ほっともっとに人生を救われたことがあるか?わたしはある




付き合ってからの初めてのデートもドキドキするが、
付き合う前のデートもなかなかドキドキすることだと思う。



わたしは大学に入って一ヶ月くらい経った頃、発熱して授業を休んでしまった。

初めての欠席、一人暮らしの発熱で不安になる中、
友人からの差し入れなどでなんとか回復した。

中でも友人になったばかりのMくんは、

わざわざ材料を買っておかゆを作りにきてくれた。

その対価に何を求めるでもなく、
材料費を払おうとするも固辞され、

さらにみかんゼリーなども買ってきてくれた。

実家から大学に通ってきているのに、
随分家庭的だなぁととても好印象だった。

見た目はちょっと濃い目の顔だったけど、とても爽やかだった。

Mくんは、


「俺、美味しいカレーが作れるんだ。

 今度ベニカにも作ってあげるよ」
とよく言っていた。
家庭的な男がタイプの俺一目惚れである。

そしてMくんは、
「ベニカが回復したらどこかへ出かけようか」
と誘ってくれた。

 それって、デートじゃん!

 発熱して寝込んでいるところにおかゆをつくりに来てくれるだなんて、いいやつじゃん!
 そこまでしてくれるなんて、たぶんわたしにそこそこ気があるじゃん!
 もうこれは、付き合う前のデートじゃん!


テンションがダダ上がりしたわたしは、早く回復しようと努めた。


努力の甲斐あって、数日後にはめちゃくちゃ回復した。
お互いの授業のない時間を選び、街中の商業施設まで出かけることになった。


 友達だったはずなのに、一緒に出掛けるの緊張するな…。
そんなことを思いながら必死で服を選んだ。


当日、合流して開口一番、

 「体調は大丈夫?無理しちゃダメだよ」

と声をかけてくれるMくんってやっぱり優しいなって。

こんな人が彼氏になったら素敵だなって思った。


一緒に乗った公共交通機関を降り、商業施設まで歩いていた。

わたしはその場所に行くのが初めてだったので、かなり楽しみだった。


商店街の中を歩いて、目当ての商業施設へ向かった。

 「お腹すいたね〜」
なんて言いながら。

 『Mくんと食べるならなんだって美味しいよ!』
なんて、沸いた頭で考えていた。


すると、通り道にほか弁があった。

 「あっ!ほか弁買おうよ!

  俺は肉野菜炒め弁当にするけど、ベニカはどうする?」



は???????????


商業施設に買い物デートに行く途中、
ほか弁って買うもの????????

ハイキングとかじゃないよね??????

商業施設内または近くのレストランとかで食べるんじゃないの??????

??????????


脳内にハテナが充満して爆発寸前であったが、
Mくんはとてもスマートに肉野菜炒め弁当を注文した。

スマートというか、ものすごく素早かった。

瞬発力ってこういうことを言うのかなぁなんて思ってしまったほど。

ねぇそんなに早く注文しなくても、ほか弁は逃げないと思う。


「ベニカは何がいい?買ってあげるよ」

人生でこんなにも嬉しくない「買ってあげるよ」は他に無かった気がする。
ほか弁は好きだが、絶対に今じゃないと思った。


「いや、別に…」
突然の出来事に驚いてしまい、頑張って絞り出した二語だった。


お腹はすいていたけど、ほか弁のためにあけていたわけじゃない。

商業施設内でキャッキャウフフしながら、デートというものをしながら、
何かしらを食べるためにすかせてきたはずだった…。


今から行くのって、商業施設だよね?
買い物をするんだよね????

ほか弁??????????
お腹はすいたけど、
ほか弁…????????


どこで?????????

肉野菜炒め弁当を受け取ったMくんは、

 「いや〜俺、これ好きなんだよね〜」
とかなんとか言いながらまた歩き出した。

さっきまでお腹がすいていると言っていた隣の女が何も注文していないことに、1ミリも疑問はわいていないようであった。

そして、目的地は商業施設で間違いないようだった。
だって、見えてきている。


 ほか弁、
 どうするの…?????


商業施設は川のそばにあり、座れるところもありそうだった。

まぁ川沿いとかに座って食べるならアリ…なのかな???
と思っていると、Mくんは言った。


「テーブルとイスがあるから、ここで食べよう!」


どう見ても商業施設の一階に入っている飲食店のテラス席です。

本当にありがとうございました\(^o^)/


「いやここ、お店の席じゃない…かな…?」
多少引きつつ言うとMくんは明るく、

「え?空いてるからいいじゃん!
 早くベニカも座りなよ!」

と言ってきた。
というか言いながらもう弁当を開けていた。はやっ。


Mくんはめちゃくちゃ楽しそうに肉野菜炒め弁当を食べていた。
もう、色々と突っ込む間もなかった。


人通りの多い道の横の、商業施設の飲食店のテラス席で、
ほか弁を食べる男と、その向かいでなにも食べていない女…。



わたしは、
・お店の人が出てきて怒られませんように

・知り合いがここを通りませんように

・早くMくんが弁当を食べ終わりますように

以上3点を、神にめちゃめちゃ祈っていた。


神というものをあんまり信じていないわたしがこんなに祈ったのはこの時と、
快速電車の中でトイレに行きたくなった時くらいである。


わたしが突然信心深くなったことを知らないMくんは、
「ベニカも一口食べる?」

などと完全にいらない気遣いをしてきた。

「いやぁ…大丈夫だよ…」

わたしはきちんと微笑めていただろうか?


良いからさっさと食い終わってくれマジで。




神に祈るのに忙しかったが、途中脱線してほか弁を恨みそうになってしまった。

なんで商業施設に行く途中にほか弁があるのか!


そこまで考えてしまったが、完全にとばっちりである。

ほか弁は、なにも、悪くない。



神に祈ったおかげなのか、


知り合いに会うこともなく、

お店の人に怒られることもなく、

Mくんは肉野菜炒め弁当を食べ終わった。

 おいそのゴミを商業施設に捨てるのはなんか違うだろ!!!!

そんなことを思いつつ、ぎこちなく微笑むわたし。



そのあと何をしたのか一切覚えていない。


きっとてきとうに商業施設をまわった後、早めに切り上げたんだと思う。

一生分の不幸を背負った気分で帰宅した。

そして、とってもお腹が空いていた。

確か「送るよ」とかなんとか言われた気もするが、
一刻も早く一人になりたくて、めちゃくちゃ断った記憶だけはある。



その日のMくんからの連絡は無視した。



そこから数日が経った。

モヤモヤした気持ちでMくんのことをずっと考えてしまっていた。

 やっぱりいい男なんじゃないか?

 おかゆを作れる男だぞ?

 こんなことで逃すのはもったいないんじゃないか?

 テラス席で食べるなってわたしが言えば良かっただけなのでは?


だがしかし、どんな良いことを思い出そうとしても、

もはやわたしの脳内は、
『でもこいつ、飲食店のテラス席で肉野菜炒め弁当を食べるからな…』
と自動で付け足してしまう仕様になっていた。

 うーん、わからん!!

 これは自分の頭だけで判断して良い問題ではないな。

そう思ったわたしは、誰かにMくんの評判を聞いてみることにした。


Mくんと同じ学部、同じ学科の子がちょうど同じサークルにいたので聞いてみた。


 「Mくんっているじゃん?あの人って…」

 「あー!わたし、今連絡とってるよ!

  なんか、今度美味しいカレーを作ってくれるらしくてさ、料理できる人って好感度高いよね〜」


手口が同じ!!!!


 『でもそいつ、テラス席で肉野菜炒め弁当食うよ?』

とは言えなかった。

そんなことを言ってしまったら、根掘り葉掘り聞かれてしまう。


 「えっどうかした…?もしかして…」

彼女はわたしの微妙な表情から何かを察したようだった。

 「わ、わたしも美味しいカレーを作ってくれるって言われて…」
余計なことは言わないように、言葉を絞り出した。

 「えーなにそれ!?ベニカにもわたしと同じこと言ってるってこと??最低じゃん!!」

本当はテラス席で肉野菜炒め弁当プレイまで済んでいるんだ、とは言えなかった。

その後の調査によると、
Mくんはわたし含む一人暮らしの女の子4人に対して、家に行ってカレーを作る約束をしていたことが発覚した。

さらにさらに、
高校が同じで一緒に進学してきた、幼なじみのような彼女のような存在の子がいることもわかった。

大学が狭かったので、少し聞き回るだけですぐにこんなにも情報が集まってしまった。
Mくん、横の繋がりって実は結構あるんやで…?


調べていた時、妖怪カレー振る舞いの被害者の会のようになった瞬間があった。

わたしはすでに彼のおかゆを食していて、肉野菜炒め弁当プレイを体験済みとは言えなかった。

だからもしかしてその中には、
すでにカレーを食べていた人がいたのかもしれないと思う。

Mくんからの連絡には、
「〇ちゃんと〇ちゃんと〇ちゃんにもカレーを作るんだって?」
と返した。返事は来なかった。

わたしの中では謎の審判が大きな声でこう叫んでいた。
 セーフ!!!!!!!!!!
とってもギリギリだった、めちゃくちゃ危なかった。

タイミングを間違えた場合、
「〇〇ちゃんの好きなMくんをとった女」
のレッテルを貼られる可能性があった。
しかも、×4人分


それを想像すると、めちゃくちゃ怖かった。


素敵なキャンパスライフの二ヶ月目からつまづくわけにはいかないのだ。
とにかくとにかく、よかった。

うっかり付き合ったりしなくて、よかった…。

誰にも見られなくて、よかった…。

テラス席プレイから早く帰宅して、よかった…。

わたしの目を覚まさせてくれた、ほか弁よありがとう…。


しかし、カレーのレシピだけは聞いておけばよかったと思っている。


それ以来、
肉野菜炒め弁当を食べるたびに彼を思い出す…


なーんてことはなく!!

ほか弁に大いなる恩を感じていて、ほか弁をたくさん買うようになった…


ということもなく!


ただ単に美味しいし助かるからほか弁を買っています。
ほか弁だーいすき!!!!!!




※便宜上「ほっともっと」のことを「ほか弁」と書いておりますご了承ください。

※ほっともっととの癒着などは特にありません(当たり前だ)


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アヤメベニカ
本を買って読んで語彙を増やしたり、楽しいことをしようと思っています!それでまたネタを増やして記事を書きますね!!!