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陶芸家が壊れた器と、金継ぎについて思うこと
金継ぎ(きんつぎ)は割れたり欠けたりした器を漆で繕い、金属粉で装飾する修繕方法です。
私は金継ぎ師ではありませんが、一人の器を扱う人間として壊れたものを直して使うことが自然な世界になったらいいなという思いがあります。
毎日使っている馴染みの食器。
割れてしまった瞬間の、悲しさと焦りが入り混じった気持ちが苦手だった。
けれど金継ぎを自分でできるようになった今は、そのハプニングさえ前向きな気持ちで受け止められるようになった。
その傷さえもが自分だけの景色となることわかっているから。
壊れる前よりもっと、私はこの器を好きになる。
金継ぎとの出会い
アクセサリーばかり作っている陶芸家ががどうして金継ぎをすることになったの?と不思議に思う方もいらっしゃると思います。きっかけとなった指輪のお話を少し。
自分で焼成して作った陶磁パーツを一度割って、金継ぎをデザインに取り込んだ指輪を5年ほど前に発表しました。金継ぎをアクセサリーに取り入れることは当時まだ珍しく、百貨店での催事の一押しアイテムになったり、海外からも店で取り扱わせてほしいと話があったりした。
しかしこの指輪は、簡易金継ぎと呼ばれている金継ぎ風の技法で作ったもので、どんなに「素敵ね」と言われてもそのことがどうしても心にひっかかってしまうのでした。
アイデアには自信を持てているのに、技法の歴史や背景をきちんと理解しきれていないために、作品の説得力がなくなってしまう…。
全行程に本漆を使う、昔ながらの金継ぎでこの指輪を作りたい。
そして胸を張って「金継ぎです」と言えて「金継ぎの工程は…」と説明できるようにならなければならない。
そう思って、金継ぎの技法をいちから学び直すことにしました。
金継ぎってなんだろう?それは漆を使った手しごと。
最近よく目にするようになった金継ぎ。知ってはいても、工程を細かくご存知の方はあまり多くないかも知れません。
金で溶接するのかな?と質問されることもあるので、工程を説明すると結構驚かれることも多いのですが、金は一番最後の仕上げ、上塗りした漆が乾く直前に装飾の段階で初めて使用します。簡単に説明すると、割れた器の破片を漆を使ってくっつけて、最後に金をふりかける要領です。
欠けたところを埋めるときも、割れをくっつけるのも、金を定着させるのも漆。金継ぎと言うネーミングですが、ほんとうは全部漆を使った手しごとなのです。
アクセサリーを作ること壊れた器をなおすこと
金継ぎを学びなおすと決めてから、家中の壊れた器を片っ端から直しました。初めは指輪を作るためのただの練習だったはずなのに、器に対してこれまでとは違う、愛おしい感情が湧くのを感じました。本漆を使った金継ぎを学びなおし、それを取り入れた指輪を制作する過程で思ったことが2つ。
「壊れることは、その器を自分だけの景色に変えるチャンス」
「この楽しみは独り占めしてはならない」
自分の手元に来たからこそできた傷。この傷があるから、ここに金がレイアウトされた。作り手も想定していない偶然のデザイン。ずっと使っている馴染みの器ではあるけれど、いまこのとき、いよいよ自分のものになったんだと膝を打った。
ごめんねと思いながら丁寧に作業して、自分の手の中で息を吹き返す瞬間を目の当たりにして、心が躍った。楽しい!この楽しみを独り占めするのはちょっといけないことなのではとすら思ってしまったのでした。
金継ぎ師ではないけれど
冒頭でも書いた通り、私は金継ぎ師ではありませんが、一人の器を扱う陶芸家として壊れたものを直して使うことを自然な流れにしたいと思っています。
なによりも、なおす(生まれ変わらせる)喜びを知ってしまった身として、この行為をもっと身近なところに引き寄せたいと思うようになり、ライフワークのひとつに金継ぎを加えました。
最近こんなプロジェクトを行っています。
ご興味あるかたは是非読んでみてください。
( 追記 )クラウドファンディングはおかげさまで無事達成することができました。誠にありがとうございます。このプロジェクトで作った金継ぎキットは改良を繰り返しながら製品化しています。ご興味のある方はこちらをご覧下さい。https://lit.link/ayakoceramics
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小川文子|ogawa ayako
食に貪欲な陶芸家。
陶芸をまんなかに置いたとき、周りに派生する手仕事をなんでもやってみるスタイル。
器・料理・金継ぎなどジャンルを横断した活動を行っています。
陶磁によるアクセサリーも。
ONLINE SHOP | https://aceramics.official.ec/
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京都生まれ 滋賀県在住
2008 京都市立銅駝美術工芸高校卒業|2014 京都精華大学陶芸コース卒業|2016 京都市立芸術大学大学院陶磁器専攻修了|2017 アクセサリーレーベルayako.ceramicsをリリース