とても自由なアメリカのひどく不自由な現実
【あやかんジャーナル 配信4】
Hey, What 's up? 岡本アヤカです。
今日は、私がニューパルツでいちばん好きな場所をご紹介するね。
それは、大学の中にある「アトリウム」という場所。下の写真のガラス張りの部分が「アトリウム」と呼ばれていて、ガラスのピラミッドです。
別の角度から見ると、こんな感じ↓↓ 灰色っぽい校舎が建ち並ぶキャンパスの中で、ここだけ突然、ピラミッドが出現したみたいで、このなんだか浮いている感じが好きなんです。
こんな見かけをしているのに、ここは学生課で、大学のインフォメーションセンター的な役割も担っているんだ。
建物の中はこんな感じ↓↓
ね、きれいでしょう?
私はよくここで、動画の配信をするんだけど、ここを選ぶ理由は、なんと言っても映えるから。よく晴れた日はモーホンク・マウンテンも遠くに見晴らせて、眺めは最高です。
居心地の良い場所だから、多くの学生たちがここに集まります。
8月にニューパルツに来たばかりの頃は、よくここでみんなの話にこっそり聞き耳を立てたりしながら、ネイティブの英語の表現を学ばせてもらいました。時期的なこともあって、学生たちが話す話題の9割が、大統領選挙のことでした。ハリスとトランプ、どちらを支持する?みたいなやりとりが、飽きることなく毎日繰り広げられていたんだ。
私はアメリカの選挙権がないから、話に入っていくこともできず、ちょっともどかしい思いをしながら、でもみんなの考えを知りたくて、ひたすら全神経を耳に集中していた。
それで、なんとなく、気づいてしまったことがある。
みんな、誰も本音を言ってない!
よく、アメリカ人はストレートにものを言う、と言われるけれど、確かにしゃべり方はストレートなのだけど、心の中は明らかに別のことを思っているみたい。
1時間も白熱したトークをしながらも、結局、この人たちの本心ってどこにあるのだろう?と私は何度も首を傾げるしかなかった。
シェアハウスの大家さんで日系人のメリッサ先生と、ハウスメイトでアフリカ系のジョアンヌは、その点、とても明快で裏表のない人たちなんです。日系人のメリッサ先生は、これまで教育を受けてきた環境が、民主党カラーの強いものだったそう。先生ははっきりと、
「カマラ・ハリス以外に選択肢はありえないわ。アメリカに初めての女性大統領が誕生するのを、この目で見たいわ」と力強く言うんです。
ジョアンヌも同じようなもので、彼女は母親の影響で民主党支持者になったそう。ミシェル・オバマを勝手に心のメンターだと思っているらしい。母娘で特定のファーストレディをそこまで好きになるなんて、私にはちょっと想像できない世界だけど。
ふたりにトランプの悪い所を訊ねたら、ディナーのお皿が空になるまでずっと答えてくれる。あの男がいかに悪人で詐欺師で犯罪者で、アメリカにとって悪夢しかもたらさない存在であるか、もうこれでもかと、汚い悪い言葉のオンパレードで教えてくれる。それでも彼女たちには、彼女たちなりのロジックと信念があって、それはふたりがこれまで受けてきた教育や、育った家庭環境に裏打ちされたものだから、トランプ批判にも一定の説得力を感じるんだ。
メリッサ先生やジョアンヌに比べたら、「アトリウム」に集う学生たちの政治トークは、なんだか薄っぺらいものに感じた。トランプを擁護する言葉も、ハリスを酷評する言葉も、まるでどこかから借りてきた表現みたいで、オリジナリティがなく、フレーズも一辺倒でした。ひとり一人違う学生たちなのに、みんなが似たような表現をすることに、私は気持ち悪ささえ覚えたんです。
日本人の私にとって、英語は借りものの言葉だから、英語ネイティブのアメリカ人が、そんな借りものの表現を平然と使っていたりすると、私は敏感に違和感を察知するんだよね。
そんな周囲のトークをモヤモヤした気持ちで聞き続けて、徐々に分かってきたことは、ああ、みんな、ほんとうは自信がないんだろうな、ということ。
口ではトランプを批判しても、心の中では「でも、もう彼に任せるしかないんじゃないの?」と迷っている。
民主主義を守るハリスを応援するんだと、威勢よく息巻いても、胸の奥では「正直、どちらが大統領になっても、今のアメリカは変わらないかも」と頼りなく感じている。
でも互いに誰も、そうした胸の内の葛藤を議論では見せられないから、結局、借りものの言葉合戦に終始する。
みんな自分が表明した支持政党からブレたくないから、本音よりもポジショントークの方を守っているように見えた。
なんか、アメリカってすっごく不自由だな。
そう思いました。
どうしてアメリカ人って、支持政党にそこまで自分のプライドや体裁をかけるんだろう?
この国は「分断」していると、ニュースでよく言われるけれど、分断させているのは、ひとり一人のみんなだよ。
みんな普段、お化粧もしないし、何日も同じ汚れたジーンズを大学にはいてくるし、髪を3日も洗わない人さえいる。もう少し体裁を気にしたら?と思うほどなのに。
日本だったら、たいていの人は服装を気にするけれど、特定の政治家を支持するかしないかで、こんな状況にはならないはず。
体裁の置き所が、アメリカと日本ではずいぶん違うんだな、と考えさせられた日々でした。
トランプが大統領に再選された今、状況は少し変わった。
多くの学生たちがまるで合言葉のように、「びっくりだね」と言うようになったんです。ニューヨーク州は、民主党支持基盤のいわゆる「青い州(Blue State)」。それが、トランプをリーダーにして、上院・下院とも共和党が占めるトリプルレッドの状況になった。
「How could it happen? (どうして、こんなことが起こり得るわけ?)」
こういうフレーズを、多くの学生たちが大きな声で同じように言って、同じような大げさなジェスチャーをするのを見聞きするたびに、私はHow could it happen?なんて、本音では思ってないくせにと、白けてしまうんだ。
結局、内心では、みんなホッとしているんじゃないかな?大統領が決まったことで、何ヵ月も続いたこの激しい政治論争に、やっと幕を下ろすことができた。大学は穏やかになった。とりあえず次の選挙まであと4年は、論争しないで静かに過ごすことができるしね。
選挙のあとの夜の「アトリウム」は美しかった。