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うたうこと(終)
人前で歌うという事が苦手な私。
だけど、未だに歌い続けているのはなぜなのか。
人前で歌うことが出来なくなったこのコロナの時期にちょっとゆっくり考えてみた。
歌うという行為は好きじゃないけど“曲”は好き。
どうしても誰かの前で歌うとなると、いろんな過去のトラウマが顔を出してきて硬直してしまい、必要以上にコンディションが悪くなるわけだけど。
でもやっぱり曲そのものはすごくすごく好きなわけで。
2年前だったか、地元の大きなホールで歌う機会があり、私は満を持して高校生の時からずっと歌いたかった「さくら横丁」という歌を歌った。
全然歌えなかった。
当日のリハまでは調子良く歌えたのに。
観客を前にいざ第一声を出したら、自分でも驚くほど喉に何か膜が張りついたかのように自分の声が出せない。
よく本番前に見る夢と全く同じ。悪夢。
怖くて怖くてたまらない。
そしてその翌年、大好きなドイツリートにチャレンジしようとしたけど本番1ヶ月前から原因不明の止まらない咳。
多分精神的なものが原因なのかなと今は思うけど。
今言ったように、曲そのものは好きなのに歌うとなるとダメなのである。
で、今年コロナで人前で歌う機会が減った今。
やっぱり
歌を歌いたい。
のである。
ただし、今までと違い自分の中で少し気持ちがストンと腑に落ちたというか。
いわゆる芸術として研鑽を積み自分のスキルを磨き抜いて、ピカピカの状態の歌は自分は求めてない。
もちろんそれを目指す人を全く否定はしないしむしろ尊敬する。
でも私は“そっち”じゃない。
磨きに磨き抜いた芸術的な声楽を聴いてもらいたいわけじゃない。
別に自分の声の良さを聴いてもらいたいわけじゃない、のだ。
世の中に溢れてる素晴らしい曲の数々を知ってほしい。
…勿論そのためにはあまり変な声や歌い方じゃ伝わらないからそこそこにボイトレはするよ、的な感じだが(笑)
私の選んだ道はオペラなどのクラシックじゃない。踊りでいうところのクラシックバレエじゃない。
だけどこちらが劣ってるわけではないし、クラシックが優ってるというわけではない。
勿論何をするにしても“基本”は大事だけど。
私は、自分を磨くためではなく、人を癒すために音楽と向き合いたい。
これが、今も私が“うたうこと”の理由だと思う。
ー終ー