【日本人も応募可能!】ポスドク研究奨励金・マリーキュリーフェローシップ(MSCA)の紹介
この記事では博士課程の修了が近い方、またポスドク研究員として働いている方向けにEUの研究奨励金であるMSCA Postdoctoral Fellowships(マリー・キュリーフェローシップと以下呼びます)について紹介します。
1.マリー・キュリーフェローシップとは?
欧州連合(European Commission)が運営している、ヨーロッパ最大のポスドク向けの研究奨励金です。研究奨励プログラムである「Horizon Europe」という枠組みの中の、「Marie Skłodowska-Curie Actions」というカテゴリ下にあります。採択数は合計で1000人越え(2022年実績: 1,093人)、総資金は2億ユーロ以上(2022年実績: 2億185万ユーロ)のかなり大規模なフェローシップになります。ざっくりいうと日本の海外学振(海外特別研究員)の7~8倍くらいの規模と言えるかもしれません。
ヨーロッパではとても名前の知れた研究奨励金で、マリー・キュリーフェローシップに採択されているということがかなりのステータスになります。また、後に触れますが、支援額もヨーロッパの他の奨学金と比べ圧倒的に良いのが特徴です。
ヨーロッパの研究奨励金と聞くとヨーロッパ圏に市民権のある研究者しか応募できない印象を持つかもしれません。しかし、このマリー・キュリーフェローシップは国籍を問わず全世界から応募が可能なとても門戸の広い奨励制度なのです!次に実際の応募資格について細かく見ていきます。
2.応募資格
重要な応募資格は、「博士号の取得から8年以上が経っていないこと」です。研究以外を行ってきた期間(産休・育休など)は含まれません。どのような活動が年数にカウントされないのかはこちらに詳細が載っているので、興味のある方はご確認ください。また8年未満かどうか自分で確認するためのツール(Excelシート)も配布されています(ダウンロードはこちらから)
また、ポスドク向けの研究奨励金のため、「応募締め切り時の段階で博士号を取得済みであること」も条件です。卒業見込みの場合、審査にすべて通過していることが必要になり、その証明書類を用意する必要があります。
2020年までのHorizon 2020プログラム下では応募資格についてさらに細かい条件があったのですが(最低4年以上の研究経験が必要等)、2021年の募集からこれらの条件がなくなり、とてもシンプルになりました!
3.ヨーロッパ内の幅広い国で研究ができる
さらにこのフェローシップの売りは、ヨーロッパ内ならどこを渡航先にしてもいいということです。具体的には「欧州連合加盟国」または「Horizon Europe Associated Country」であることが指定されています。
欧州連合加盟国とは「オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン」の27か国です(2023年10月現在)
これに加えてHorizon Europe Associated Countryとして「アルバニア、アルメニア、ボスニアヘルツェゴビナ、フェロー諸島、ジョージア、アイスランド、イスラエル、コソボ、モルドバ、モンテネグロ、北マケドニア、ノルウェー、セルビア、チュニジア、トルコ、ウクライナ」が対象です(2023年10月現在)
また、参加状況が不確定で毎年応募のたびに確認しなくてはいけない国として「モロッコ・イギリス」があります。イギリスはEU脱退をしたもののまだEUとの交渉が続いています。2023年の募集ではイギリスはHorizon Europe Associated Countryとして認められ、イギリスを渡航先として応募することが可能でしたが、現在のところ2024年の募集がどうなるかは発表されていません。最新情報はこちら(UKRIウェブサイト・イギリス政府ウェブサイト)から確認してください。
重要な点としては、現在のところスイスとリヒテンシュタインは対象外であるということです。最新の情報は以下のリンクからチェックして下さい。
4.渡航先を選ぶ際の注意点
マリー・キュリーフェローシップが国籍を問わず誰でも応募できることには理由があります。それは、このフェローシップの最大の目的が「優秀な研究者に今までとは違う国で研究する機会を与えること」なのです。そのため、渡航先としては「応募時から遡って36カ月以内に12カ月以上を過ごしていない国」を選ばなくてはいけません。
分かりにくい表現なので例を挙げてみます。
日本で博士号を取得した。マリー・キュリーを使ってドイツで研究をしたい。ドイツには3か月間、客員研究員として2年前に留学していた。→ドイツに滞在経験はあるが、期間が12カ月以内なので応募可能
日本で博士号をとり、イギリスで5年間研究員をしている。マリー。キュリーを使ってフランスで研究をしたい。→研究希望先の国以外の滞在期間はヨーロッパ内であってもカウントされないので応募可能
フィンランドで4年かけて博士号をとり、デンマークで1年半研究員をしている。マリー・キュリーを使ってフィンランドに戻って研究を行いたい。→直近の3年間で12カ月以上フィンランドに滞在しているので応募不可
簡単にまとめると、直近に1年以上過ごしたことのある国は渡航先として指定できず、他の国を選ばなくてはいけないということです。日本を拠点としてで今までずっと研究をされてきた方なら基本的にはこの項目は問題ないと思います。
5.手厚い待遇
このマリーキュリーフェローシップが良く知られている理由の一つに、その待遇の良さがあげられます。基本の支援額は以下のように設定されています。
しかし、実際に支払われる額は物価によって国ごとに増減するので注意が必要です。主な国の換算率は2023年現在以下のようになっています。
これに加え、条件を満たせば家族手当(月660ユーロ)、産休や育休、病欠などの長期欠勤手当等ももらうことができます。このような手厚い支援を最大2年間もらえるのがこのフェローシップの最大の魅力と言えます。
5.募集時期と結果発表
毎年多少前後するのですが、おおよそ以下のスケジュールで募集と審査が行われます。
2024年の募集は2024年4月10日に開始、締め切りは2024年9月11日です。また、フェローシップが決定してもすぐに開始する必要はなく、結果発表の翌年の9月までの間で開始したい時期を選ぶことができます。
6.倍率は高い
このようなとても条件のいいフェローシップなので、倍率はどうしても高くなってしまい、採択率は15-30%となっています。採択率に幅があるのは、分野ごとに採択率が大きくことなるためです。以下の表に分野別の応募者数、採択率と合格最低点がまとめられています。EFから始まるものがヨーロピアンフェローシップ(国籍に関係なく応募できるもの)、GFから始まるものがグローバルフェローシップ(欧州の人が応募できるもの)になっています。採択率は分野によってそれぞれですが、どの分野でも合格最低点は90点以上であることがわかります。
参考までに、過去数年の結果も載せておきます。2020年以前はHorizon Europeではなく、Horizon 2020という別のプログラムで実施されていたため、分野のカテゴリがやや異なっています。
7. 応募に何が必要なの?
応募に必要なものは応募書類のみです。面接等はありません。個人的には面接がないというのは、英語が母国語ではない人・苦手意識がある人にとってはかなり応募しやすいものと感じました。他に私が検討したものや私の周りで名前の挙がったポスドクのフェローシップは書類審査の後面接を行うものが多かった印象があります。
応募書類はPart AとPart Bに分かれており、Part Aは研究者や所属機関、指導教官の情報等をまとめたものなので採点の対象にはならず、Part B(研究計画書)の内容に基づいて採択が行われます。
研究計画書はさらにPart B-1とPart B-2に分かれています。Part B-1が実質的な研究計画書で最大10ページです。Part B-2は研究者の詳細なCV、さらに所属機関についてどのような設備が整っているか等の情報をまとめ、研究計画書に述べた研究を行う環境が整っていることを示す必要があります。Part B-2に関しては枚数制限はありません(参考として、私は9ページ分書きました)。
8.研究計画書の執筆支援が充実
10ページも研究計画書に何を書くのだろう…と思うかもしれませんが、実際にはフォーマットがかなり細かく決まっており、「何を、どの順番に書くべきか」がほぼ固定されています。また、採点基準もかなり詳しく発表されているので、「何を書けば評価されるのか」がとても分かりやすいフェローシップと言えるでしょう。これに関しては次回以降で詳しく紹介していきたいと思います。
また、「この項目は何を書けばいいのか分からない」という項目にあたっても、インターネットでMSCAのポスドクフェローシップの書き方を検索すると、書き方の例や実際のサンプル、セミナー等がたくさん出てきます。これは、MSCAがヨーロッパのそれぞれの国にNCP(ナショナルコンタクトポイント)という機関を設置しており、これらのNCPが研究計画書の執筆支援を行っているためです。
特にこのNCPは研究計画書を書いていてどうしても分からないことがある時等にメールで質問することもできてとても便利です。さらに研究計画書の原稿が完成したらNCPにレビューを頼むこともできます。NCPは基本的には応募先の国のNCPにコンタクトをとる仕組みになっています(例:日本に在住していてイギリスに渡航予定の場合、イギリスのNCPに連絡)。
様々にある資料の中で、私が一番参考になったと感じたのがこの資料です。これはNCPに配布されている非公式の執筆支援ガイドで、各項目に具体的にどのようなことを書くべきか、そしてそれに対して審査委員からどのような評価が返ってきたかを実際の例を含めて説明しているものです。非公式というのは、この資料はEUから配布されているものではなく、MSCA-NETという団体から各国のNCPをサポートする目的で配布されているというものになります(国によるNCPのサポート格差を減らす目的だそうです)。
以上に見てきたように執筆にたいする支援はとても充実しています。特に今まで研究計画書を書いたことがないという方でも、応募書類を用意する中で自然と研究計画書の書き方を学ぶことができるのは魅力だと思います。また、結果発表の際にも点数だけではなく、どの点が評価され、どの点が減点されたかがきめ細かくフィードバックされるため、次に生かすことができます。
(注:結果が70点を下回ってしまった場合MSCAの次回以降の応募に制限がかかるので、最低限の準備はして応募しましょう!)
まとめ
長くなってしまいましたが、今回はMSCA・マリーキュリーフェローシップについて紹介しました。次回以降は数回に分けて、研究計画書の執筆の仕方をセクションごとに詳しく見ていきたいと思います。