風の強い日曜日の午後の話
あの日はとても風の強い日曜日だった。
ビュービュー吹く風に私はふと、ベランダの洗濯物が気になった。
ヤバイ、こんな日は危ない
朝からよく晴れていたから今なら洗濯物を取り込んでも大丈夫。私はせっせと取り込むことに決めてベランダに出た。
当時はまだ息子が居たので4人分の洗濯物は量が多い。良かった、今日は吹き飛ばされないで済んだ。と思ったのも束の間、
あれ?もしかして無い?
無い、無い、無い、ナイナイシックスティーン
今朝干したはずの私の「黒のTシャツ」が無い。ヤバイ。また私は裏の家の庭に取りに行かなければならないのか?
裏の家のオバアサンは怖い。何度か洗濯物を飛ばした事があるのだが、階下に住む母がよく嫌味を言われた。
「あなたのとこの娘さん、洗濯物の干し方も知らないの?」
言われるのが私ではなく母だったので、毎回申し訳なく思っていた。しかしながら、飛んでしまうのは仕方がない。
だって洗濯物には羽が生えていて、飛びたくて飛びたくて飛んでしまうのだから。
恐らくこんな風に言えば、「娘さん、ちょっと頭がおかしい」と思われて同情してくれるのかもしれないが、近所で変な噂を流されてはたまったものではない。
自分から気付いた場合は、裏のオバアサンに謝りに行って取って貰っていたのだが、オバアサンが不在の場合は、
ここだけの話
息子に頼んで塀を超えて忍び込んで洗濯物を取るという「不法侵入」をしていた。本当は釣り竿を使いたかったのだが、うちには「ワカサギ釣り」の
この手の釣り竿しかない。みじけーよw
全くもって無意味だから、不法侵入だとわかっていながらも、息子に乗り越えて貰っていた。
しかしながら時は経ち、あんなにかわいかった息子の顔も体型も「ヤクルトの村上化」していたので、もう塀を飛び越えて「えへへ」で済ませられる少年ではない。
私の「黒のTシャツ」は正攻法で取りに行くしか術は無いのだ。
私はベランダに出て、どの辺に飛んでいるかを確認すると・・・
裏のオバアサンの家の庭ではなく、その隣の家だった。
(あんなに悩んだのにちがうんかいw)
「よかった。」とほっとしたのも束の間、その家は娘のクラスメイトの男子の家だった。私は娘に頼む。
「ねー、お願い。お母さんの黒のTシャツ、ダイキ君の家の裏に飛んじゃってるみたい。お願いだから取りに行ってくれない?ダイキ君と仲いいじゃん。お願い!」
当時5年生の娘、女子の家ならまだしも、なんで男子の家に「飛んでったTシャツ」を取りにいかないといけないのだ。
「ヤダよ!お母さんのTシャツでしょ?なんでそれを私が取りに行かないといけないのよ!」
怒られたw
しかしながら、私はどうしても一人で取りに行きたくなかったのだ。どうしても行きたくない。洗濯物を飛ばしたのも恥ずかしいけど、飛ばされたその「黒のTシャツ」というのが、
ASKAのライブTシャツだったから
なぜ、こんなに沢山Tシャツを干しているのに、飛ばされたのが「ASKA」なのだろうか?恥ずかしい・・・ただの黒のTシャツなら諦められるものの、ASKAさんのTシャツなんて迷い込まれても、ダイキ君宅も困るだろうし。どうしよう・・・
結局私は娘に「お願い、お母さんの一生のお願い!」と拝み倒して一緒について来てもらった。
そしてピンポンを押して出てきたのがダイキ君のお父さん
「あのー、すみません。敷地内に黒のTシャツを飛ばしてしまってようで、大変申し訳ございません」
謝り倒す事はカード会社の受電のパートで慣れている。怒られたら、謝り侍のごとく頭を下げればいいのだ。
にこやかな顔をしてダイキ君のお父さんが出てきた。「コレですか?」そう、それそれ。一見ASKAとわからないながらも、ASKAと書いてあるそのTシャツ。
「ありがとうございます。いつも娘がお世話になっております。これからも宜しくお願いします」
っとまぁ、こんな感じで事なきを得たのだが、それにしても娘も「ほんっとに恥ずかしい。なんで私が一緒に来なきゃならないのよ。ダイキが出てきたらどうしようかと思っちゃった。お母さん、今後は飛ばさないでよ!」
はい、トゥイマテン
それにしてもあんなに大切にしていたASKAさんのライブTシャツ、今じゃすっかり「家着」から更に降格して「寝間着」になってしまったわw
でも好きは好きだから。
私の愛は変わらないから。
ただ「熱狂的」じゃなくなっただけだから。どうかASKAさん、そこはご勘弁をw
*
というわけで、台風が近付いていると言うのに、こんなお気楽記事を挙げてしまう私をお許しください。
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