10/19室内楽演奏会『Endor』プログラムノート(抜粋)
W.A.モーツァルト作曲:オーボエ四重奏曲 KV370
(解説:加藤綾子)
オーボエ奏者はよくハゲる。まず、チューニングの「A(ラ)」の音からして気を使う。いざ曲が始まっても、多すぎる音数に舌がつる。そうして蓄積されていくストレスは、あっという間に彼ら彼女らの頭を砂漠に変えてしまう。
そんなわけで、1877年のその日、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが出会った、フリードリヒ・ラムというオーボエ奏者は稀有な存在だった。なにせ、まずハゲていない。モーツァルトが旅行生活を始めたのは13歳のことだったけれど、ラムはラムで、14歳にしてマンハイムの宮廷楽団入団を果たしていた。ハゲていないだけのことはあった。
とはいえはじめ、モーツァルトはラムの演奏を「繊細できれいな音」と、ひとこと評するだけにとどまっていた。父宛の手紙の一文なので、そこにどんな真意が隠されていたのかはわからないけれど、その後、互いに夜な夜な、下ネタ合戦を繰り広げるくらいに親しくなったことは確からしい。当時、モーツァルトは二十歳、ラムも三十路を越えていたはずだが、いい歳こいた大人が揃って何をやっているのか。パパも悲しいが私も悲しい。
そんな二人の親交から生まれたオーボエ四重奏曲は、出会いの数年後、1880~1881頃に作られたとされる。実際に演奏してみるとよくわかるけれど、オーボエはほとんどソリストのような扱いである。…………
石川潤:Endor(エン・ドル)
(解説:石川潤)
1.作品概要
この作品は「死んだ音楽」というアイデアに基づくものである。
メディア機器が進化していくことで、生演奏というメディアはメディアの原義である"霊媒"のごとく古き精神を主張する存在となって後退していくのではないかとふと考える。
それでも前進する可能性を求め様々な試みを行う人たちを私は知っている。
だが、私はものごとの本質に触れたい、という気持ちからあえてペシミスティックに、見たくもないことを直視することで、この創作に取り組んだ。
すなわち、これはすでに一度死んだ音楽である、ということを。
クラシック音楽の作曲はすでに一度解体されてしまったということを。
2.前置き──エン・ドルの物語
このエピソードは、旧約聖書のサムエル記上・28章 3-25節で、原⽂を確認することができる。
イスラエルの王サウルは、ペリシテ⼈との戦争で完全に⾏き詰まっていた。神から何も助⾔を貰えず、進退窮まったサウル王は禁忌を破る。つまり、⾃分が昔頼りにしていた偉⼤な預⾔者サムエルの霊を呼び出すため、降霊術を⾏う⼥の住むエン・ドルの地に訪れたのだ。……
3.楽曲解説
■Posthumous I : Prelude
"Ghost"をコラージュした、ソナタ形式的な趣を持つ作品。コラージュの⼿法は模倣・変奏・縮⼩などの伝統的な技法を⽤いる。……
演奏者より一言:「何度やってもド頭でちびる」
■Posthumous II : Organum
ペロティヌスのオルガヌムを参考にした楽章。グレゴリウス聖歌"Dies irae"の旋律をチェロによって⻑々と奏し、その上にミニマル的な技法を伴う⾳群が羅列される。……
演奏者より一言:「ここだけ譜めくりの人ください」「オーボエももう1人ください」
■Posthumous III : Scherzo
"Ghost"の旋律の⾳列に基づくスケルツォ。ピチカートによる静かな主題の後に激しい変奏が繰り広げられる。
演奏者より一言:「出た人について行く」
■Finale
Posthumous I の終盤で⽰されたハーモニーの伴奏に乗せて葬送⾏進曲が歌われる。……
演奏者より一言:「調弦やっぱ入れたほうがいいよね」「開放弦がしぬ」
全文は10月19日(金)『Endor』演奏会で!
演奏会予約は、以下のアドレスにお名前・人数を併せてお申込みくださいませ。
加藤綾子
ayakokatovn@icloud.com
演奏者ならびに作曲者一同、みなさまのご来場をお待ちしております。
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