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不快性射乳反射(D-MER)知ってますか?

産婦人科医の三輪綾子です。臨床12年目の産婦人科大好きな医師です。

今までおそらく1500〜2000件分娩(帝王切開・鉗子分娩・吸引分娩・正常経腟分娩)をとっていると思います。

お産はこれだけ立ち会っていても毎回感動します。
医師も人それぞれだと思いますが、私は大好きです。

もちろん毎回安全な分娩だけではありません。
赤ちゃんの心音が落ちて帝王切開に変更したり、分娩後お母さんの出血が多くて輸血が必要になる+大きな病院に搬送になるなど今まで数多く経験し、毎回赤ちゃんが元気に生まれるのは非常に尊いことだと感じています。

当直も結構大変でした。
夕方から朝にかけて7人連続で産まれたり、それこそ大変なお産で一晩中モニターとずっとにらめっこして、いつ帝王切開に切り替えないといけないのかハラハラしながら全く眠れなかったり。

そんなことを産婦人科医になってから10年以上経験してきたのですが、それでもやっぱり赤ちゃんが産まれて産声が聞こえて、ご両親が喜んでいるのをみると、疲れが一瞬吹き飛んでしまいます。(その後疲れが一気にきます笑)

授乳って大変

そんな大変なお産の直後から、お母さんたちは『授乳』というこれまた大変なことが待っています。

最初は2〜3時間ごとに行います。ただでさえ大変ですよね。

新生児もちょびっとしか飲めないので体重増加がよろしくない子にはもう少し頻度をあげたり、人工乳を足したり。産後の体力回復が十分にできていないときから自分の心配をする時間もなく、別の戦いが始まるんです。

不快性射乳反射(D−MER)

そんなときに出てくるの可能性のあるのが
不快性射乳反射=Dysphoric milk ejection reflux(D-MER)です。まだあまり知られていません。医学論文を調べるPubmedで検索しても論文は4つ(症例報告がほとんど)で日本の医学論文を検索する医中誌で調べても検索では出てきません。
まだわかっていることはかなり少ない病態です。

ただ、この症状はみんな知っておく必要がある。
なぜなら、この反射が起きてしまうお母さんたちは苦しんでいるはずだからです。

「授乳が不快なんて、思っていることを周りに知られたくない。」
「そんなふうに思うのは母親失格なんじゃないか。」
「周りに相談しても理解してもらえないのではないか。」

ただでさえ大変な育児の大きな障壁となってしまいます。
まず知ってもらうことでサポートし合える、よりより社会になるのでは?と思っています。

まだまだ研究が進んでくるものと思いますが、現在出されている、いくつかの論文を読んでまとめたのがこのnoteになります。

D-MERとは?

D-MERは、射乳のときに反射的に一時的な不快症状を自覚する病態です。
乳汁が分泌される=射乳、というのですが、
その射乳という生理学的な反応が「不快などの様々な症状」を起こします。

射乳が終わると数分で症状がすっと改善するのが特徴です。
出産後、数回授乳した後に突然起こる可能性があるといわれ、最初のお子さんから起こる人もいるし、数人目から起こる方もいます。(※2,※3)

様々な文献を調べると、2007年頃に概念としてできてきます。
おそらくその前にもこういった症状のお母さんはいたと思います。母乳がでる時のホルモンの変化は昔も今も変わっていませんから。
でもそれは病態として把握されていませんでした。

D−MERの原因は?

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D-MERはなぜ起こるのか??
細かい話をすると、母乳を出す時には「プロラクチン」というホルモンの濃度を体の中で上昇させる必要があります。
しかし、「プロラクチン」は「ドパミン」による制御を受けていて、「プロラクチン」の濃度を上げるためには「ドパミン」が下がる必要があります。そのドパミンの低下が原因なのでは?といわれています。

ドパミンには喜びや気分の高揚などの作用があります。
これが低下することで「不快感」が出現しまう、というものです。

実際に赤ちゃんが直接乳頭から母乳を吸っているか、
機械で搾乳しているか、は関係ありません。

意図的に授乳しているか、
無意識で起こる射乳か、も関係ありません。

あくまでも「射乳」という生理的な反応で起こる症状です。

D-MERは精神的な疾患ではない。

勘違いしないでいただきたいのが、この症状が精神的なものなのでは?というところです。何度も言いますが、違います。反射です。

皆様、膝にある膝蓋腱というところを叩かれると足がポーンと跳ね上がりますね?
もっとわかりやすく言うと、顔の前で手をパンと叩かれた時、無意識で目を閉じてしまいますね?

それが反射です

コントロールできません。
産後うつでも、育児放棄でも、授乳への拒絶でもありません。
なので産後うつの治療はDMERには効果はありません。

まだまだ研究が進んでいない病態ですが、2019年の最近の記述的研究だと9.1%の有病率を示しました(※4)。以外と多いですね。

回答者は授乳時の不快感やイライラ、悲しみ、不安、パニック、興奮、過敏、涙もろいなどの症状の様々な不快な訴えがありました。

どのくらいで治るの?

2010年に発表された論文(※1)ではDMERの症状には
「軽度」・「中等度」・「高度」とあり、
①落ち込み、ホームシック、不安、絶望感、胃のむかつき
②不安、恐怖、パニック、過敏性
③怒り、動揺、妄想

と段階があるとされています。

軽度は①のみの症状。中等度は①+②高度は①+②+③です。

軽度:3ヶ月程度で自然に良くなり治療を有しない。
中等度:半年〜12ヶ月以内で自然軽快、たまにアドバイスを必要とする。
高度:離乳するまで良くならない可能性もある。一時的な自殺念慮を含む可能性がある。内服による治療が必要になる。母乳育児をやめる可能性が高い。


とされています。

しかし、まだ研究の進んでいないところなのでさらなる検証が必要です!


対応方法は?

・授乳が不快という事実に対しての罪悪感
・理解してもらえないのではないかという恐怖

D- MERの存在を知らないお母さんたちはこういった気持ちに苦しんでいるのではないでしょうか?
この病態が広く知れることで、今の自分の症状が反射的なものなんだということがわかり、周囲の理解を得ることにもつながると思います。

なによりも大切なのが、誰かに相談してみるということ。

一人で授乳ができない罪悪感に駆られるだけでなく、話をして、対処法を見つけていくことが大切です。完全ミルクにしても問題ありません!

自分なりの不快感への向き合い方を探るのでも良いと思います。
気を紛らわしたり、音楽を聞いたり、アロマセラピーなども助けになるかと思います(※1)


無理せず、育児を続けていく方法を見つけていくために、
一人で悩まずに、是非相談してみてください。


※D−MERの方のためのページもあります





〈参考文献〉
※1 Dysphoric milk ejection reflex : A case report ,Alia M H. Int Breastfeed J.2011;6:6.
※2 A case of dysphoric milk ejection reflex ( D-MER ), Suzanne Cox. Breastfeed Rev 2010 Mar;18(1):16-8
※3 Dysphoric Milk Ejection Reflex : A case Series ,Tamara U.Breastfeed Med. Jan/Feb 2018;13(1):85-88
※4 Dysphoric Milk Ejection Reflex: A Descriptive Study. Ureno TL, Breastfeed Med.2019 Nov;14(9):666-673






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