「二次創作をしたい人のための『イメソン短歌』」
【はじめに】
こんにちは。六日野あやめと申します。
今回は、『二次創作短歌』の作り方について解説します。
アニメやゲームのファンには、小説やイラスト、マンガなどで、作品に対する自身の解釈を表現している方がたくさんいます。
その一方で、「創作ができない自分」にコンプレックスがある方もいると聞きます。
絵心が無く、イラストもマンガも書けない。
文章の書き方は国語の授業で習うものの、小説となると、プロットの立て方など、勉強しなくてはならないことがたくさんあり、断念……。
そんな方もいらっしゃることでしょう。
そこでご提案するのが『短歌』です。
「短歌なんて国語の授業でしか詠んだことないよ!」
そんな人が大多数だと思います。当然です。我々は平安貴族ではないので……。
でも、大丈夫。
むしろ、短歌はオタクが一番やりやすい二次創作です。
ところで、ニュースなどの音声表現を聴く際、一度聞いただけで意味が理解できる文章の長さは、三〇文字程度です。
文章の指南書でも、だいたいこのくらいで文を区切るとよいとされています。
対して、短歌は三十一音。
この文字数と非常に近いですね。
ツイッターにアカウントを持ってらっしゃる方なら、ストーリーを読んだ後、感想をつぶやかれるかたもいると思います。
つまり、あなたの「感想を一文で表すなら?」を、五七五七七のリズムに落とし込めばよいのです。(結論)
とはいえ、自分で一から何かをつくるのは、ハードルが高い。
そこで、楽曲の力を借りるのです。
【イメソン短歌とは……】
「イメソン短歌」とは、自身の短歌に、他の楽曲のモチーフやワードを流用するものです。
私が名付けました。パイオニアでございます。
私はボカロ曲が好きなので、作品を読んで
「このキャラの心情ってこの曲の歌詞に似てるな」
「このシーンにあの曲を流しながら聞きたいかも」
という場面が多くあります。
なので、その欲望を形にします。
「そんなのパクリじゃん!」
「ちゃんと自分で考えなきゃ、創作じゃない!」
とんでもない。
むしろ、他人の作品を借りることは、短歌の醍醐味。重要なスキルなのです。
【本歌取り】
短歌……明治時代以前のものは「和歌」と呼ばれますが……の頃から、「本歌取り」というレトリック(表現技法)があります。
つまり、既存の創作物(本歌)の一部を使った新しい歌を詠むことで、本歌の文脈や世界観を自作の中に取り込み、作品の幅を広げる、ということです。
短歌は、三十一音しかありません。連作として発表するにしても、作文や小説に比べると、ぐっと少ない。
なので、一つの単語や作品に複数のイメージを持たせることは、とても重要です。
今回は、私が過去に詠んだ作品を解説しながら、「本歌取り」で二次創作短歌を制作するノウハウについてお話しようと思います。
とはいえ、私は短歌を一〇年詠んでいますが、受賞歴も、肩書もありません。邪道に咲いた根無し草です。
ですが、数は書いております。
ですから、これはあくまで
「作品を読んでの自身の気持ちを、いかに短歌に落とし込んでいくか?」
「そのために、どんな表現の引き出しがあるのか?」
というお話です。巧拙は置いておいてください。
もし短歌に興味を持っていただけたら、カルチャースクールに通うなり、歌集を読むなりで、クオリティを高めていただければと思います。
【用語】
歌……短歌、和歌のこと。「一首、二首……」と数えます。短歌を作ることを「歌を詠む」と言います。
詠む……短歌を作成すること
読む……他人の短歌を鑑賞すること
本意(ほい)……作者が作品に込めた意図
【大まかな流れ】
今回は、
という歌を例に解説していきます。
こちらの歌は、スマートフォンゲーム「プロジェクトセカイ」のキャラクター「東雲彰人」が主人公のイベントストーリー「STRAY BAD DOG」を読んでの作品です。
短歌を詠む際の大まかなステップは以下の三つ。
種を見つける
枝を伸ばす(連想)
剪定する(短歌として整える)
です。
【種を見つける】
まず、歌になる要素「種」を見つけます。
種とは、
ストーリーやキャラクターのグッときたところ
イメソン
のことです。
〇ストーリーやキャラクターのグッときたところ
言わば「スクショポイント」です。推しがてぇてぇすぎて、思わずスクショしたセリフやシーン、そのストーリーやキャラの好きなところを書きだします。
「STRAY BAD DOG」で私がグッときたのは、以下。
①「他のメンバーに比べて才能が無い」と言われ、追い詰められる彰人
②スクランブル交差点で、悩んでいるシーン
③「Ready Steady(※)」のインストと共に、彰人のピンチを助けにくるチームメイトたち
※Ready Steady
〇イメソン
「プロジェクトセカイ」は、イベントストーリーごとに書き下ろしの曲がありますので、今回はそちらを使います。Ayaseさんの「シネマ」です。
歌詞やメロディーから「ここがイメソンっぽいな…」という点を探します。
私は、
Ⅰ 『「始めるなら今!」そうだな またやろう……』というフレーズ
Ⅱ オシャレなシティポップ感……「都会」のイメージ
Ⅲ 夢を追う人間にフォーカスする、Ayaseさんの都会観。(「ラストリゾート」「幽霊東京」など)
が欲しいと思いました。
思い浮かばない場合は、お好きな楽曲や、有志のイメソン動画から参考にするのもおすすめです。
「魔法使いの約束」にて、以前作成したものがありますので、例として掲載します。
【枝を広げる(連想する)】
「ストーリーのグッときたところ」「イメソン」が見つかりました。
次に、モチーフになりそうなアイテム、使えそうな言葉を増やします。
絵を描く時も、絵の具や筆がたくさんあったほうが、選択肢が広がりますよね。
「種」で書きだした「ストーリーやキャラクターのグッときたところ」「イメソン」を念頭に入れつつ、連想ゲームをします。
苦手な方は、「マインドマップ」を活用し、目に見える形にすると良いでしょう。
私の場合は、こうなりました。
この中で、目をつけたのが
「バニラのトラック」です。(あんな大きなトラック、地方ではあまり走りません)
水商売を勧めるトラック……「始めるなら今!」なんてフレーズを爆音で流していそう……と思いつきます。
イメソンでグッときたフレーズ「始めるなら今!そうだな」と繋がりました。
「始めるなら今 !そうだな またやろう……」
何度挫けても立ち直る彰人らしい、素敵なフレーズです。
でももし、その言葉を、水商売を勧めるトラックからかけられたら、どう思うでしょう?
なんだか面白くなってきました。うずうずします。
浮かんだものをすぐ短歌にする必要は、ありません。
まずは短い文章にしてみましょう。
短歌は一人称の場合が多いので(体感)、「彰人(オレ)」の視点で書きます。
という、短い時間や空間を切り取った文章ができました。
これが、短歌によって表現したい情景や気持ち……「本意(ほい)」と呼ばれるものです。
それでは、これを短歌にしていきましょう!
【剪定する】
〇言葉を削る
まず、先の文章から、言う必要がないもの、言わなくても相手に伝わりそうなところをバンバン削ります。
だいぶスッキリ。
〇言葉を置き換える
最後に、音数が「五・七・五・七・七」になるように、言葉を置き換えます。
「バニラのトラック」→「桃色のトラック」(エッチなものをピンク色で例えるケースは多いですよね)
「始めるなら今!」→「始めるならば今!」
そして「お前なんかに慰められたって困るんだが……」を、下の句に合う字数に調節します。
完成しました。
いかがでしたでしょうか。
曲の力を借りることで、書きたい風景や言葉が見つかりやすくなったと思います。
え?
まだ詠めてないものがある?
「彰人のピンチを助けにくるチームメイトたち」は、どうしたのかって?
そうなんですよ……。不完全燃焼なんです。
言いたいことがたくさんあったら、ひとつにまとめるのは難しいんです……。
こんな時にどうするか……。
燃え尽きるまで、詠みます。
【連作】
さっきの歌では、
①「他のメンバーに比べて才能が無い」と言われ、追い詰められる彰人
②スクランブル交差点で、悩んでいるシーン
という「グッときたところ」
を表現出来ました。
ですが、
③「Ready Steady」のインストと共に、彰人のピンチを助けにくるチームメイトたち。
については、詠めていません。クソっ!
このように「一首じゃ上手くまとまらない!足りない!」という時は、詠めるだけ詠んで、連作にしましょう。
さっき書いたマインドマップを見直します。
まだ使っていないモチーフがたくさんありますね。
さっきと同じように、
マインドマップから言葉を拾う
書きたい「情景」を文章にする
言葉を削ったり、言い換えたりする
を行います。すると、
こうなりました。
・映画
〇「教会」「パイプオルガン」「口角を人差し指で引っ張る」
=映画「天使にラブソングを」
〇ブリュレの砂糖を割るのが幸せ
=映画「アメリ」
「アメリ」「天使にラブソングを」といった、映画の名前が出てきました。
本歌取りするのは、楽曲でなくともよいのです。
・お菓子
ゼリービンズ、ブリュレ、ポップコーン
ゼリービーンズの量り売り(売店にある量り売りのお菓子)、ポップコーン(映画を見る時によく買われる)
さらに
・「見ているだけがいちばんすき」
「Ready Steady」の「ただ見ていたいだけ なんてのは嘘です」(冬弥の気持ちが反映されたフレーズ)
・「口角を人差し指で引っ張る」を「笑わなければならない場面でのおまじない」にしていそうな杏
・自信がなく「こんな私でもみんなと歌っていてもいいよね?」と問いかけるこはね
の歌を詠みました。
楽曲「シネマ」に「お菓子」「映画」というテーマを追加して、続きもの感を演出。
さらに、冬弥、杏、こはねの歌を入れることで、彰人以外の仲間の存在が見えるようになりました。
(だれがどの歌に対応しているのかが分かりづらいのは、私の落ち度です。反省)
これで、最初に挙げた「グッときたところ」をすべて消化しきることができました。
スッキリしました。今夜は安心して熟睡できます。
【レトリックを使おう】
さて、ここから先は、歌を詠む時に使えるレトリック……「表現の引き出し」のお話です。
「三十一音で五七五七七のリズムなら短歌」といえばそうなのですが……。
せっかくなら、自分の本意が、読んでくれる相手に伝わるようにしたいものです。
レトリックは、その手助けになるものです。
「比喩(直喩、陰喩、換喩、擬人法)」などは、国語の授業で習うでしょう。それに、作品を鑑賞できるほど日本語に長けていらっしゃる方なら、無意識に利用していますので、省略します。
気になる方には、こういう書籍があります。
それでは、レトリックについて、過去作を引用しながら紹介します。
難易度ごとに「☆」をつけてみました。
【難易度☆:今すぐ使える】
【仮名】
「漢字」「ひらがな」「カタカナ」を、イメージによって使い分けます。
このイベストは「周りに気を遣うばかりに他人に何も言えなかった穂波が、合唱コンクールをきっかけにして、自分の意思をはっきり伝えることの重要性に気づく」というストーリーでした。
穂波の強い意思を表現するため、「曇天」「吾(あ)」「切っ先」など、あえて漢字を多く使っています。
雰囲気が変わることがわかると思います。
自分が伝えたい本意に対して、どの表現が合うかを考えてみましょう。
【スペース、記号】
詩は、改行などの見た目も大事。空白や句読点も使っていきましょう。
「ピアノ」「バイオリン」「フルート」の間にスペースを用いることで、一つ一つの楽器がイメージできると思います。
さらに、歌の中に実際に空洞が開いていることで、下の句の「空洞」がひきたつ(なら嬉しいな)と思います。
また、この上の句を五七五で区切ると「ピアノバイ/オリンフルート/空洞で」となります。
「バイオリン」という言葉が、が五七五の切れ目をまたいでいますね。
これを「句またぎ」と呼びます。
むりやり、各句の音数にピッタリ合う言葉を探す必要はないのです。
「飛び越える」に句読点を打つことで、読者がその文字を読むのに費やす時間が長くなり、まるでスローモーションのようになります。
【韻】
短歌には「五七五七七」というリズムがあります。
似た響きの言葉を重ね、そのリズムを強調します。
上の句の頭が「バ+ラ行」で統一されています。読んでいて、口が気持ちいいですね。さらに、下の句の「うんだ」「しんで」も脚韻(末尾で韻を踏むこと)になっています。
ちなみに「うんだ」には「産んだ」「膿んだ」「倦んだ」という複数の意味があります。「掛詞」といいます……後述。
【体言止め】
名詞で終わらせる技法です。余韻を与えます。
後者よりも「パパ」に呼びかけている雰囲気が出ていることと思います。
余談ですが、こちらは映画「トゥルーマン・ショー」の本歌取りです。父親に支配される息子という共通点から……。
【難易度☆☆:慣れたら使ってもよいでしょう】
【破調】
「調べ」を「破る」と書きます。
その名の通り、五七五七七のリズムを、あえて破ります。あるワードを強調したり、不安定な気持ちを表現するときに使えます。
この場合は「決まりきった(6)/線を消した(6)/六本の(5)/弦を繋げデ(7)/ネボラまで(5)」の「六六五七五」の二十九音。字足らずです。
三十一音より多いものは、字余りといいます。
全体の音数は三十一音に収めつつ、五七五七七のリズムを崩すものもあります。
手元に例がありませんでした。すみません。(どちらかというと、リズムを守る方が好きなのです)
ちなみに、「決まりきった線」は「Tell your world」「デネボラ」は「SPiCa」という曲から。(隙あらば布教)
一歌ちゃんはボカロが好きなギタリストなので、
ボカロ曲のなかでも長くファンに親しまれている楽曲をいっぱい盛り込みました。
【難易度☆☆☆:使えるとめちゃくちゃ楽しい】
【掛詞】
ある言葉の同音異義語を使用して、その言葉に複数の意味を持たせる技法です。
これは、慣れてきたら是非使っていただきたい、おすすめのテクニック。
短歌の醍醐味です。
・「激昂」と「月光(月は「魔法使いの約束」において重要なアイテムです)」(げっこう)
・「蠱毒」と「孤独」(こどく)
・「味蕾」と「未来」(みらい)
が掛かっています。
短歌は三十一音しかありません。ですから、ひとつの言葉に複数の意味を持たせることで、歌の解釈の幅を広げることは、とても大切です。
言葉を探す時、同音異義語がないかな?と考えたり、国語辞典を引くとよいでしょう。
【折り句】
句の頭、もしくは末尾の文字を拾うと、ひとつの単語が浮かび上がる仕組みのことです。
各音節の頭の音を拾うと「しののめあきと」になります。(所々ズレてますが……力不足です)
特定の音を読み込むことで、思わずニヤリとできます。
【リポグラム】
折り句は「特定の文字を使用する」ですが、こちらは「特定の文字を使用しない」ものです。
まとまった連作……特に、死別・お互いがすれ違ったりするような、作品を詠みたい時に良いかもしれません。
私は、お互いの名前がでてこないBLの連作を詠んだことがあります。
【さいごに】
「本歌取り」を使った二次創作短歌の詠み方
連作短歌の詠み方
表現の引き出し「レトリック」
について解説しました。いかがでしたでしょうか。
最初のうちは、歌集を読んで、脳を短歌モードにしてから取り掛かるのも良いかもしれません。
作風が引っ張られることもあると思いますが、短歌の中で使われている言葉を知ること、五七五七七のリズムを覚えること、たくさん詠むこと、が大切です。
キマってくると内省や日常会話が七五調になってきます。気持ち悪いですね。
あなたが抱えている「何かを大好きな気持ち」を、形にする手助けになったら、とても嬉しいです。
楽しい歌人ライフを!!ボンボヤージュ!