ツインスター・サイクロン・ランナウェイがあまりにも良い(感想です)
ツインスター・サイクロン・ランナウェイがあまりにも良すぎて、もう文章での感想が書きたくて書きたくて仕方なくなったので書いていこうと思います。
多数に読まれることを想定していないので、ネタバレに気遣うつもりも読みやすさを追求することも一切ありません。マジもマジ、本気の乱文です。後半に行くにつれて気が狂っていくのはご愛嬌。
百合SFアンソロジー「アステリズムに花束を」に収録された短編版との比較も行うつもりなので、読んでいない人は読むことをおすすめします。
読もう!
○はじめに
以下はただの個人の感想であり、考察的要素は正直あまりありません……またSFというジャンルに関して初心者、また不勉強であり、未だ造詣があまり深くないことをご了承下さい。百合に関しては、まあ……詳しいとは言い切れませんが任せてください。時折フェミニズム的観点から述べる部分もありますが、一般常識ほどの知識しかないことを念頭において頂きたいです。もちろん、後から自分でも変かもと思った場合やご指摘があった場合には訂正しようと思います。
テラとダイに関しての萌え話だけ読みたいんだよ!!!という人は結構下になるけど「テラとダイ」の項目まで飛んでいただければ!
○マギリとエダ
まず、プロローグで追加されたマギリとエダの存在について触れたいと思います。
プロローグ部分は、短編版には無かった長編版の追加要素。主人公であるテラとダイが生きている現代から遥か遡って大体300年ほど前のお話。二人にとっては昔話というか、歴史の一部といったくらいの認識だと思います。
登場するのは、初代船団長マギリとその相棒エダ。この関係性はテラとダイに類似している……ことは言うまでもないと思いますが、ここで重要なのは対比の関係になっていることです。相棒であったマギリとエダはふとしたトラブルで離れ離れになってしまい、エダはFBBの深層へと落ちていきマギリは表層へ留まりました。その後、マギリは深層にいるエダの存在に気付き、FBBの底まで会いに行こうとします。
テラとダイに関しても、物語終盤でこちらもとあるトラブルのため離れ離れになってしまい、テラは惑星の大気圏をぐんぐんと落ちていき、ダイは彼女を助けるため命がけで追いかけます。
短編版で同様の描写(テラが落ち、ダイが追いかける)があるので、エダとマギリは長編版を作るに際して、テラとダイと似て非なるものとして作られた存在であろうことが考えられます。
端的に言えば、エダとマギリは「手を取ることに失敗したテラとダイ」なのです。そうなると、ダイがテラに追いつく場面の間にエダとの対話シーンが挿入されているのも、なんだかわざとらしいですよね……運命共同体ともいえる周回者の社会を発展させる責任を捨てることができなかったマギリとエダ、そんなものは捨ててしまって愛する者の元へ戻ればいいと言えてしまうテラ、そう言ってのけてしまうテラを気に入り手を貸してあげるエダ。
つまり、嵐を巻き起こす二つの星とはマギリとエダのことでもあるのです。時を越えてツインスターがサイクロンでランナウェイだよ!
ちなみに、エダは妻子を持つ男性と恋人のいる男性の二人を生きて帰すために自らを犠牲とするのですがここもすごく示唆的だなあと思います。妻子を養わねばならない男性・恋人がおり将来結婚し子を育てることになるかもしれない男性と同性愛者であるエダ、天秤にかけたとき社会的に優先されるべきはどちらなのか?という問題への提起がなされているんだなあ(トロッコ問題って言っちゃってるから示唆も何もないのだけど)エダは変人として描かれているからマジでただの知的好奇心からの行動であった可能性もありますけど…
もう一人、忘れちゃいけないのがシービーの存在。いなくなったエダの後釜を狙う……というと言い方が良くないけど、とにかくマギリに想いを寄せていた女性。シービーの想いはマギリには届かず、選んではもらえず、結局マギリはエダの元へと行ってしまう。残されたシービーがどんな気持ちだったのか、考えるだけで胸が少し締め付けられるようです……こういうキャラはつい好きになっちゃいます。ちなみにシービーはテラと同じエンデヴァ氏族。ダイは(多分)マギリと同じゲンドー氏族。意味もなく同じ氏族にはしないかと思うんですが、どうなんですかね!?わからん!!
ついでに名前の意味について述べるとエンデヴァは「努力、試み」という意味ですが、これは帆船や宇宙船に用いられた名称でもあるようです。テラは「大地」、インターコンチネンタルは「大陸間の」という意味になる訳ですがこれにも何か意味があるのか!?うーん、全くわかりません!!名は体を表すとはいうが一体どうなんだ〜!!
なんにせよシービー、切ない女性です。彼女の存在が掘り下げられる時もいつか来るのかもしれません。来ないかもしれないけど。
○テラとダイにかけられた二つの「呪い」
タイトルが禍々しいね。
次にテラとダイ、二人の生きる世界、そして二人にかけられている「呪い」について述べたいと思います。あとで楽しい感想ばっかり書きたいからね、ここで地獄を終わらせちゃいますね……現実の世界のことも交えてお話をするから、読みたくない人は飛ばしてね。
二人が暮らす世界、惑星FBB。ひとびとは男女(夫婦)で漁を行い、昏魚を捕えて生活を営んでいる。テラは漁船の形を自由自在に操るデコンパとして生きるため、船を操縦するツイスタの男性をお見合いで探すものの失敗続き。その理由は、男性がコントロールしきれないような破茶滅茶な網を作ってしまうから、というようなもの。お見合いが失敗した顛末を伯父伯母に報告するテラ。そこにダイが現れる。
ここでの一つ目の呪いは、デコンパ、ツイスタという業務に押し付けられた性別役割分業です。
船の形状を変化させ網を作り展開するデコンパは女性が行い、それを操縦して実際に漁を行うツイスタは男性が行うもの、という考え方がこの世界では主流なようです。あれ〜、どこかで聞いたことがあるような話だな〜。
ここにうっすらと見える価値観は、デコンパ(女性)はツイスタ(男性)の指示に従っていればいい、というもの。実際、テラは試し打ちしたお見合い相手に「君の網は難しすぎる」と言われて振られています。さらに、族長であるジーオンとの勝負においても、ジーオンはモノローグで「妻のように言われた通りにしていればいい。悪いようにはしないのに」ということを述べています。
つまり、女性は男性に付き従い、従順に言われたことだけを遂行していればそれなりの地位を与えてあげよう、という男性側の上から目線の意識が見て取れるのです。これねえ、も〜〜最悪。これはもう地獄だし、呪いです。この呪いを解くのは簡単ではないし、本編でも根本的な制度からの改革や改善といったものまでは為されていません。今後行われるかもしれないので期待はしています。なぜならツインスターはサイクロンなので……(?)
二人のはじめての漁の検収を担当したボーナスさんは良くも悪くもお役所仕事を行う人で、「そういう仕組みだからやっちゃいけないことになってる」というスタンスを取るものの、「まあやっちゃったなら仕方ないか〜こういう抜け道があるけどもどうしますか」というような雑さも見せてくれるところが割と人間味あっていいですよね。いい加減な人間、大好き。これぐらいの雑さが生きる上で大切なのではないかと思わせてくれるほど。そうかな……そうかも……
ダイに関しても同じことが言えます。
ダイの属するゲンドー氏は女性を従順な人間に育てるため、得られる知識に制限をかけ厳選された知識のみを与える学校制度を導入しています。
ダイがツイスタとして船に乗るために赴いたポルックス氏では、監視下に置かれてカロリー制限を行い妊娠しやすい身体にさせられるプログラムを受けさせられそうになります。(これ……これやばい……やばいよこわいよ〜……怖すぎませんか発想が………家畜かな……?)
なにより、ダイがその役割を担うツイスタという仕事は、本来男性が行うとされているものです。ダイにも等しく、性別役割分業の呪いがかけられていると言えます。
ただ、この時点でダイはテラよりも進んだ考え方を持っているのでその部分は克服しているかもしれません。
二つ目の呪いは性役割とそれに伴うハラスメント。
く〜、重すぎる。というか現実に近すぎる。だが書かねばダイの優しさについて触れることができないから書くよ。
お見合いに失敗し、自分の氏族の船に出戻ったテラ。面倒をみてくれる伯父伯母に迎えられ、失敗した要因について話し合います。伯父も伯母も、善意からではあるのですがテラがお見合い・結婚することについては何の疑問も抱いていません。彼らはデコンパは結婚相手(男性)とともに船に乗り、漁を行うのが当たり前のことなのだと信じる多数側の人間です。
さらに、酔っ払った伯母がテラの二の腕や胸を触りまくります。テラは「やめて」と言い、伯父にも伯母を止めるよう頼むのですが、伯父は「いいじゃないか」と止める様子もありません。
はい、だめですね。だめです。だめだめだあ〜……
前半に関しては、もうこれはどうしようもありません。この価値観を変えさせることは多分かなり難しいです。それが当たり前と思って生きてきてしかも長らくそれでうまくできちゃってたものだから、その陰で疑問を抱いていたり苦痛を感じていたりする人たちの存在はまったく可視化されてません。きっとそんな人たちいるとも思ってません。テラ曰く彼らは優しい人たちではあるようなので受け入れてくれるかもしれませんが、諦めさせるのが一番手っ取り早い手段でしょう。知らんけど。
問題は後半部分です。これは、もう完全にセクハラです。「肉親だからいいだろう」「女性どうしだから問題ないだろう」「ただのスキンシップだろう、考えすぎ」と思われるかもしれませんが、テラは困っている様子であり、はっきりと拒絶の言葉も口にしています。また、ダイとの会話から、テラは昔から男性に胸やらおしりやらを触られていた経験があり、実はその行為によって心を傷つけられていたことが分かります。
もう言うことがないね。そういうことです。人の嫌がることはやめよう……
というわけで、二人にかけられていると考えられる呪いはこの二つ。
一つ目の性別役割分業の呪いは、とりあえずまだ解けてない。気がします。女と女で船に乗り込むことがまず第一歩、実力でなんとか漁を認めさせたのが第二歩、まだあと数段階必要かなという感じ。
じゃあ二つ目の呪いはどうでしょう。
○ダイによって「呪い」と向き合うテラ
二つ目の呪いは性役割とハラスメントでした。
テラに関して、この呪いと向き合うシーンが描かれているのでちょっと書きます。ダイのテラへの愛や優しさが丁寧に描かれている部分なのでここは特に推したい。
会話の中で、ふとダイはテラに「お嫁に行くつもりなのか」と尋ねます。(ここ、多分お嫁に行ってほしくないよ〜…ということなのでかわいい)テラが優秀なデコンパであることが周知されたため男性ツイスタたちがテラに興味を持つであろうことを説明し、そしてさらにテラが男性のことをあまり好きじゃないのかどうか質問します。そこでテラは学生時代に胸やおしりを男の子に触られていたことを、自慢と勘違いされないようにあえて軽い口調で言うんです。
ダイは、テラの些細な所作と口調から、男性に触られるという行為が実は嫌だと感じていたことを突き止め、丁寧に丁寧に説明しながら、テラが「あれは嫌なものだったんだ」と受け入れる部分まで持っていくんです。そこからはもうぽーんと「結婚したくない」と言わせるコンボを決める。
つまり、テラは自分の心を鈍化させ麻痺させることで、たやすく行われるセクハラを軽い行為として受け流し、その延長線上にある結婚という当たり前とされる行為への嫌悪感にすら疑問を抱かなかったということになる。
のだろうか……それでいいんですかね……
この辺は少し難しくて自分でも未だに消化しきれておらず、知識も足りないからやっぱり保留にしようかな……でも、好きなシーンです。
とにかく、ダイはテラの「結婚したくない」という言葉を引き出し、自らのありのままの感情を認めさせ、ダイ自身もそのテラを認めることでその心に寄り添うことに成功した訳です。ダイさん、すごいです。
しかも、テラが自分に触れることについては平気なこと、脈がないわけではないことの事実確認をちゃっかり行ってるところがダイさんのいやらしいところですよ……!ダイさん!!
テラはこのシーンで、ダイが「好き」の対象になることを初めて意識しています。あーあ。あーあ!
○テラとダイ
重い話ばかりしていたらあまりに疲れたので、ここからはもう好きなところばっか話します。めっちゃ長いよ。自分でも引いてます。
・ダイ、背水の陣
ダイがテラにツイスタにしてほしいと頼むシーン。同じ舞踏会の場にいたのならそこで話しかければいいのに、わざわざ後を追いパージ時間ギリギリまで待ち退路を断つことで採用せざるを得なくするその用意周到さと強引さがまあいやらしい。いやらしくってよ、ダイさん。
ダイはもしかすると二度テラに一目惚れしたかもしれない説を推していきたい。まず初めはお見合い漁を見たとき、次に舞踏会でテラを見かけたとき。技術に惚れ、テラ自身に惚れた。じゃなきゃいきなり押しかけなんてしないと思うんですが、どうでしょうか……そうだったらちょっとロマンチックかな。
・「私、下手でしたか」
「私、下手でしたか」!????!!??!初めての二人での漁が終わり、放った言葉が「私、下手でしたか」なの!??!!?ちょっと……含みがありすぎるような…………何とは言いませんが…………ここらへんから私の気が狂いはじめます。
・ダイ、本名がバレる
テラが本名を無理にばらさなくてもいいよ、と言っているのが優しくて好きなのですが、「私にも教えてくれないのに〜……先に教えちゃうなんて、悔しいから……」と言い放つことで既に何らかの感情の片鱗を見せており、ここは気が狂うポイントです。
次に、ダイが顔向けできないとしてテラから逃げようとするシーン。ぐずぐずと泣き始めてしまうのもかわいいけど、テラのお見合いをいじられたことに関して言い返せなかったことが悔しいという部分でダイが優しい人物であることが分かります。言い返せなかった、という部分はのちのちまた効いてくるので覚えておきたいところ。
「……結婚は女同士ですることじゃない」と言うテラに対するダイの反応が「……はい」なの、良い。
・お互いのドレスを褒め合う二人
あ、あ、あ〜……地味で些細だけれどかわいらしいシーンです。「女の子の褒め言葉は信用してはならない、社交辞令だ」みたいな話ってありますけど、本当にそうかなあ、と疑問に思うことがあるんですよ。少なくとも私は社交辞令で用いたことはあまりありませんし。素敵なものを素直に素敵だと言い合える二人のやさしい関係性がよく見える台詞だと思います。些細な描写が効いてくる……
・ダイ、キレる!
失礼な言動をするジーオンに怒る場面。初めての漁の際、テラのお見合いについていじられることに言い返せなくて泣いていたダイが、もうがっつり、どかーん!と反論していくのです。(ここでのジーオンの言動もなかなかにえげつないのだけど好きなことしか書きたくない、割愛)何が何でもテラのことを守るのだという強さと愛情が垣間見えます。「一緒にケンカしてもらえます?」という台詞からもああもうこの人ケンカする気まんまんなんだなって思うよね。多分、過去に言い返せなくて泣いた少女は、あそこに連れてこられてテラに再会するまでどうすればきちんと相手に言い返すことができるか悶々と考えていたはずなんですよ。きちんと理屈立てて、事前に脳内で準備して……えらい……
あと、ジーオンが女性の反射的対処能力が低いことを示すためにテラにふっかけるところはあまりにえぐくてテンション上がっちゃいましたね。そもそも女がツイスタをやってはいけない理由なんて本当はないのだから反論のしようがないのだけど……
・武装する乙女たち
勝負の日、テラは袖や腰のリボンを盛り盛りにしたドレスを身にまとい、ダイは金のステッチに真紅のドレス、さらにルージュまで引く気合いの入りよう!デッキドレスは今このときの彼女たちにとって戦闘服なので、かなり「強い」ものになっています。(「強い」女性像に関しては色々と論争があるし、私もちょっと思うところがあるので、ここではリアルのことは切り離して考えています)
両者の気合いの入れ方の方向性が違って見えて、そこもまた面白いところ。テラはリボンを盛る。ダイは赤いドレスを着てルージュを引く。まだその顔に幼さの残るダイがルージュを引くのは、若さやかわいらしさ等々への反逆でもあるような気がします。なによりかわいい。早く絵で見たい。
・ふたりは運命共同体
テラに「一緒に住まないか」と提案されるダイ。ダイは、本人曰くロクな場所じゃないところで寝泊りをしていました。このあたりの言動で過去にもよくそういった場所で寝泊りを行っていたことや、テラにはそんな場所の想像すらせず綺麗な場所にいてほしいという複雑に屈折した思いが見え隠れしているので私はすっかり気がおかしくなってしまいました〜。(大抵、物語上でこういう思想を持った人間は大半が"やらかす"ので……)
そうしてなんやかんやあり、ダイはテラの家に暮らすことになります。このとき、家のプリンタでダイはびっくりするようなものを印刷するのですが、まあそれはのちのち……ふふ……
「運命共同体」という表現はプロローグでも用いられており、少ない資源の中で共に協力して生活を支え合わなければならない周回者全体のことを指す言葉として使われています。そのことから、多分テラはこの言葉を昔ながらによく使われる表現として、「ひとまずは、運命共同体」と言ったのではないかと思われます。
・馬
馬、です。
ロボとはいえ、触るといいことがあると言われる馬に気に入られるダイ。馬はペガサスやユニコーンといったように、時に神格化して描かれることがありますよね。力強くて、速くて、空を駆けることすらあるイメージ。サイクロンでランナウェイ。対して、テラは馬には気に入られませんがエダに気に入られ、馬の尾を与えられます。エダが言うには、「馬の尾を握った女はとても速く飛べる」らしいです。なるほどなあ。どういうことだろうなあ。何らかのメタファーであることは間違いないと思います。こういう神話、多分探せばある。
ところで、ユニコーンについてリンクを辿っていたら(ありがとうwikipedia、信頼するかどうかは別として)イシドールスという人物に行き当たりました。イシドールスはスペイン語でIsidoroと書くらしく、ダイの家名イシドーローと同じに見えます。まあ、何の関係もない可能性もあるのでメモ的に残しておきますね。ちなみにイシドールスはインターネットの守護聖人だそうです。(インターネットの守護聖人とは…?)
・テラの密かな……
自宅が襲撃され、テラは飛び起きます。ダイが奪還隊に捕まりそうになっているのを目にしたテラは、躊躇なくショットガンを奪還隊に向けてぶっ放ちます。
あ……あ……あ〜〜〜!お、オタクが好きなやつ〜〜〜!!(主語が広い)
この描写は完全にジーオンの「女性は想定外の状況での反射的対処能力が低い」という考え方へのカウンターになっています。流れるように酸素マスクをし、銃を手に取り、その上容赦なく顔面に弾を撃ち出すこの瞬発力や咄嗟の判断力。反射的対処能力が低いなんてもんじゃありません。さらにテラがここで「女性でも男性でも誰かが危険な目に合っていれば同じことをする」と考えていること。これ、個人的には大切な考え方だなあと思っています。
ここで一番大事なのは、テラがダイを助けたくて必死になった理由として、本人にも分からない何か別の感情があることを意識し始めることです。それってもしかして……恋、なんじゃないの……!???
催涙弾かガスか何かで目がやられて、爆発音で耳もやられてるダイ、ちょっと………ちょっと……アレすぎますね……
ところで、「一生分のメイデイに賭けて誓う」ってどういう意味なんですかね、ダイさん。
・「ほんとに受けていいんですか?」
「ほんとに受けていいんですか?」!??!!??!現行犯逮捕ですよ、これは!!!!
お見合い、受けとけばいいんじゃないですか、と言う素っ気ないダイに対するテラの一言。
これって「ほんとに受けていいんですか?ダイさん多分私に他の人と結婚して欲しくないんですよね、そんなこと言っていいんですか?ほんとに結婚しちゃいますよ、他の人と」という部分まで含まれているでしょ。あーあ。私はもうだめです。
逆さダイオードからの展開は訳分からないのにかわいくて好きです。やわらかで優しい接触やスキンシップが多くて安心します。これは百合ならではなのかもしれませんが。
テラはダイとの生活で安心感を得ています。二人での生活は安心できて、信頼もあって、満ち足りていて。そんな二人のこの距離感が私は好きですね。
・ダイ、実家に帰る
これも短編版には無かった場面です。テラとダイはひょんなことから、ダイの母親のいる測候船を訪れます。
ダイ、めちゃくちゃに口が悪い!!良い方でも無かったけれど、ここまで口が悪くて当たりが強くて凶暴なダイの姿はかなり衝撃的です。まるで反抗期。かわいい。初めて見るダイの姿に驚きつつ、そういう姿を見せてくれない関係に対する他者からの「水くさいんですね」の指摘にぐさりと心を抉られるテラ。かわいい。
テラが誘われた、上に来ないかってのはなにか怪しいことなんですかね、ねえダイさん……
・テラの能力
テラはデコンプの際、豊かで柔軟な発想力と類稀なる創造力を見せます。テラ自身の才能と言ってしまえば簡単ですが、これらはテラの知識量に裏付けされているのではないかな、と考えています。
テラは漁師の他に、映像配信司という仕事をしています。歴史的な財産や文化を守るためそれらをデータベース化するお仕事です。
そもそも、何かを創造するときには何か参考になるものを事前に知っていたり、学んでいたりしないと出来るものじゃないんです。絵を描く人にはわかるでしょうけれど、絵を描くときに「何も見ないで描けるなんてすごい」と言われることがあります。でもそういったものは大抵、一度、または何度も描いたことあるものだったりするんです。資料を参考にして、手に覚えさせ、脳に記憶させているからこそ出来ること。
テラのデコンプ能力の高さも、映像配信司として過去のコンテンツを常日頃から見て知識として蓄えているからこそのものであり、だから他の人には想像も出来ないような網を作ることができるのではないかなあと思っています。
・DIE-OD
短編版でも長編版でも、序盤でダイオードという名前の意味はダイ自身が紹介しているものの、ほんとにクスリのオーバードーズで死にかけたからこんな名前つけてるなんて思わないじゃないですか……薄汚い少年のような格好でどこかに寝泊まりしていたり、割と長い間アングラなところで生きてきた不良少女なのかな〜女学生時代が気になります。
テラはそういう方面にあまり詳しくないようなので、ODの意味すら知らない可能性がありますよね、意味を知ったら多分すごく怒ると思うんですよね……
・二人の痴話げんか
説明不要ですね。
お互いの命を諦めさせるために、愛の言葉をぶつけ合うテラとダイです。前述した通り、マギリとエダとの対比構造。敬語だらけの口論。気付いていないかもしれないが、あなたが私を好きなのは知っているのだ、だから観念しろと言い合う、このかわいさ……口論とか喧嘩ってマイナスイメージをぶつけ合うものが多い気がするんですが(馬鹿とかね)、この二人はポジティブな言い合いをしていて本当に……良いんだ……言葉がうまく浮かばないけど、とにかくかわいいなって思うんだ……
「こっちへ来てもいいって言え!」が好きです。やばいでしょう、こんなの。
あとゴム。指用のゴム。
あっ、そう……ふ〜ん………あ〜〜…………へえ………なるほど………それを……一ダースね………念のため………あ〜………ふ〜〜〜ん………ダイさん………そう………へ〜〜………なるほどね。
ちなみに指用のゴムはマジであります。詳しくは調べてもらえればいいかなあと思います。相手を傷付けないために装着するものなので、ここにもダイの優しさが垣間見れますね。謎の優しさが。下心に裏付けされた優しさが。しかもここは長編版から追加された要素で(このシーンはかなり変更が加えられているとはいえ)かなり画期的な描写でもあってですね。明記はされていませんがこういうものを知っていることとか女学校云々を総括したとき、あ〜、ダイはもしかして同性愛者なのかな〜というのがはっきりくっきりと見えてくるわけです。一応、短編版でもやんわりとそんな描写はあったので、そこは以下のおまけの項目で書きたいと思います。短編版の痴話げんかも勢いがありむちゃくちゃいいのでおすすめです。印象としては長編版の方が洗練されてる、当たり前だけど。
(4/5追記 ダイの恋愛対象に関して、私自身の意見としてはもしかしたら同性愛者かも?ということなので、もしかするとバイかもしれないし、好きになった人が好きな人、というタイプかもしれません。そのあたりは明言されていませんので、解釈はそれぞれの心の声に従ってもらえれば…下のおまけの項目も同様に読んでいただければと思います)
・キス、そしてキス
説明不要ですね。書くけどね。
デコンプに失敗し嘔吐物に塗れたダイと、そんなものは気にせず人工呼吸を施すテラ。色気のなさに不満(皮肉かも)を述べるダイに、テラは長く長く口づけをします。
はい、は〜〜〜い。はい。ね。世の中には言葉にできなくてもいい感情とか気持ちとかってあってもいいと思うんですよね。これは、それです。
泣きじゃくるダイを落ち着かせ、一言で火をつけるテラ、今度はダイからのキス。
あ〜〜〜〜〜〜〜。これも、そういう感情です。あーあ〜〜もう終わりだよ〜〜〜この感情を抱いたまま眠るようにしにたいね……
まあこの辺にして真面目な話をしますとね。
ちょっと方向性が変わりますが、個人的にボーイズラブ界隈の「受け」「攻め」固定の議論には割と疑問というか違和感を持っていまして。サーチを行うときには便利なんですけど、現実的にはその日によってどちらがどっちだとかは変わったりするわけじゃないですか。性行為に限らず、精神的な面でも、どちらかがどちらかを守ったりリードしたいという気持ちは日々変化していくものだと思っているんです。だからあんまり固定に関しては意味ないかなって最近は思ったりもしていまして……
(3/31 追記 ※固定派の方々を攻撃する意図はございません。あくまでも場合による、という話です)
そういう面でも、このキスシーンは個人的にとても思い入れというか、ちょっと感動がありました。キスシーンに限らず全体的に見てもテラもダイもお互いに好意を抱いていて、お互いを守りたいと強く思っていることが見てとれます。だからこそ、テラからのキスも、ダイからのキスもすごく魅力的に見える。ただまっすぐなまっすぐな双方向からの感情のぶつけ合い。
(とはいえやっぱりサーチでは便利なのでカプ名使っちゃうよね。テラダイかな、ダイテラかなあ)
もっと見たいなあ〜〜二人がいちゃいちゃするところ………ね……頼む…………世界の全て………シリーズ化………続刊…………二次創作………漫画化………………アニメ化…………お願いします…………
○おまけ
おまけです。
どうしても短編版で好きな描写があったので、そこについてだけ。
最後も最後、ダイの「そういうことですけど本当にいいですか」の言葉の後、テラが感じた「きっとこの子はよくないと言われたことがある」という部分。
ダイが同性愛者であろうことが読み取れる事柄は短編版ではあまりはっきり書かれていないんですよね。でも、私にはただこの部分だけがこう、ぴかーっと輝いて見えて。
これは「全部もらうってことはこういう、キスだとかそれ以上のことも要求するってことだけど、それでも構いませんか」という意味の質問だけど、多分ダイは過去に拒絶されたことがあるんだろうということが「よくないと言われたことがある」という印象から分かります。そのせいで傷付いたことも多分、ある。
それを受けて、だからこそテラは何度もこれを肯定する言葉を言ってあげなくてはと決心します。うわ〜〜〜〜愛だよ〜〜〜愛じゃん……この一文でここまで想像させられるの、まじで何………
ラストシーンは同じなようでいて割と変化しています。短編版は二人の心の触れ合いのみに止まっていますが……
長編版は漁師にもなれないクソみたいな世界で耐えること、二人で生き抜くこと、そしてその先の嵐すら予感させるような力強い終わり方になっています。これは続刊が出る予兆。もちろん出ますよね?信じています。むちゃくちゃに売れてほしいよ〜〜!
ということで、短編版と読み比べるのも楽しいかも、というお話でした。詳しくは、短編版が収録されている百合SFアンソロジー「アステリズムに花束を」を読もう。
○おわりに
続刊が出てほしい!シリーズ化してほしい!欲を言えばその先のメディアミックス展開まで期待している!ので、ここまで読んだという稀有な人がもしいれば、アンケートや要望を出したり、ツイッター等々で感想をガンガン呟いたりしよう。私もします。
じゃああと100回くらい読み直そうと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?