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#28 アクシデント2

その夜、猛烈な寒気に襲われる。体温計のメモリを振りきるほどの高熱、歯ががちがちと音を立てる。悪寒の止まらない私を見ていた母が「温めるのかしら、冷やすのかしら」とのんきに悩んでいるところへ父が帰宅。発熱の経緯を問いただされた母は怒鳴り飛ばされた。

(誕生日のから揚げの件にしてもそうだが、母の「分かりました」は一番信用ならない言葉。おそらくこれは母のマニュアル本で重要事項なんだろう。「分かりましたって答えると会話が終わる!」と認識している節がある。これはもっとも揉める原因になっていた。)

今回も「分かりました」で切り抜けられると思った母。私が高熱を出すのは想定外だったのだ。

翌朝、父に連れられて病院へ。医師は一目見るなり救急車を要請。大学病院で精密検査となった。週明けから学校に戻れるはずだった私は更に一週間絶対安静を言い渡される。

徒歩20分を要する中学へは歩いて行けず、父が毎日自転車で送り迎えをしてくれた。車なら目立たずに済んだものを、あいにく父は免許を持っていない。職場と自宅が隣り合わせで時間の融通が利くという点は幸いだったが、一般的には会社に行って男親は不在の時間帯である。それなのに登下校時に決まって現れる父の姿は同級生たちから妙な注目を集めることになった。

「おまえの父ちゃん働いてねえの?」「おまえ一体幾つだよ、親父に送り迎えされなきゃ学校来られないのかよ」

右足首は何かに触れると激痛が走るため靴が履けない。校内でもスリッパで過ごした。片足だけ靴を履いた状態で自転車に乗せられる私の姿を見て、見知らぬ学年の生徒までが

「あいつ片方靴ないじゃん。落としたのに気づいてないの?それとも頭足りねえの?」と揶揄。『目立つな』という母の言葉に反して学校中のさらしものになっている気がした。

既に通常の授業が始まっており、ものすごく遅れをとった私。何事も初めが肝心なのである。仲良しグループは完成されていて何処も定員いっぱいという感じ。最初に声をかけてきた彼女も沢山の仲間を従えていて私への関心を失っていた。このままなんとなくひとりで過ごすことになるのか。

部活動の選択にも母は口を挟み「それも無理。これも無理。卯月に続けられるものなんて何もない」と断言。「あなたは大人しく家で本を読んでいるのがいいと思うの」

ひとりは寂しいと思いながらも、母親が太鼓判を押すほどに駄目な人間なんだと認識するようになっていった。こんな私だから誰からも受け入れてもらえないんだ。人の輪に飛び込んでいく積極性が無く、結局帰宅部に。とうとう自らにダメ人間の烙印を押した。


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