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神経科学を学びたいけど、どの学科に行ったらいいんだろう?を考察する

神経科学は分子、遺伝子、異なる解像度の神経活動、個体の行動と行った幅広いレイヤーを扱い、それを研究するツールも分子生物学から生理学、機械学習や画像解析など多岐に渡ります。そのため神経科学を学びたいと思った時どの学科に行けばいいのかについては1つの答えはありません。

東京大学には、進学振り分け制度と言って学部2年生の時に進学先を選べる制度があります。しかし私を含め多くの学生が教養課程で神経科学に興味をもち「神経科学を学びたい、研究したい」けど、どの学科に進学すればいいんだろう?と悩んでいた記憶があります。

私はいろいろ悩んだ結果、理学部生物学科の人類学コースを卒業していますが、学部に入った後にあぁこの学科にすればよかったな〜と思ったりした選択肢を書き出しておこうと思います。

ちなみに東大に限らず、一般的に、脳科学の中でもどんなことに興味を持っていたらどの学科がおすすめなのかについてはこちらのサイトが参考になるかと思います。

この記事では一般論ではなく具体的な学部について中から見た印象を話したいと思います。

※卒業して数年経っているので中の状況は変わっているかもしれません。著者の独断と偏見であることを念頭において読んでください。
※他にもこんな学科で神経科学が学べるよ、という意見がある方はコメント等で教えてください!

知ってる範囲の選択肢

※以下の学部は東京大学の学部を想定しています

理学部生物学科
・生物学の実験の基礎を学べる一方で、実験・観察・スケッチの時間が長い(共通)
・解剖や医学部と共通の授業で基礎の人体の生理学が学べた(人類系)
・霊長類や進化について学べた(人類系)
・(退官等で今はどうか不明)電気生理学の実習ができた(生物系)
・動物実験系のシステム神経科学を志している人(私の代4人、下の代に3人)も進学していたけれど、ニーズがあまり満たされていなかった感あり…

薬学部
・池谷研など有名なシステム神経科学の研究室がある
・ウェット実験中心・実習が多いイメージ
・研究室に対して学生が多いイメージ

工学部機械情報系
・数学やプログラミング系の課題が大変らしいが、後々必要になるスキルなので強制的に勉強できるというのは強み
・一部神崎研などが神経科学をやっているが関係ない研究室がほとんど
・ロボティクスや、ブレインマシンインターフェース・人工知能寄りの研究に興味を持っている人にはいいかも

※追記:計数は確かに伝統的にニューラルネットワーク、計算論的神経科学が強いイメージです。具体的に今どうなのかはあまり知らないです。

駒場の認知・文学部の心理
・言語や人の認知科学や心理寄りの研究テーマに興味があるなら合いそう
・駒場の認知にはfMRIや非侵襲脳刺激などのラボもある

※追記:Twitterで補足情報をいただきました!知らなかったのですが、こんなに充実していたのですね!

医学部
・かなり強いシステム神経科学の研究室が複数ある
・大学入試でも進振りでも学部で入るのは大変
・医学や臨床等が中心となる、精神疾患に興味がある人には良いかも
・学部はあくまでも医師免許を取るところあので、神経科学興味あっても普通に臨床医として働く人も多い(一部大学院に戻って研究する人も)

こちらも健康総合科学科に関する補足情報をいただきました。

教育学部身体運動コース
・運動学習の野崎先生や強化学習の森田先生がいる
・学部のカリキュラムについてはあまり知らないけど学部が主催する体験活動プログラムに参加し、強化学習のプロジェクトをやらせてもらった

こうしてみると、動物実験でシステム神経科学(実験系作って神経活動とって数理モデルも使ってゴリゴリ解析)を志している人が行けるところがあまりなく、どこに行っても体系的に神経科学を学ぶというよりは既存の学問体系に合わせて一部神経科学も学べるかな?ぐらいの感じです。

そのためか、システム神経科学を志していた東大の知り合いの多くは他の研究分野に移った人や、留学や他の研究機関に移った人も多かったように思います。

とまぁ批判みたいになってしまいましたが、私は理学部生物学科楽しかったですし、卒論は久保研所属だったのですがメダカの行動と遺伝子の関係を研究していた竹内先生(現:東北大学)のグループで、実験の組み立て方など基礎的なことを学べて、行動実験等の経験もできたので、今となってはあまり自分の選択は後悔してないです。「理学部」って響きがかっこいいし!笑(そこ?)

ただやっぱり、行動と神経活動を計測して、数理モデルを使って解析みたいなことができるプロジェクトに関わる機会が私がいた頃の理学部にはあまりなかったのでその部分のフラストレーションは常にあり、理学部にいた当時は他の学部に行けばよかったのかなぁ〜と考えたこともありました。

仮にもう一度やり直すなら

仮にもう一度やり直すなら、工学部でもっと数学やプログラミングを強制的にやるイベントを経験しておくと、神経科学で数理モデルを作ったり、解析プログラムを書いたりするときに便利だったかなと思います。ウェットの経験という意味では難しいのですが。

また、職の安定性を保ちつつ研究職も目指せるという意味では医学部はやはり最強です。学部の時から基礎の強い研究室に潜るのは有効な手立てだと思います。そして精神疾患を扱うなら医師免許があったほうが特に日本では有利だと思います。(イギリスではMD持ってない精神疾患の研究者も多かったのですが、日本だと少ない印象…MD以外の臨床分野の方のアカデミアでの地位がもっと上がるといいなと思います。)

とまぁ、別の選択肢を選んだところで一つの学科で体系的に神経科学を学ぶのは難しいと思います。当時もそのように感じたので、自主的に本や論文を読む勉強会を他学部の友人とやったり、学外のスクールに参加したりしていました。

学科外のスクール・体験活動

ここでは国内に限りますが学科外のスクール・体験活動は以下に参加しました。
・神経回路学会主催のASCONE(計算論的神経科学のオータムスクール)
・玉川大学脳科学研究所の体験活動
・東大教育学部身体運動コースでの研究インターン
・基礎生物学研究所の体験入学
・理化学研究所脳科学センターでのインターンとサマースクール
・OISTのサイエンスチャレンジ(神経科学以外の話がほとんど)

これらを通じていろんな神経科学の研究室を知ることができ、そこで出会った人たちとのつながりは大きな財産となっています。また、私は聴講したことがあるものの全部は修了していないのですが、理化学研究所の脳科学塾は神経科学の全範囲にわたって英語で講義が受けられるので非常におすすめです!今年はオンライン開催ですので、みなさんぜひ応募してください。

紺野さんが素晴らしい体験記を書かれていて、エッセー等も公開されているのでぜひ参考にして申し込んでみてください!

既にいろんな学外プログラムがあるとはいえ、最近は国内でも神経科学専門の学部を作る重要性も主張されているようですね。

確かに、神経科学は生物系の知識だけでなく数理やプログラミングの知識も必要で、今のところ全体をカバーできる学科が少ないので、専門の学科を作ることには賛成です。私は生物学を学科で、数理モデル等を教育学部の森田先生のところ自主的に学びましたが、どちらもまだまだ精進が必要です…。

追記:神経科学の学部を作ることには賛否両論あるだろうなと思いますし、実際学部がないことで、いろんな学部出身の人がいてコラボできるのはとても良いことだと思っています。仮に1つぐらいそういう学部ができたとても基本的には今後も多くの学部から参入する形になるだろうなと思っています。

この記事では東大で神経科学を学べる学科とは?という話をしましたが、では、神経科学を専門に学べるコースってどういうカリキュラムなんだろう、というのを私が卒業したUniversity of OxfordのMSc in Neuroscienceを例にとって次の記事でお話ししたいと思います。

あとがき

Twitterで他に神経科学が学べる大学や学部の情報を募集したところ以下の意見をいただきました。

濱田さんが神経科学が学べる学部や学科、大学院をSpreadSheetにまとめる提案をしてくれました。ぜひこちらも参照してください!

追記:記事に予想以上に反響があってびっくりしましたが、同じことに悩んでいた進振り前のB2の人や院進学希望の人が見てくれたようで、書いてよかったなと思いました。いろんな角度からの情報提供本当にありがとうございます!知らない情報が次々出てきて良かったです!

現状興味を持った学問領域とうまくマッチングできてない例があって、在学中に毎年何人か神経科学を学びたいけど学部選びに迷っていた人を見かけたので、情報提供や透明化が進むといいな~と思っています。濱田さんが先導してくれたSpread Sheet等がいい感じに活用されますように!!

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