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《神話-15》ギリシア神話の悲劇

こんにちは。
Ayaです。
今日はヘリオスの息子・パエトンと、同じような死を迎えたイカロスについてです。

パエトン

パエトンはヘリオスの息子でしたが、彼の友人たちは誰も信じてくれません。パエトンはこれを証明するため、東の果てにあるヘリオスの宮殿に向かいます。ヘリオスは息子を歓迎し、なんでも願いを叶えてやろうと約束します。パエトンは『太陽の馬車』を操縦させてくれとねだりました。ヘリオスは後悔しましたが、軌道通りに操縦すると約束させ、息子の願いを叶えてやることにしました。
父の宮殿を出たパエトンは当初約束通り操縦していましたが、故郷の近くになると、友人たちに自慢したくて、軌道をはずれてしまいます。友人たちを驚かせることはできましたが、馬車は暴走します。このせいで世界中が火事になって、砂漠ができ、また離れすぎたところは氷に覆われてしまいました。
この状態を見たゼウスはやむなくパエトンを雷で殺します。

ルーベンス『パエトンの墜落』

パエトンの死に母や姉たちは悲しみ、木に変わってしまいました。彼女たちの流す涙が、琥珀とされています。

イカロス

もうひとりの主人公は、イカロスです。
彼の父は当時一番の技術者といわれていたダイダロスで、クレタ島のミノタウロスを幽閉していた迷路の設計者でした。しかし、テセウスがアリアドネーの助けを受けて脱出してしまうと、クレタ王はアリアドネーに知恵を授けたに違いないと、ダイダロスとその息子イカロスを迷路に幽閉してしまいます。
ダイダロスは自分の技術を注ぎ込んで、鳥の羽と蜜蝋で人間用の翼を作りました。飛び立つ前、ダイダロスは『蜜蝋が溶けてしまうので、太陽に近づきすぎてはないけない』とイカロスに注意しました。
いざ飛び立つと、イカロスは父の忠告を破り、どんどん上昇していき、ついに蜜蝋が溶け、墜落死してしまいます。

ハーバード・ドレイパー
『イカロスの哀悼』

パエトンやイカロスのエピソードは当初『神になろうとした傲慢さが招く悲劇』という解釈がなされてきました。
しかし、時代が降るに従って、『神をも恐れない勇気』のエピソードであると称賛されるようになります。
この解釈で有名なのが、伝ブリューゲルの『イカロスの墜落のある風景』でしょう。

伝ピーテル・ブリューゲル
『イカロスの墜落のある風景』
現存する作品はオリジナルではなく、初代ブリューゲルの子ピーテルによる写しとも言われている。

イカロスの伝説を当時の風俗に置き換えて描いています。
船の右下、イカロスの脚が見えますが、真ん中の羊飼いはうわの空ですし、一番目立つ手前の農民は畑を耕すのに集中していて、全く事態に気がついてしません。きっと漁師もまだ気がついていないでしょう。

『イカロスの墜落のある風景』の一部

なぜ、こんな不思議な作品が描かれたのかは当時の時代に起因します。
この作品が描かれた頃、ブリューゲルの活躍していたフランドル地方では、スペイン・ハプスブルグ家からの独立運動が始まってました。フランドル地方は当時貴重な羊毛の産地および貿易拠点であり、スペイン・ハプスブルグ家としては絶対に手放したくありませんでした。よって、粛清が行われ、独立運動家の多くが処刑されました。
『イカロスの墜落のある風景』はこの粛清を暗示していると言われています。作中の人々は変事に"気がつかない"のではなく、"見ないようにしている"のです。当noteでとりあげたスターリンによる粛清もですが、"関わらないこと"が一番の身を守る術なのです。
しかし、フランドルの人々が彼らの死を忘れていたわけではありません。この作品が描かれたおおよそ90年後の1648年、オランダは念願の独立を果たしました。イカロスたち、独立運動家たちの願いが達成されたのです。

今回は短いですが、ここまでとします。
『イカロスの墜落のある風景』はとても不思議な作品ですね。描かれた当時の情勢を知ると、さらに興味深く感じられる作品です。
次回はギリシア神話中最大の悲劇オイデュプス王について取り上げます。

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