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#25 泥棒よばわり

小学4年生の頃に起きた出来事。

我が家は両親の働く職場と自宅が同じ場所にあったため、形式的には共働きに分類される。学年が上がるにつれ母が自宅に顔を出す頻度は減り、日中はひとりで家に居る時間が増えていった。

食器棚の奥に大量の缶詰めや瓶詰を発見した私は、おやつに食べようかなと手にとって驚いた。瓶の中身は液状化していて正体不明。缶詰めにも錆がついていたのだ。(この頃は賞味期限の記載はなかった)常日頃『ママは忙しくて大変なんだから』と言われてきた私は時間をかけてそれらを綺麗に処分した。スッキリ整った棚を見てきっと喜んでくれるに違いない。

仕事から戻った母は棚に気づくと怒りで声を震わせながら言った。

「誰がこんないたずらしてくれって頼んだのよ。全く余計なことしてくれる。謝りなさいよ!ママの物に無断で手をつけるなんて、それじゃ泥棒じゃないの」

「食べ物はみんなの物でしょう?腐って食べられなくなった物を片づけたのに泥棒だなんて言われたくない」

「うるさいわね。親の言うことは絶対なの。早く泥棒してごめんなさいって謝りなさいよ!」

「嫌だ」

引っ叩かれるのは慣れていても往復ビンタは初めての経験でたじろいだ。幾ら親だって女の子にしますか?往復ビンタ。

この時、私の中で張りつめていた糸が切れた。もう限界だ。一所懸命母好みの子供を演じてきたけれどこれ以上続けるのは無理。

幼い頃からうるさくするなと本ばかりを与えられてきたせいか、母の矛盾なと軽く言い負かせるほどの語彙力を備えていた。言葉で言い返さなければ一方的に傷つけられる。自分を守る為には母を論破するしかないのだ。

立腹すると母の言動はいつにも増してとんちんかんになる。感情の処理速度が暴走するというか、話の流れについてこれないのだ。私の発言を受けて返してくる母の言動は発言の中に出てきた単語ひとつに執着。連想ゲームのように話が本筋からどんどんズレてゆく。子供の私はそこが本気で腹立たしいのだ。『子供の言い分なんてまともにとりあっても時間の無駄』とばかりにあしらわれているようで。

(例えば「目が悪いから外を歩いていた時、落ちていたゴミを白いお花だと思って拾おうとした」と聞かされ、私が「バカねえ。でも危ないから眼鏡をかけて外に出たらどう?」と返したとする。母の次の発言は「バカ?親に向かってバカですって?謝りなさいよ!」となってしまうのだ。一事が万事この調子。どうして普通のやりとりが出来ないのだろうと苦悩してきた。)



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