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指導者がバレエ・レッスン中のけがの賠償責任を負うことはあるか~生徒同士が衝突した場合~
1.はじめに
2022年にバレエ安全指導者資格のティーチャーズコースで法律入門の講義を2度担当しましたが、2023年上半期(第5期)はベーシックコースで講義を担当することになりました。より多くの方に法的な問題意識をお伝えしやすくなるものと期待しています。
そんな折り、このようなブログを読みました。初心者なのに中級クラスに参加し、センターレッスンで立ち往生して他の生徒の進路妨害や衝突の危険をもたらしてしまう生徒に指導者として向き合ったときのご苦労などが綴られています。
【ひよこ座バレエのブログ】
レッスンのストレスはないほうが良い
ちょうど私がバレエ安全指導者資格の講義のなかでお話ししている内容ともリンクしますので、講義内容の一端の紹介を兼ねて、そのような生徒がいる場合の指導上の留意点を検討してみたいと思います。
2.生徒同士がぶつかってけが人が生じた場合の講師や教室の法的責任
レッスン中の生徒同士の衝突は、
練習中の生徒が移動方向を間違え、同じグループの他の生徒と衝突するという場合もあれば
練習が終わった後の捌け方が悪くて次のグループの生徒に追突されてしまう場合、さらには
待機中の生徒に衝突するという場合もあるでしょう。
もちろん、まずは生徒たち自身が他の生徒に衝突しないよう、また、他の人に衝突されないように待機場所を選ぶなど、自ら注意を払ってレッスンを受けるべきです。また、自分のレベルにあったクラスに参加すべきです。
一方、自らのレベルに合わない上級者向けクラスに参加してセンターレッスンで立ち往生しても気にも留めなかったり、適切な捌け方を知らなかったりして他の生徒と衝突する危険を現に生じさせている生徒に対して講師が適切な注意せず、その結果、その生徒が他の生徒にけがをさせたような場合、その生徒のみならず、受講者に対し安全配慮義務を負う講師や教室もその衝突の回避義務を怠った過失があるとして、そのけがについて賠償責任を負う余地があります。生徒を守るためにも講師自身や教室を守るためにも、そのような事態が起きないよう、一定程度踏み込んだ注意を具体的に生徒に与えるのがよいだろうと思います。
3.大人初心者が陥りやすい問題とその対処
(1)捌け方
初心者には「捌け方」は意外とわかりにくいものです。そもそも、自分の練習が終わった後に直ちに捌けるのが大事だということを認識できていない生徒もいます。
グランワルツをスタジオの真ん中あたりで終わってから1カウントほどたたずむ生徒、待機場所までショートカットで移動するために(前方や斜め前方ではなく)自分の真横方向に直進しようとする生徒に時折、遭遇します。アレグロ終了後に逆走した人を見かけたこともあります。ただ、悪気があってのことではないのが大半かと思います。アレグロ逆走に関しては、おそらく大人数でのアレグロの練習をしたことがなく、自分の後ろからどんどん違うグループが出てくるという経験をしたことがなかったのではないかと推測してします(さらにいえば、前方に抜けて正面に向かってしまうことを講師に対して失礼と思ってしまっていたような気がします。)。いずれも、事前に具体的な捌け方、要するに、自分の番が終わったらすぐに移動を開始すること、前方ないし斜め前方に捌けることを教われば、一定程度は防げることではないかと思います。
(2)待機場所
グランワルツの折返し場所や終着地点付近など、練習中の生徒のために空けておくべき場所で待機する生徒を見かけます。右が終わって左を行う前の待機中、アンシェヌマンの復習を熱心にしているうちにスタジオの中央に向かってはみ出してしまう生徒に遭遇したこともあります。
講師の方には、待機中の生徒は練習中のグループが使う可能性のある場所には立ち入らないよう声掛けいただけるとありがたいです。それでもはみ出してくる生徒がいるとしたら、その生徒は他の生徒がどこを通るのかを正確に想像ができていないので、より具体的な指示(このアンシェヌマンであればこの位置までくるからここから中には入ってはいけないなど)が必要になってきます。
(3)並び方やグループごとの人数
移動を伴うアンシェヌマンで、方向や移動距離を同一グループ内できちんと揃えるのは初心者には無理なことです。特に回転を伴う場合は方向感覚を失いやすく、初心者は自分がどの方向を向かっているのかをつかめないことや、移動したいと思っている方向と異なる方向に移動してしまうことがよくあります。また、同じパでもレベルに差があると移動距離がまちまちです。初心者は移動したくとも大きく移動できないため、上級者と同じだけ進むことはできません。
また、気を付けていても、うっかり方向を間違えて移動してしまうこともあります。
特に初心者向けのクラスではミスがおきても衝突しにくいように生徒を配置するのが一番でしょう。隣の生徒との距離をある程度確保できる少なめの人数にグループ分けしたり、アレグロでは横一列ではなく二段に並ばせたりといった対処も有用かと思います。
(4)レベルにあったクラスへの参加(2023/1/5追記)
センターレッスンで頻繁に立ち往生したり、焦りや緊張で周囲の状況を適切に把握できなくなったりする(アレグロでの逆走とか)のは、そのレッスンが生徒にとって難しすぎるのが大きな要因でしょう。
基本的には自分のレベルにあったクラスに参加すべきです。自らのレベルをはき違えていたり、たとえレベル違いを認識していても気にせずにセンターレッスンに挑戦して渋滞を引き起こしたりする生徒がいれば、基礎的なクラスに参加するよう促すのも講師の方にはご検討いただきたいところです。
他方で、クラスのレベル設定と内容に乖離が見られることもあります。「基礎」「入門」「初級」といった名称、あるいは「経験年数2,3年程度以上向け」と謳われているクラスに参加してみたら、全然、基礎でなかった(子どもの頃から長くやっている生徒でないとついていけないくらいの難しさ)ということもあります。講師の方には、自分にとって簡単かどうかという主観ではなく、クラスのレベル設定にきちんとあったパを用いてアンシェヌマンを組んでいただければと思います。
4.最後に
特に若い講師の方にとって、自分より一回りも二回りも年上の生徒にマナー上の注意をしにくいというのはよくわかります。また、大人になってからバレエを始めた人のなかには、謙虚に習う姿勢がなく、サークル活動のノリで参加したり、お客様気分でいるために講師の注意に抵抗を示したりする人もいると想像します。
ですが、バレエ講師や教室には適切なレッスンを提供する義務がある分、迷惑行為をする生徒の受講を断る自由も権限もあります。きちんと注意をする、適切なレベルのレッスンを受講するよう指示する、それらの指示を守ろうとしない生徒には、場合によっては受講を断るという毅然とした態度も、多数の生徒の安全、さらには講師自身やバレエ教室を守るために大切です。