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アメリカでホームレスの友達を助ける

【あやかんジャーナル 配信7】

What's up? How's going? 岡本アヤカです。
前回、6回目の配信で、私に新しい友達ができたことを皆さんにお伝えしました。あれからずっと毎日、どうやって友達を助けようか考える日々です。

友達の名前はオーランド・シュナイダーといいます。私と同じコンピュータサイエンス学部で、ドイツ系の白人のクラスメートなんですが、彼は車の中で暮らす、いわゆる車上生活者なんです。ただ、彼の車は普通の乗用車ではなくて、キャンピングカー。キャンピングカーで暮らすなんて聞くと、今流行のヴァンライフ・ハッカーみたいでカッコいいと思われるかもしれないけれど、オーランドの場合はそうではない。アパートを借りるお金がなくて、そうするしか選択肢がなかったんです。
ニューパルツは田舎町とはいえ、アパートもシェアハウスも高い。大学キャンパス内の学生寮も、ドミトリーのルームシェアなのに、驚くほど高い。レントが高いと感じるのは、私が円安ニッポンから来ているからだとずっと思っていましたが、どうやらそうでもない。アメリカ人でもオーランドのように、一度転落してしまうと、物価も地価も残酷なほど高いものになります。

さて、出会ってしまったからには、彼のために何か手助けするしかない。そう思いました。袖振り合うも他生の縁と、日本語では言うでしょう? オーランドとは他生の縁以上のものを感じています。彼は白人だけど、性格と雰囲気が、世田谷にいる私の兄とよく似ているんです。

オーランドは隣町で貧困者のために配給される、食パンやじゃがいも、ハムなどで暮らしています。配給は月に1度だけで、それ以外の日はとにかく耐えている。なので、私が何か手助けをするなら、まずは食べ物だ、と思いました。とにかく何か食べられる物を彼に持っていこう、と。

アメリカの大学の中では、フリー・サンプルやスナック菓子がよく置かれている

改めてキャンパスを歩いてみると、大学の校舎のロビーには、よく色んな物品が「どうぞご自由にお取りください」と札をつけて、並んでいることが多いんです。多くの企業が若者層に向けた商品を売るために、まずはサンプル品を大学で配るからです。新商品のマウスウォッシュや、制汗デオドラントグッズをいち早く試せるのは嬉しいけれど、そうした物は食べられないから意味がありません。

スナック菓子も配られています。アメリカは配る量もふんだんで、山のように積んであります。喜んで取っていく学生もいるけれど、みんなもう見飽きた、食べ飽きたとばかりに、ロビーのテーブルに手つかずで残されていることの方が多いです。

こうしたスナックが、フリーコーナーに山と積まれています

はたして、こんなお菓子を持って行っても、お腹の足しになるだろうか?と考えました。とりあえずは、お腹はいっぱいになる。スナック菓子系はむしろ、やたらと満腹になるでしょう。だけどあまり栄養にはなりません。

貧困者ほど肥満者が多いアメリカ


よく、アメリカでは、貧しい人ほど太っていると言われます。大学や街中のちょっとした配給物品や、スーパーの一角に備えている、食べ物に困っている人向けのコーナーで破格に売られている物は、ほとんどが砂糖たっぷりのクッキーや、油で揚げたスナックなどです。
オーランドのような人がほんとうに必要としているのは、クッキーではなく食パンであり、チップスではなくじゃがいもです。

1ドルでパックにたくさん入っているクッキーは、
空腹は満たせるけれど、健康には良くない

結局、私は大学のカフェテリアで買った熱々のスープを届けることにしました。スープには色んな野菜が溶け込んでいるし、エネルギーにもなる。アメリカのスープはどれも、こってりしていてカロリー高めだけれど、同じ高カロリーでも、スナック菓子よりはずっと体にいい。寒いキャンピングカーの中で、体を温めることもできる。

マクドナルドは
貧しい人の強い味方

オーランドと出会ってから、マクドナルドについて考えるようになりました。世田谷で高校に通っていた去年までは、マックなんて学校帰りに友達とたまに立ち寄る程度のものでしかなかったけれど、こちらではマックをがっつり夕食にしている人たちがいます。それも家族の大事な夕食がマック、という人たちがいます。もちろん、いわゆる貧困層の家族です。
私はこちらに来て、日本にいた頃よりも頻繁にマックに行くようになりました。円安のせいでアメリカの外食はどこも高くて、レストランには行かれません。なので、マックに行くたびに、店内のテーブルを埋める貧困層の人たちに紛れて、私もダブルチーズバーガーを食べています。
「体に悪いよな~」と日本語で呟きながら齧るバーガーは、背徳の味がします。
もしも、このダブルチーズバーガーを家で自分で作ったら、お店で買うよりも確実に高くつきます。スーパーで売られるひき肉もチーズも高い。もちろん、スーパーのひき肉なら、バーガー20個分くらいは作れるけれど、それでも、トータルコストで見たら、カウンターでバーガーを注文する方が安いです。
マックは、その場限りの食事を安くあげる人たちの救いです。
その日暮らしをする人たちの強い味方であり、同時に、私たちをその日暮らしの生き方から、抜け出せなくさせます。
マックが紡ぎ出す、この貧困の負のループから離れるのは、よほどの努力と幸運がないと、難しいだろうと思います。

キャンピングカーの中で暮らすオーランドを助けようと思い立ったことで、私は自分もアメリカでは貧困からさほど遠くない暮らしなのだと気づきました。私の場合、理由は円安ですが、食費の節約をしようとすればするほど、最近少しずつ体重が増えていきます。
「アメリカでは健康をお金で買う」と言われますが、高くついても手作りの夕食を作れて、スーパーで野菜を買えて、マックではなく健康的なレストランに行かれるのも、すべてお金がある人だけの特権です。
歯医者で虫歯を治せるのも特権です。
オーランドのお母さんは歯科医でしたが、デンタルクリニックが廃業してしまいました。不況が続き、格差が広がるアメリカでは、保険がきかない歯医者に行かない人たちが、とても多いんです。

私は大学のフリー・サンプルで、新商品のマウスウォッシュをもらいました。2個もらって、1個をオーランドにあげました。歯医者の息子である彼にマウスウォッシュをあげるのも、なんだかなと思ったけれど、虫歯になったら大変です。食べる物を確保したら、同時に歯のケアもする。
貧しい私たちは、まるで両手で抱えた荷物をうっかり落とさないように慎重に、自分の健康を自分で守らないといけない。
アメリカのシビアさが、北風のように体に刺さります。



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