの。常に見下していたいんだよ。俺はそんな女としか付き合えないんだよ」

それ、、、言っちゃうんだ。
それ、私の前で言っちゃうんだ。
ダサいよ西沢君、すげーダサいよ。

西沢君があまりにダサ過ぎて、私は思わずちょっと笑ってしまった。

「西沢君、アンタってなかなかサイテーな男だね。上とか下とか彼女のこと、ずっとそんな目で見てたんだ」

はっきり言ってやった

「そう、俺ってサイテーなの。今までカッコつけて仮面被ってたけど、実はバカみたいにプライドにまみれたサイテーな人間なのよ」

開き直ってる
本当にダサい男だわ
西沢ってこんなダセー男だったのかよ

「へー、、、だったらさ、尚更私と付き合えるんじゃないの?」

私が半ばバカにしたような口調で言うと、西沢君は真剣な顔になって言葉を荒んで言った。

「だからお前とは付き合えねーんだよ!」

西沢、うるせーよ、黙れよ

「はあ?なんで?私はアンタが言う下じゃん。学歴も、会社も、誰がどう見ても私の方が下でしょ。だったら付き合えるんじゃないの?アンタは女を見下したいんでしょ?だったら私の事を見下せばいいじゃん」

(差別的な発言ですみません。ムカついてたので挑戦的な言葉を使いました)

すると西沢君は少しトーンダウンして言った。

「俺はね、お前には絶対に勝てないんだよ。昔からずっと思ってた。俺は一生、この女には勝てないって、ずっとずっと思ってた」

勝ち?負け?

「はあ?なに?さっきは上と下で、今度は勝ちとか負けとか、西沢君何言ってんの?意味わかんないんだけど」

殆どケンカだった

「だから無理なんだよ。俺には無理なんだって。一生かけて、絶対に勝てない女と付き合うのなんて、俺には無理なの。頼むから、俺の男のプライドをこれ以上へし折らないでくれよ、、、」

もう告白も何もめちゃくちゃだった

「意味わかんないよ。勝つとか負けるとか、上とか下とか、私は西沢君のこと、そんな風に見た事なんて一度も無かったのに、、、」

本音だった。
私は西沢君の事は男とか女とか関係なく、常に対等に見ていた。

「平山ごめん。俺が勝手に思ってただけだから…」

西沢君が言う、勝つとか負けるとか、その意味は全くわからなかったけど、私は振られたのだった。私は西沢君に、こっぴどく振られた事だけは事実だった。


なんだか無性に腑に落ちなくて、なんだか物凄く悔しかった。だからなのか何なのか、私はあろうことか、、、

西沢君にキスをした。

え?
なんでwww

自分でも意味不明の行動だった。
ただ、さっきのN子とSさんのそれを見て触発されたのは間違いなかった。

西沢君はビックリしてすぐに離すと、大きな口でニンマリと笑った。私も思わず笑ってしまった。すると西沢君が、

「テメー何しやがんだよ」

そう言った瞬間、今度は西沢君から来た。


それはビックリする位甘いものだった


まるで脳内がとろけてしまいそうな程の、出会って6年、西沢君、アンタはいつの間に、こんなに甘い男になったんだよ、、、

そう思った瞬間に離れた。

「ここまでにしておこう」

西沢君が言った。
多分これ以上続けたら、お互いどうにかなってしまうと思った。私達は友達で、その一線を超える訳にはいかなかった。だって私は今さっき、西沢君に振られたのだから。

西沢君がまた大きな口でニンマリ笑ったから、私もニヤリと笑って言った。

「そうだね。帰るわ」

その後、私はN子とM子と駅前のマックで朝まで反省会をした。N子はSさんの猛攻撃を交わしに交わし、結局連絡先を教えなかったと聞いた。Sさん残念!(N子ったら、あそこまでしておいてw)
M子はM子で長身君と「お互い何とも思ってないのにカップルシートはキツイってw」と笑い話になった。

それから私は西沢君とは会っていない。確か1回か2回電話したかしてないか、それすらも覚えていない。


あれから23年

48歳の西沢君は、今頃世界中を飛び回る商社マンになってると思う。セクシーな男になってるかどうかはわからないけど、元気でいてくれたらと願う。

何はともあれ、
私と出会ってくれた事に感謝してる。
ありがとう。
今だから思うけど、あの時私の前でさらけ出した西沢君の本音は、凄く凄くダサかったけど人間臭くて良かった。
恐らく私が西沢君の事をずっと対等で見れたのは、恋愛感情が無かったからだと思う。今になってわかる。恋愛感情がある男と女なんて、どうしても対等でなんて居られないのだから。

って事で、
今更ネタにしちゃってソーリーね。
(振られた腹いせだよw)
でもね、一言だけ言わせて欲しいの。


あの時のアレは完全に私の負けだったよ、と。



最後まで読んでくれてありがとうございます。

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