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メリッサ先生の大切な友人~シリアへ願いをこめて~

【あやかんジャーナル 配信8】

Hey, What's up?
It's Ayaka.
岡本アヤカです。
今日は私が暮らすシェアハウスの大家さんについて、語ろうと思います。
大家さんの名前はメリッサ・ナガノさん。日系人で、ニューパルツで准教授をしています。なので大家さんのことは、メリッサ先生と呼んでいます。
メリッサ先生は昨日、43歳の誕生日だったので、ハウスメイトのジョアンヌと一緒に先生の誕生日を祝いました。
私は日本から持ってきたカレールーで、簡単なカレーを作っただけなんだけど、先生から予想以上に喜んでもらえて良かった。
だけど、先生が喜んでいたのは、それだけじゃない。遠くにいる大切な友人からオンタイムでメッセージが届いたから。アイパッドを見つめる先生の顔が、ぱっと明るくなったのを見て、私は「本当にその人はただの友達なの?」と思った。疑うとまではいかないけれど、きっとその人はメリッサ先生にとって、友達以上に大切な存在なのかな、と想像したりした。

メリッサ先生の大切な友人は、有名な作家さんだそうです。
名前は、ハビエル・ゲレロ

ハビエル・ゲレロさんは名前から分かるとおり、ヒスパニック系の人です。ハビエルさんはアリゾナ育ちのアメリカ人だけど、今は世界中を駆けまわり、そこで見たこと聞いたことをテーマに、小説を書いているそうです。
ただ、ハビエルさんが訪れるのは、紛争地ばかり。「世界中で起きている悲劇から、目を逸らしてはいけない」という強い信念のもとに、取材をしながら本を書く。いわゆるアクティヴィスト的な作家さんです。

ハビエル・ゲレロさんが、今、滞在している場所はシリア
長い間シリアで独裁をふるっていた、アサド政権が倒れたばかりの国です。多くの国民が長い間、苦しんできて、やっと解放された。自由が手に入ったとは、まだとても呼べない状況ではあるけれど、とりあえず、今まで隠されてきた多くのことが、徐々に明るみになってきている。

独裁と言われるアサド政権が、先日、突然、終わりを迎えた

ハビエル・ゲレロさんによれば、アサド政権が崩壊したことで、真っ先に解放されたのは、囚人たちだという。囚人といっても、犯罪者でも何でもなくて、過去にアサド政権を批判する抗議デモに参加したり、政権に反対するコメントをしただけの一般市民が、強制的に牢屋に入れられたんだ。それも10年、15年も投獄されて、その間に、何万人という収容者たちが、処刑されたり拷問にあったりしてきた。

シリアの刑務所で行われてきたことは、
過去にナチスドイツがユダヤ人にしたようなことと、そっくりだと言われている。

シリアの収容所で何が行われてきたのか、外にいる人たちは、これまでほとんど知らされてこなかったそう。「何か、とてつもなく酷いことが、行われているらしい」とは、みんな薄々予測してはいたけれど、具体的に、いつ誰が、どのような酷いことをしたのかについて知ったのは、つい先日のことなんだ。アサド政権が崩壊して、収容者が一気に解放された。看守役だった人たちは、慌てて遠くに逃げて、どこに行ったか分からない。
長かった収容所生活をなんとか生き延びて、家族のもとに帰った収容者たちは、今ようやく、これまで何が起きていたのか語れるようになったんだ。

独裁と対立が長いこと続いたシリアは、これからどこへ進むのか、
世界中のみんなで見守りたい

ハビエル・ゲレロさんは作家として、収容所サバイバーたちの証言をもとに、小説を書こうとしている。
想像を絶する拷問や暴力というものは時として、ドキュメントにするのは難しいことがある。事実を忠実に書くことで、被害者をかえって傷つけてしまうことがあるからね。だって、そもそも、抗議デモに行っただけで逮捕されて、投獄されたのが始まりだったんだ。そこから十何年も、狭い牢屋に閉じ込められ、不衛生な環境に置かれ、家族とも連絡を絶たれた。さらに数々の暴力行為にさらされて、命を落とした人も多くいた。

今、政権が崩壊して、やっと色んなことが明るみになったけれど、知れば知るほど、驚くことばかり。私がいちばん驚いたのは、ついこの前まで、それが続いていたこと。
私が高校を卒業して、世田谷の家からこのニューパルツに留学するために、TOEFL受験したり、TOEIC受けたり、アメリカ大使館にVISAの申請に行ったり、スーツケースに荷造りしたり、飛行機のチケット取ったりしていたすべての時間、シリアでは激しい拷問や不当な収容が続いていたんだと思うと、とても同じ時間を生きているとは思えない。

村上春樹が「パラレルワールド」という言葉をよく使うけれど、まさに、地球に流れる時間は、同じではないんだね。
私が東京の高校で楽しく過ごしていた時、ニューパルツに来てから大学で勉強したり、シェアハウスに友達を招いたりしていた時、地球の反対側ではシリアのようなことが起きていた。そう思うと、自分が知らなかったことが、それだけで何だか後ろめたく感じる。
ハビエル・ゲレロさんは、きっと、地球に流れる「違う時間」を少しでも「同じ時間」に近づけるために、時間の橋渡しをしているのかもしれない。

ハビエル・ゲレロさんの小説を、たくさん読んでみたくなったよ。



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