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#27 アクシデント1

制服を着て自転車通学をする。それがものすごく大人びた気分になった中学生。心機一転新たなスタートが切れますように。ずっと仲良しでいられる友達が出来ますように。そして今度こそ私の居場所が見つかりますように。

すがるような思いで臨んだ入学式。母はこんな言葉で私を送り出した。

「いい?問題だけは起こさないでね。美枝ちゃんの時みたいな揉め事に巻き込まれるのママ絶対に嫌だから。目立たないようにおとなしくしてるのよ。何かあったらとにかくすぐ謝るの、分かった?!」

なんとも母らしい。娘の成長を喜ばしく思ってる言葉じゃないな。

最初に声をかけてきたのは逆らうと面倒なタイプの子だった。気の合うタイプじゃないなと思ったが、従っている限りは目をつけられないだろうとの計算が働いた。母の言葉が頭の中をぐるぐる駆け巡る。

そんな入学直後、原因不明の症状に襲われた。右足首が腫れあがり高熱を出したのだ。あまりの痛さに足をつけず家の中を這って移動しなければトイレにも行けない始末。友人関係が構築されるこの最も大切な時期、一週間も欠席する羽目になった間の悪さ。自分を呪った。

そこへ追い打ちをかける事態が起こる。毎日病院に連れて行ってくれた父の出張だ。母は自転車に乗れないため歩けない私を連れて行く手段がない。最寄りの整形外科まで徒歩5分とかからない近さ。背に腹は代えられないからタクシーを呼びなさいと言った父に対して母の返事は「分かりました」だ。

私は知っている。母の「分かった」がどれだけ危険な返答なのかを。

そして翌朝、母は言ったのだ。

「ママね、赤の他人に文句言われるなんて絶対イヤなの。こんな近い距離でタクシーなんか乗ったら絶対に文句言われる。今朝は熱も下がったみたいだから学校に行く練習だと思って歩きましょ。どんなに時間がかかっても付き合ってあげる。」

一歩足を地に着ける度、激痛が走り痛みで声が出る。30分もかかってようやく病院に到着した。

「よく出来ました。やれば出来るじゃないの。中学生になったんだからいつまでも親を頼っていては駄目。明日からは一人で病院に通ったらどう?」

じゃ血液検査しようねと言われた瞬間、いつものように診察室から逃げ出した母。そして帰りも30分かけて帰宅した。





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