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バレエの発表会と著作権~振付け編

バレないだろうと思って著作権侵害をしてしまっているのか、そもそも、著作権侵害をしている自覚もないまま踊っているのかはわかりませんが、X(旧Twitter)を眺めていると、どうも一部(と思いたい)の界隈で、バレエ作品の著作権を完全に無視した無許諾上演が頻発しているようです。そういえば、私も、アマチュアの女性が発表会でプロの男性ダンサーとマクミラン作品のパドゥドゥを踊っているのを見たことがあります。

著明な作品で映像や舞台で目にする機会が多いと、自分がそれを踊ることへの問題意識が薄れるのかもしれません(私はこの現象を内心、「勝手パブリックドメイン化」と呼び習わしています。)。

そこで、アマチュアの愛好家にもバレエ指導者の方にも知っておいてほしい著作権の話をQA形式でまとめてみました。


Q1 バレエの作品は著作物ですか

著作権法で「舞踊」が著作物の一例として示されているように(著作権法10条1項3号)、バレエの振付けも著作権の対象となります。

普段のレッスンのアンシェヌマンや、パの単純な組み合わせにとどまる場合(シェネの連続とか)はともかく、数分程度の作品であれば著作物と認められるでしょう。

詳細は、以前にアップした記事をご覧ください。

Q2 著作権のある振付けを発表会で踊ることはできますか

著作権者の許諾を得れば、発表会で踊ることはできます。

いくら身内や友人だけが見に来ているような小規模な発表会でも、不特定または多数の人の前で踊るので、「上演」に当たるといえます。許諾を得ずに上演するのは原則として著作権侵害です。

Q3 著作権侵害をしてしまうとどんなペナルティがありますか

損害賠償請求される場合があります(民法709条、著作権法114条以下参照)。著作権者は、本来は上演1回あたり●万円といった使用料を得ることができるのにそれができなかったわけですから、使用許諾料相当額が損害といえます。

有名で人気のある振付けほど使用許諾料相当額は高額になると思われます。古い話ですが、1990年代に都内でベジャール作品の無許諾上演がされてしまったとき、裁判所は、「アダージェット」の無許諾上演1回あたり30万円、「我々のファウスト」無許諾上演1回あたり15万円の損害賠償を命じました。

仮に著作権者が無許諾上演に気づいたとしても、賠償金の回収の手間とコストを考慮して放置する場合もあるでしょう。しかしながら、決して利用を許されているわけではありません。振付家に対するリスペクトのない行為であることは間違いありません。

Q4 アマチュアの発表会に使う場合でも許諾をもらわなければいけませんか

はい、そのように考えてください。

著作権法には、営利を目的としておらず、観客から料金を受け取らず、かつ、出演者に報酬が払われない限り、著作物を無許諾で上演することができるという規定がありますが(著作権法38条1項)、非営利性は厳格に解釈されています。

たまに「観客を無料で招待するアマチュアの発表会は非営利だから許諾を得ずに上演してよい」と書かれている言説を見ることがありますが、このような考え方は、非営利性の解釈が不十分だと思います。

バレエ教室が主催する発表会は営利事業である教室の運営と切り離せないものでしょう。たとえ発表会の開催がバレエ教室にとって赤字であっても営利性は否定できず、原則に戻って、許諾を得なければ著作権保護期間中の作品の無許諾上演は著作権侵害に当たると考えられます。

また、男性のダンサーに謝礼(仮にその名目が「お車代」等であっても)を払って出演してもらうことも多いと思います。このような場合、出演者に「報酬」を支払っているという1点で、非営利性が否定されます。

Q5 バランシンやマクミランなどの有名な振付家の作品はともかく、プロの振付家ではないバレエの先生の作品であれば許諾をもらわずに上演してもよいですか

そんなことはありません。たとえ普段は教えがメインで振付家として活動していない人の作品であっても、著作権は発生します。

著作権が発生するかどうかは、その人の属性(振付家として著明か、とか、振付けで収益を上げているか等)とは関係がありません。作品の善し悪しとも別の話です。

Q6 プティパなどの古い作品であれば、発表会に使ってもよいでしょうか

はい、著作権の存続期間が過ぎれば、その作品の著作権は消滅しますので、自由に上演して差し支え有りません(現在の著作権法では著作者の死後70年間。以前は50年間でした。)。

ただし、改定作品には注意してください。改訂部分に新たに著作権が生じえます。そして、その改定部分の著作権は原振付の著作権が消滅しても残ります。プティパの原振付はパブリックドメインですが、改訂した人が生存している場合や亡くなってから年数が経っていない場合、改訂部分の著作権は残っています。

Q7 振付家の方に教室の発表会のための小作品をつくってもらいました。生徒に振り渡しをしてみたところ、振付けの一部が難しすぎました。教室の発表会のための作品なのですから、教室の裁量で簡単な振付けに変えてもいいでしょうか

振付家の方から生徒のレベルにあわせて適宜に改変してよいと予め言われていないのでしたら、振付家と相談してください。著作者には、「勝手にアレンジするな」と請求できる権利があります(翻案権、同一性保持権)。

余談ながら、特に大人バレエの発表会で散見される勝手な改変(難しいパを省略したり、別のパに変えたり)は、上演権侵害に加えて、振付家の同一性保持権も侵害していることになります。

Q8 許諾を得られた作品を教室の発表会で上演しました。記録のために本番の様子を撮影したので、DVDに映像を保存して生徒や保護者に配布してもよいですか

映像を保存したDVDを大勢に無許諾で配布するという行為は、複製権(著作権法21条)・譲渡権(第26条の2)を侵害すると考えられます。DVDの配布を検討されているのであれば、事前に著作権者の方にご相談ください。




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