それって妄想?それとも現実?
前回は、幻覚の話をしました。
今回は、同じく精神疾患の症状のひとつである、妄想の話をしてみたいと思います。
妄想っていうと、「こうなったらいいのにな」とかいう壮大なイメージのことを思い浮かべるかもしれない。
けど妄想の定義って、大辞林によると、実はこういうこと。
根拠のない誤った判断に基づいて作られた主観的な信念。統合失調症・進行麻痺などで特徴的に見られ,その内容があり得ないものであっても経験や他人の説得によっては容易に訂正されない。
あり得ないもの…と言われると、ずいぶん大げさな内容で、現実では考えられないようなものと思われるかもしれない。
でも、患者さんが語る妄想の内容を聞いていると、実はそうでなかったりもするんです。
例えば、とある患者さんの妄想内容。
自分は結婚していて、子供が何人かいて、この住所に住んでいるんだと具体的に話す。
けれど本当は結婚なんてしなことなくて、子供がいたなんてこともなくて、身寄りは自分のきょうだいだけ…なんて現実があったりするのだ。
その人の病状と経過を知らずに話を聞くと、「あぁ、そうなんだ」と聞き流してしまうような内容なんだけど、これも病気が作り上げた妄想なんです。
妄想っていったって、それを持ってても幸せに思ってるんならいいじゃないって、思ってしまいそうなところ。
でも、持ち続けた妄想が、現実じゃないと突きつけられたとき。患者さんはものすごく不安定になる。
今、私たちが目にしている現実が、「実は嘘だったんだよ」って言われるのと同じくらいの衝撃を、患者さんは受けてしまうから。
患者さんの妄想に対して、「否定しない、肯定もしない」というのが、接する上でのセオリーだとよく言われる。
けれど、それを妄想だと気づかないまま社会で生活することも、困難だったりするのだ。
患者さんの持った妄想を、そのままにしておくのか、それとも何らかの形で気づかせるのか。
そこが、患者さんの治療を進めていく上で、難しいことのひとつなんだと思う。