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月と6ペンスとマーライオン
「好きな作家は誰ですか?」と聞かれたらまず真っ先にモームを挙げる。
私が初めて「作品に救われた」と感じたのは、モームの小説を読んだ時だったから。
ウツがどうにも酷かった時期、何より苦しかったのは漫画が描けなくなってしまったことだった。
何かを描きたい気持ちはあるのに、筆を執っても手が動かない。
自分なんかが描いたものは面白くないに違いない、そもそも「面白い」という気持ちが全くわいてこないから、なにが面白いのかもわからない…そういった思考がとめどなく沸いてきて、30年以上続けてきた絵を描くことが本当に怖くなってしまった。
描きたいけれど描けない、そして描くことすらできない私には価値がないというの思いで押しつぶされそうになっていた私がものすごく共感したのが、モームの『月と六ペンス』に登場する主人公だった。
物語は、平凡な勤め人だった主人公が突如絵を描くことに目覚めて、家族を捨てて画業に走り…という展開なのだけど、作中には「I've got to paint(描かなければ)」というセリフが出てくる。
安定した仕事とあたたかな家庭を捨てざるを得ないほどに彼を掻き立てる「描くこと」への衝動と、描いても描いても満たされない渇望に、当時の私は物凄く共感し、自分のことが語られているように感じて大きな癒しを得ていた。
ウツの底にいた時は、寝ている以外なんにもできなかったので、目が覚めたらひたすら横になって本を読んでいた。
なにか読んで頭を一杯にしていないと、恐ろしい自傷の思考が沸いてくるからだ。
当時どうしてモームを手に取ったのかは覚えていないのだけど、自分とは時代も場所も隔たっていながら、共感と没頭を与えてくれるモームの作品は私にとって素晴らしい救いの場所だった。
日本語で手に入る本は片っ端から手に入れて読んだし、その後回復してからは実際に英国に赴いて英語の原書をたくさん買って、少しずつ読んできた。
超絶売れっ子でありながら、最期まで「愛する人からは生涯愛されなかった」との鬱屈を抱えたモームは私の憧れであり、なれるもんならこんなふうになりてぇなぁと願い続けている作家のひとりである。
…で、なんで今このタイミングでモームのことを思い出したかというと、シンガポールなのだ。
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