ヴァージン・カクテルの意味わかる?
【あやかんジャーナル 配信5】
日本のみなさん、こんばんは!
今週も私、岡本アヤカがニューパルツからお届けします!
自分で言うのもなんだけど、私、こう見えても真面目で、アメリカに来てから、毎日すごく勉強しています。この前終わったばかりの、初めての中間試験も、オールA取ったんだよ。
だ、か、ら、
金曜日の夜だけは、大目に見てほしい。
田舎町の穏やかなメインストリートは、金曜の夜になると、とたんに雰囲気が変わる。昔の世代の言葉で言うと、「みんなでフィーバー!」みたいな感じに様変わりするんだ。
ニューパルツに30年前からある双子のバー
メインストリートの中心街に、変わった名前のバーが、2軒あるんだ。2軒は通りを挟んで向かい合っていて、ひとつは、「P&G]という洗剤みたいな名前のお店で、もう片方は「マクギリカディーズ」という、読み方も発音も難しいお店です。
2軒とも、店構えも、店内のインテイリアも、出してくる料理のメニューもそっくりなので、双子のバーと呼ばれているんだ。
2軒とも、昼間はふつうのレストラン。提供される料理は、ザッツ・アメリカンフードって感じの豪快でシンプルなものばかり。しかも、どちらがどちらのお店のメニューか分からないほど、似ているんです↓↓
金曜日になると、2軒のバーはこぞってカラオケ・ナイトを開催します。9割がニューパルツの学生であるお客さんが、大勢やってきて、みんなで盛大に踊るんだ。しかも店員さんも一緒に踊る。いいや、店員さんの方が、私たち学生より、ダンスがうまくてリズム感も卓越してる。しかも、カラオケが超うまい。当然ながら、日本のカラオケとは全然違っていて、ひとりが大勢の前で堂々と歌い、それに合わせて大勢が激しく踊る。1曲歌い終えないうちに、次の人にマイクが回されると、それを受け取った人は同じようにする。それを夜が明けるまで繰り返す。
学生たちは、ストリートの交差点を何度も往復しながら、双子のバーを行き来する。あちらのお店に行っては、こちらのお店に戻ってくる。カクテル片手に、全身でステップを踏みながら。ちょっとしたカーニバル気分になれるこの狂想は、金曜の夜と土曜の朝の境界線を滲ませていくんだ。
ニューパルツのこういうところが、私は最高に好きだ!
私はバーで、必ずヴァージン・カクテルを作ってもらいます。ヴァージンとは「アルコールが入っていない」という意味なんです。ピニャコラーダも、ストロベリー・ダイキリも、モスコミュールも、どんなカクテルだってアルコール抜きで抜群の風味が出せるのだと、双子のお店のバーテンダーたちは自慢げに言います。
私のお気に入りは、ヴァージン・ミドリ・メロン。「ミドリ」というリキュールは、日本のメロンソーダをイメージして発案されたものらしく、ニューパルツにいながら、日本のことを思い出してちょっと懐かしい気分に浸れるんだ。
踊ったり、歌ったり、飲んだり、懐かしさに浸ったり……。金曜日の夜は、色んな感情が自分の中でくるくる周る。もう最高!
こんなに楽しい金曜日なのに、ハウスメイトのジョアンヌは一度もバーに来たことがないんです。真面目なジョアンヌは、こういう雰囲気の場所が苦手なんだよね。誘うたびに、拒否られるのは仕方ないにしても、毎回こういうジェスチャーをされるのは、ちょっと傷つく↓↓
秋になり、サマータイムが終わってしまうと、とたんに夜明けが遅くなる。月明りしかない朝の6時、私はたいてい誰かに家まで送ってもらいます。この前は、面白い車を運転する男子に送ってもらったよ。彼は上級生で、軍人が乗るようないかついジープを運転していたのだけれど、彼のジープは窓ガラスがすべて割れてなくなっていたんだ。
「カッコいいだろ? 俺のジープはオープン・カーだよ」
男子はどこか得意げでした。
ユーモアのある人だなと思った。
聞けば、中古車販売店で売られていた時から、窓がぜんぶなかったそうです。
「そのぶん、ディスカウントしてもらったから、かなりお得なバーゲンだったよ」
彼はそう続けました。
「自分でガラス入れないんですか?」と、私が聞くと、
「それじゃあ、バーゲンで買った意味ないだろ」
と、笑って指摘された。
確かにそうだな。
彼のジープは真っ暗なメインストリートを風を切って疾走していき、私は寒さと、頬を打つ風の勢いで息をするのがやっとだったんだ。
「あーあ、誰か俺のジープ、盗んでくれないかな?」
強風に慣れているのか、男子は悠々とハンドルを握りながら、話を続けていた。
彼いわく、窓のない車でも、しっかり保険には加入しているから、もしも車が盗難被害に遭った場合は、保険金がおりるのだという。
「盗んでくれたら、新しい車が買えるのになあ」
今、全米で、車の盗難と車内荒らしが頻発しているけれど、俺のジープだけは必ず被害を免れるのだと、彼はぼやいていた。
ああ、私はこういうふうに、ぶっ飛んでいて面白い人が、心底好きなんだな!
そう、自分自身に気づかされた夜明けだったよ。