わたしがニコ生を見たことがない理由



ニコ生が流行っていた当時、わたしには彼氏がいた。

とはいっても仲の良い時期は過ぎ、
「別れてもいいけど別れる理由もないからなんとなく一緒にいる」
という日々だった。


その男はいつもお金が無かった。


わたしの誕生日にも、

「プレゼントが用意できそうにないから、

 焼肉食べ放題おごるから、それでいい?」

という提案をされた。

わたしは当時から焼肉が大好きだったし、

相手にお金がないことも知っていたので、
それで充分だった。

3000円くらいの、焼肉食べ放題。

本当にそれで充分だと思っていた。

が!

いつの頃からか会うたびにバイト先の後輩の話をされるようになった。

 『バイト先の後輩は〇〇らしい』

 『バイト先の後輩と今度飲みに行く』

 『バイト先の後輩に〇〇をおごった』

 『バイト先の後輩とカラオケに行ったら飲みすぎて出禁をくらった』

 『バイト先の後輩はニコ生をやってるらしい』…


そして、バイト先の後輩と今度レンタカーを借りて二人で遊びに行くと言い出した。

奴は見栄っ張りだったので、きっとおごるだろう。

お互い異性の友人が多く、異性と二人で遊ぶことを禁止したりはしなかった。

今までは好きにやっていたのだが、
さすがにこれは…


そもそも、彼女の誕生日よりめちゃめちゃお金使ってるよね??

あーもーこれはあれだわ、
やってんな???

がしかし、
あまりにもわかりやすすぎて逆に怖かった。

「え、これでバレてないとか普通は思わないよね…?」

思いっきりバカなのか、
それとも本当に何もないのか…。

うーん、バカの方に1万票!!!!!


どっちにしろもうめんどくさいので別れることに決めた。



数日後、別れ話をしたあと、帰る直前の玄関で奴は言った。

「ごめん、俺実は浮気してたんだ」


知っっっっっっってた!!!!!!



めちゃめちゃ知ってたし、

なんならそれに触れないまま別れようとしたわたしの気遣いとは????


「後輩とカラオケに行って飲みすぎて出禁になったって話、
 あれ実はカラオケ屋でセッ久してて見つかって出禁になったんだ…」


はああああああああああああ!?


思わず、
「ホテルとか行けよ!!!!!!」
と絶叫してしまった…。
なぜだか知らないが、一番許せないのはここだった。

盛り上がってカラオケ屋で致してるんじゃねぇ!!!!!
そういうの、許されるのは高校生までです!!!!!

(※高校生でもダメです)

浮気するなら、ちゃんと浮気して…。

カラオケ屋って…カラオケ屋だよ???
えぇ?????


罪悪感からなのか、
それとも自分から別れを切り出したかったのにわたしに言われてモヤッたんだか知らないが、
最後に余計な告白をしてくれたのであった。

「元」がついた男をブロックしようとTwitterを開くと、

「俺もニコ生やってみたいな〜!」

というつぶやきが見えた。
ニコ生女と順調なようであった。
もう未練など1ミリも無かった。

だけどブロックしながら、
「遭遇の可能性のあるところは避けたいな…」
と思ってしまい、わたしはニコ生を見るタイミングを逃した。


そこからしばらく時が流れ、この変な思い出を忘れかけていた頃に奴から急に連絡があった。


内容は、

「彼女(ニコ生女)に浮気されたので別れた。とてもつらい。
 自分はとんでもないことをしてしまったのだと今更知った。
 もう遅いとは思うが謝りたい」

人の男をカラオケでとっちゃうような女、そりゃ浮気するだろうなぁ(ハナホジー)と思いつつ、

なんだかとっても面白そうなので「飯奢れよ!」と言って呼び出した。

正直言って頭の中に浮かぶのはただ四文字、「メシウマ」であった。


奴が決めた店は、いつかの誕生日におごってもらったお店より少しだけいい焼肉屋だった。
そして食べ放題では無かった。



奴は半同棲のような形でニコ生女と暮らしていたが、

ある日の夜中に目が覚めて枕元のスマホを触ると、自分のでは無くてニコ生女のスマホだったらしい。


そして、その通知画面には
「今日はほんと良かったわ〜!またセッ久しようぜ!」
百倍ゲスくしたような内容のLINEが見えたらしい。


あわててニコ生女を起こして問いただすと、
お決まりの
「寂しかったから…」
と言われたようだった。

めっちゃテンプレやん。


ふーんとかへぇとか言いつつ焼肉を頬張っていたわたしは、

『ツメが甘いだろ、通知欄に映るような設定にすんなよ』
『奴にNTR属性は無かったんやなぁ…』
『他の男とヤった後に彼氏の隣で眠れるのって神経太すぎィ!!!』
『てかその男と朝まで寝るより、切り上げて帰ってきて奴と寝るのを選んだって結構謎やな』

などと思ったが、
「へぇー大変だったんだね」
と言うにとどめた。

奴はいかに自分が辛かったか、
そして自分がわたしに対してどんなに酷いことをしたか、
当時のわたしがどんなに辛かったことであろうか…などということを勝手に述べ始めた。


わたしは正直言ってそんなに辛くなかった。
というか、
カラオケで致すようなアホと付き合ってられないから別れて良かったわ!!!!
(やっぱり争点はそこ)
と思っていたのであるが、
まぁなんていうか雰囲気的に黙っておいた。
焼肉代のこともあるし。


「ひどいことをしたが許してほしい」
みたいなことも言われ、
『許すも許さないもないよな、もう別れてるし別に友達でもないし』
と思ったが、
「まぁ反省したならいいんじゃない?」
みたいなことをてきとうに言っておいた。


奴にはまだまだ金が無いであろうと思ったので遠慮して食べたし、

奴は食欲がないようであったので早めに切り上げることにした。

奴はわたしの家まで送ってくれる道の途中で、
「俺たちってさ…」
と話し始めた。

あっこれ自分がやったことを全て忘れて都合よく元さやに戻りたいパターンのやつだ!!!!!
さっきの許してほしいってそういう意味だったんかい!待たんかい!
アホかこっちはお前のことなんか忘れとったわい!!!

一瞬にして色々悟ったわたしは、
「いや〜わたしと君はもう燃え尽きたからね。炭だよ」
と遮るように多少大きな声で言った。


すると奴はこう言った。
「でも、炭って、火がつくやん??」


隣を歩く元彼の、多少のキメ顔とともに発された、
「でも、炭って、火がつくやん??」
正直言って面白すぎて、
セリフにエコーがかかりつつ頭の中を駆け巡っていた。

「でも、炭って、火がつくやん??」

「でも、炭って、火がつくやん??」

「でも、炭って、火がつくやん??」

「でも、炭って、火がつくやん??」

「でも、炭って、火がつくやん??」


こんなうまいこと(かどうかわからないが)言えるやつじゃなかったよな、とか色々思うことはあったが、
笑うのはたぶん違う気がしたので頑張ってこらえた。(えらいわたし!)


そして、
「ごめんごめん、例えが悪かったわ。わたしと君はもう灰なの!

 あっ花が咲かない方の灰ね!!いや、もう灰も何もないの!!!
 無!無だから!ごちそうさまでした!!!」
と言って足早に帰った。


奴が花咲か爺さんのことを思い出さないとも限らなかったので、余計な一言を付け加えることになってしまい、余計になんだか微妙な気持ちになった。


こうしてわたしは、
ニコ生を見ないことと引き換えに、「炭には火がつく」ということを知ったのであった。(知ってた)

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アヤメベニカ
本を買って読んで語彙を増やしたり、楽しいことをしようと思っています!それでまたネタを増やして記事を書きますね!!!