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ヴァイオリン:藤田有希さん④

有希さんと私(最終話)

貴重なお話をたくさんしてくれた有希さん。
シベリウス音楽院を卒業してからも、自分たちを取り巻く環境が変わっても、こうして仲良くできる友達はとても貴重な存在です。本当にありがとう!
連日の記事の内容確認にもお付き合いいただいて、とても助かりました。

そして私もこのプロジェクトを始めるにあたって、彼女にインタヴューをしたからこそ、基盤が見えて、自分のやりたいことが見えてきたような気がしました。
第一回目のインタヴューにしては、うまくいったのではないでしょうか…?
うん、うまくいった!!!
やっぱりこのプロジェクトを始めてよかった。

最後に、有希さんの音楽以外に大切にしていることと、日本の方々に伝えたいことを伺いました。
筆者撮影の写真と共にお楽しみください。
有希さんが前を歩いて追いかけるようにして撮ったので、写真はほとんど横顔です…お許しを。

ヘルシンキ大学植物園にて ©️AyakoMedia

音楽以外で大切にしていること

有希さんのお話に入る前に。
皆さんはクラシックの音楽家に対して、どんなイメージをお持ちですか?
色んなイメージがあると思いますが、崇高で近づきにくいとお思いだったりしませんか?
頭の中は音楽のことだけでいっぱいだと思っていませんか?
そんなことはないですよ。音楽家も一人の人間です。
当たり前の話ですが、ステージでライトを浴びる裏では、ご飯を食べたりお風呂に入ったり…と普段の生活があります。

でも、音楽家というのは心体のエネルギーをとても大量に消費する仕事です。
そんな大きな仕事を人生を掛けてこなす上で心の支えになるものや、気をつけていることが何かあるのかなと興味をもちました。
このプロジェクトではそれも探っていきたいです。

有希さんも幼い頃から人生がヴァイオリン中心で回ってきた方(ぜひ一話目からどうぞ)、彼女の人生を語る上で「音楽の他に大切にしていること」を伺いました。

家族がいることの素晴らしさを知った

「学生時代からシベリウス音楽院を卒業して演奏活動を始めたくらいの時は、数年は楽器が相棒だったのね。
こいつがいれば怖くない!って満足してたし、音楽全般以外の事に興味がなかったし煩わしくていらない!って思ってたの。

でもこんな私でも家族を持った。

「楽器と対話する以外何もいらない」って思ってた私が、誰かと喋る時間、誰かとご飯を食べて『これ美味しいね!』っていう時間、そしてそれを言い合える人がいるっていうのがこんなに素晴らしい事だと知ったの。
この世にもいいことあるわねぇ〜」ってね。笑

そこから「家族」っていうものを考えるようになって、結婚して…結婚した時でも十分満たされてたんだけど、自分の「分身」とも言える人っていいなぁって思い始めて、子供を授かった。
この一連のことが、音楽にもヴァイオリンにも繋がっているような気がしてる。
一人で生きていた時よりも私生活でほっとできる瞬間があるっていうのはいいことなんだなって、これがかけがえのないものになっていくんだって思った。

ヘルシンキ大学植物園にて ©️AyakoMedia

独りよがりで「その話は音楽には繋がらない!」「私には関係ない!」ってしてたら、演奏だって人とのコミュニケーションなのに…スランプになっちゃうよ。
私も昔はそう思ってたけど、アンサンブルのし方を学んで気付いたから改善されたかな。
だから途中スランプになったのもいい勉強で、そこから楽器を置いて外に出るようになったよ。美術館行ったりね。
自分の周りにある何もかもが音楽に繋がっているんだって思えるようになった。」

自分の体とメンタルと向き合う

「自分の体やメンタルの調子が良くないと楽器ができないってことも学んだの。
今はアレクサンダーテクニックをやってて、楽器の音をよりよくするのもそうだけど、日常生活から「生きやすい体の使い方」を意識するようになったかな。

「生きやすい体の使い方」を考え始めると「生きやすい心の選択肢」を考えるようになるの。
わざわざ辛い思いをする方を選ばなくていい」って。
些細な事だよ、白湯を飲むか紅茶を飲むか、みたいな。
「白湯が体にいいのはわかってるけど、今飲みたいのは紅茶だな」って思ったら、ちゃんと紅茶を選べるようになってきた。
そういうことの蓄積が「生きやすさ」に繋がるんだろうと思ってる。
それから、妊娠中にしっくりきたアユールヴェダの勉強も始めたよ。

幼い時から一匹狼みたいに走り続けてきたから、高校時代には頑張りすぎて演奏直後に舞台で倒れたことがあって、学校に何回も救急車呼んでるんだよ。
そういう演奏をしてて自分でもしょうがないと思ってたし、心のどこかで「舞台の上で死ねたら本望」的な感じで格好いいと思ってたんだよね。
でもフィンランドに来たら違ったの。

手が痛くても頑張って練習してレッスンに行ったら先生が気づいて、「手が痛いの?」って聞いてきて、「うん、でもこの本番が終わったら少し休む」って言ったら、「そうじゃないでしょ?キャンセルしよう」って言われてね。
「嘘でしょ?!キャンセルなんて…本番に穴開けるんてありえない!」って言ったけど、「あなたの手が壊れる方がありえない!!」って怒られたの。
そういうことに気づいたのはフィンランドでだったから、やっぱりこっちに来てよかったなあ。」

ヘルシンキ大学植物園にて ©️AyakoMedia

日本の皆さんにメッセージ

「私は日本大好きだよ!
日本によく帰るし、日本人大好きだし、日本語しか喋れないし、日本に生まれたことを誇りに思ってる。

でも「フィンランドに帰れるから日本で頑張れる自分」がいる。
私はいつも日本では仕事をがっつりして帰るんだけど、時間の感じ方は日本にいる時とフィンランドにいる時じゃ全然違うんだよね。
日本にいると時間に追われている感じがして、ゆっくりしていることに罪悪感を感じてしまうことが多い。
でもフィンランドだと余裕を持って動けるから空いた時間でボーっとできる。ひたすらソファに座ってる。
この「ぼーっとする時間」って大事でさ、自分のやりたいこととか思い浮かべて「あ、私こんなこと考えてたんだ」とか、気付きがいっぱいあるの。

ずっと動いているのが好きな人は全然いいんだよ。
私もフィンランドに来るまでずっとセカセカ動いていた人間だったけど、でも実はゆっくりするのが好きな人だって後から気づいたの。
予定を組むときにも「今の自分にできる/できない」を考えて、「できない」を選んでいいし、選んだら自分の時間が取れるんだよ!

「自分と向き合う時間」が取れていないと、音楽をするときにも「自分のスタイル」を理解していないのに「仕事が来たから弾きに来ました」っていう演奏家になっちゃうよね。
やっぱり「私こういう音を出す人です」って演奏してくれた方が、アンサンブルは作りやすいなって思う。

あとは音楽じゃなくても、仕事だったり、上司だったり、「自分以外の周りが気になってしまう人」にもぜひ「自分と向き合う時間」を作ってほしいなって思います。

ヘルシンキ大学植物園にて ©️AyakoMedia

自分が何をしたら緩める」か、みんなそれぞれ持っていていいと思う。
お気に入りのマグでコーヒーを飲む、とか些細なことでいいの。
本屋さんに売っている「リラックス本」を読んだりして「リラックスした気」になっていませんか?
「リラックスの時間を作った!」って言ってる時点で、あなたは「リラックスをする努力」をしてしまっていることに是非気づいてほしい。

もしこの記事を読んでくださっている人の中に「自分との時間を持ちたいな」と思っている人がいらしたら、あなたフィンランドに来ちゃいなよ!って思う。
自分が幸せだったら、その幸せは周りに伝染していくから。
フィンランドではいくらでも自分らしくいられる、自分を見つめる時間を作れますよ。」

有希さんのCD、出演情報

有希さんとピアニスト安保美希さんの北欧デュオ「Duo Unikeko」のCDを以下のリンクからお求めいただけます。
フィンランドで学んだ有希さんとノルウェーで学んだ美希さんの紡ぐ北欧サウンドをぜひお楽しみください🇫🇮🇳🇴
こちらの記事でも多数使用させていただいた演奏写真は、このCDの録音の時のものです。

北欧の森を感じさせるジャケット

また12月に東京でコンサートを開催されるそうです。
有希さんの演奏を通して、北欧のクリスマスを感じてください!
コンサート詳細につきましては、有希さんのSNS、各会場またはチラシ記載の連絡先にお問い合わせください。

有希さんのSNS

有希さんのブログの留学初期のお話は腹抱えて笑えるほど面白いので、ぜひ読んでみてください。

あとがき

この度は内容盛りだくさんのインタビューを読んでいただきありがとうございました。
そして快くインタビューに答えていただいた藤田有希さん、本当にありがとうございました。
日本でのコンサートもご盛会をお祈りしています。

次はフィンランドのチューバ奏者サンナ・サデハルユのインタビューをお届けします。
初めてのフィンランド人管楽器奏者のインタビュー、どういう形がいいか色々試行錯誤しながら仕上げていきたいです。

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